燃え殻、爪切男の『キン肉マン』コラムに肉図鑑制作担当のGakken芳賀靖彦氏が登場‼燃え殻、爪切男の『キン肉マン』コラムに肉図鑑制作担当のGakken芳賀靖彦氏が登場‼

前回の本コラムで話題となった『技図鑑』(『学研の図鑑 キン肉マン「技」』)。恐怖すら感じる圧倒的内容に、いつしか興味は制作担当のGakken・芳賀靖彦氏(写真中央)へ。ということで、燃え殻爪切男が本人直撃!

●肉図鑑のルーツは、ジャンクマンとジャンプ編集部

燃え殻(以下、 僕らも『キン肉マン』愛はあるつもりなんですが。芳賀さんの作られた『技図鑑』を見ると、ここまでか!と。

芳賀 ありがとうございます。

 しかも、芳賀さんって、悪魔六騎士のジャンクマンで採用されたことがあるんですよね! 子供の頃、僕はマンガ研究会に入ってたんですけど、ずっとジャンクマンを描いてました。

芳賀 ああ、うれしい!

 ジャンクマンがロビンマスクに、逆タワーブリッジでぶっ飛ばされるコマをずっと描いてました。あのコマ、カッコいいんですよ。

芳賀 僕の中でも、あのコマは目に焼きついていて。自分の考えた超人がやられるシーンなんてなかなか巡り合えないですからね。

 僕、ラジオに投稿したりするのが好きだったんですけど、『キン肉マン』の超人募集で採用されて、その超人が活躍していくのを見ている気持ちはさすがに想像できなくて。

芳賀 超人発表があるじゃないですか。20超人くらいいっぺんに発表される中でも、話に出てくる超人と、出てこない超人がいるので。採用されたのは、天にも昇るような気持ちなんですけど、話に出るのか、出ないのかが気になって。で、マスクをかぶった6人の悪魔超人が出てきたときに、ひとりだけマントで両腕を隠してる超人がいたんですよ。「これは!」と思ったら、本当にジャンクマンで。しかも、憧れのロビンマスクと闘うとは。その上、ロビンを見たことがないくらいグチャグチャにしちゃったじゃないですか。

 そうそう。

芳賀 マスクのひさしが取れたのも、あんなに血まみれになったのも、見たことないし。自分が考えた超人が、ロビンをこんな目に遭わせていいのかな、っていう。すごく複雑な気持ちでした。

 (当時の芳賀さんのジャンクマンの応募はがきを見て)画がうまい!

爪切男(以下、 小5の構図じゃないですよね。ちゃんとしてる。マンガは得意でしたか?

芳賀 はい、マンガ家志望でした。僕のマンガがクラスで回し読みされていて、ある日、授業中読んでたヤツがいるんですよ。そいつが先生に取り上げられて、「返してほしかったら職員室に来なさい」と。なぜか僕が取りに行ったら「芳賀、マンガ家になりたいのか?」「なりたいです」「活躍しているマンガ家の先生というのは、氷山の一角だぞ。おまえは、本当にそこに行く覚悟があるのか?」と言われて「うーん、そう言われるとないです」と。

 はははは。

芳賀 で、中1のとき、一緒にマンガを描いてた友達と、神保町に古本を買いに行ったとき、集英社さんの前を通りかかって。友達が「集英社だ!」って入っていっちゃったんですよ。「少年ジャンプ編集部を見学したいんですけど」って言ったら、「ちょっとお待ちください......6階へどうぞ」って行けて。

 (笑)えー!?

芳賀 編集部に入れて、ゲラも見せてくれて、「あ、編集っていう仕事があるんだ」と。そこで、自分は編集者になろうと思ったんですよね。

 すごい。その年でそんな、解像度高めな夢を持てるのは。

芳賀 案内してくれた方が、作業を具体的に見せてくれたんですよ。「今ここでネーム入れしてます」とか。それに興味を持てたんです。

爪 でも、中1でそういう経験をした方が、後にとんでもない図鑑を作るというのは、すべての縁がつながってる気がしますよね。

燃 ほんと。少年ジャンプ編集部、ナイスアシスト。

 図鑑を作るにあたって、1400以上の技をエクセルのシートにまとめたんですよね?

 ひとつひとつ、マンガを見ながら書き込むんですか?

芳賀 そうです。右手で打ったのか左手で打ったのか、ストレートなのかアッパーなのかフックなのか、とか。

 はあー!

芳賀 その技が勝敗を決めたかとか、試合会場とかも全部打ち込んでいく。後でもう一回読みながらメモるの、大変じゃないですか。だから、「キン肉マン」で検索すると、キン肉マンの技が全部出て、星印は勝敗を決めた技で、というのがわかるようにして。キン肉マンが倒した相手も全部出る。パンダマンやイワオも入っています。

 そんな野良試合まで(笑)。

芳賀 登場巻数も入れて、確認したいときに見られるようにして(画面を操作して見せる)。

 ......すごいなあ。

 これは、割に合わない。

芳賀 編集の仕事って、基本、地道なものですから。特に僕は、以前は辞典編集部にいて、英語の辞典を作っていたので。

 それは何年ぐらい?

芳賀 20年です。それで、辞書でそれなりに成果が出たので、「じゃあ、芳賀は図鑑もやってくれ」と。辞典と図鑑の部署が合併したので、「図鑑だったら超人できるな」と思って。

 はははは!

●芳賀氏の驚異的情報整理力の源とは

芳賀 学研の図鑑が『動物』『昆虫』『恐竜』って並んでいる中に、『超人』があったら、ウケるんじゃないかな、と。だから、ずっと頭の中にはあったんです。辞典の部署の頃に、『スター・ウォーズ英和辞典』(2014年)を作って。そのときはもう嶋田先生にお会いしていたので、差し上げたら、後日「芳賀さん、あれよかったよ。こういうの、『キン肉マン』もあったらいいよね」と言ってくださって。「あ、じゃあ、図鑑いかがですか?」と。

 ああ、そこですべてがカチッとはまったわけですね。

 しかも、学研っていうのがいいんですよね。昔、『心霊写真大百科』とか、うさんくさい図鑑もあったじゃないですか。そういうテイストで作ってはいけないものだから、『キン肉マン』は。

 そう!

芳賀 学研で出すからには、なんちゃって図鑑ではなく、学研のノウハウを詰め込んだほうがいいだろうなと。だから、もし超人が実在したら、学研はこういう図鑑を作るだろうな、という体でやっているんですよね。

爪 でも、2冊目の『技図鑑』のほうが、『超人図鑑』(2019年発売の『学研の図鑑キン肉マン「超人」』)以上に、作るの大変ですよね。

芳賀 そうなんですよ。

 技の分類とか、よくわかんないし。

芳賀 『超人図鑑』のときは後輩がひとり手伝ってくれたんですけど、その後、僕が異動したので、ひとりでやるしかなくなって。あと、ひとりでやらないと、分類の仕方が違ってくるんで。「これは打ちつけ技だ」「いや、投げ技だ」というふうに、技が迷子になっちゃうんです。だから、最初は手伝ってもらったけど、結局、自分の基準で全部やり直して。一回できた後も、本当に漏れがないか見直して。

 『ファイヤープロレスリングワールド』っていうオンラインゲームがあって、現実のプロレスで最新の技が出ると、そのモーションを作ってサブスクに上げてくれる人たちがいるんです。俺は、それをダウンロードして使いながら、こんな凝ったものを作る人っていったいどんな人だろう?っていつも思ってたんですけど、今日わかりました。こういう人なんですね(笑)。

芳賀 でも、たぶん趣味じゃやらないと思うんですよ。仕事になるから全力でできる、っていうのも大きいですね。

 こんな編集者がもっといてくれたらねえ。

 いないです!(笑)

芳賀 あ、そういえば、『超人図鑑』を作ったときに、ネットを見たら、「『キン肉マン』ファンはいいよな、こういう本を作ってくれる編集者がいて」っていう声があって。そうか、じゃあこれ、技術として活用できないかな、と思って、その次に『学研の図鑑スーパー戦隊』(2021年)を作ったんです。

 はははは!

爪 詳しかったんですか?

芳賀 いや、僕、全然通ってこなかったんですけど、やってみようと思って、東映さんの動画チャンネルに入って、『ゴレンジャー』から全部見て。

 えー!

芳賀 やっぱり、買うのは熱心なファンなので、シビアなんですよね。すごく細かいところにこだわりがあるから、生半可な気持ちで作るのは申し訳ないなと思って。ファンの気持ちをなるべく理解するために、全部見て、メモって。それで作ったんですよね。

 信じられないですよね。

 うん。もう、全ジャンルいけますね。

芳賀 それは、自分でもちょっと実験だったんですよね。『スター・ウォーズ』と『キン肉マン』は、ただ自分の好きなもので作ったけど、単純な図鑑制作技術としてまとめられたら、もっと広がるな、と。

 すごいなあ。でも、すべてを図鑑にしようと思ったら寿命が足りないかもしれない。

 「どこに行き着くんだろう、この人は」っていう。

●ロビンマスクvsランペイジマンの話も

☆今回の「先月の肉トーク」テーマ
第392話 激動の予感!!の巻(9月5日更新分)
第393話 地に降りた挑戦者!!の巻(9月12日更新分)
あらすじ

超神vs超人のバベルの塔第4戦の決着が着いた頃、ザ・マンとネメシスがいる超人墓場にボロボロになったスクリュー・キッドがたどり着き、その報告から新しい時代の波を感じ取る。バベルの塔では、ロビンマスクとランペイジマンの闘いが始まった

 今の『キン肉マン』は読まれてますか?

芳賀 当然読んでいます。ロビンマスクの復帰戦じゃないですか。ランペイジマンとの闘い、ジャンクマン戦を彷彿させるんですよね。ランペイジマンって、ビッグボディチームと闘ってたときは小柄に見えたけど、今回最初にロビンマスクと向き合ったコマを見て「でかっ!」と思って。

 そう、ロビンよりちょっとでかいですよね。

芳賀 ジャンクマンのジャンククラッシュを、ロビンが手で受け止めるシーンがあったじゃないですか。あのとき「ジャンクマン、でかっ!」と思ったんですよ。今回もランペイジマンのパニッシュメントエングレイバーを、ロビンが手で止める。それも、ジャンクマンとロビンのシーンを思い出して。

 じゃあ、あのときみたいに、これからロビンがいろいろ壊されるのかな。

芳賀 ロビン、貴公子とか言われているけど、意外にラフファイトをやりますよね。

燃 そう、鉄仮面の角を相手に刺すやつとか、久しぶりに。

芳賀 あの角が侮れないんですよ。『技図鑑』を作っていると、ロビンと対峙する相手って、けっこう危険だと思うんですね。例えばタワーブリッジやると、必然的に角が刺さっちゃいますよね。超人ロケットも、この闘いで久しぶりに発動してるけど、頭から飛んできて、角が刺さらないわけがない。

 しかも今回、画の構図的に刺さってるんじゃなくて、ランペイジマンの両肩を抱えて、頭突きの要領で何度も刺す、っていうのもある。

 これ、衝撃的ですよね。

燃 そういうデスマッチ要素の強い闘いになっているから、久しぶりに、ロビンのマスクのひさしがグラグラになるんじゃないかと思うんですよ。

 楽しみですね。血で染まりますかね?

燃 で、「もういい!」って、自分でマスクを取るとかね。昔、取ったじゃないですか。

 勝敗はどうですかね?

 いやあ、ロビンが勝たないっていう目はないですよね。

芳賀 確かに、ここで負けさせたらねえ。しかも、死んでしまったりした日には(笑)。

 でも、お約束の展開を、とんでもないテイストで描いてくるのが『キン肉マン』だから。間違いなくロビンが勝つんでしょうけど、「これでもか!」みたいな勝ち方を期待してますね、俺は。何で勝負を決めるのか......。

芳賀 また新しい技が出てきそうですよね。

 『技図鑑』に足さないと!

芳賀靖彦(はが・やすひこ)
1994年学習研究社(現・学研ホールディングス)入社。現在は、学研プラスにてコンテンツ戦略室の室長を務める。主な担当作品は『ジュニア・アンカー』英語辞典、『スター・ウォーズ英和辞典』、『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』、『学研の図鑑 スーパー戦隊』など

燃え殻(もえがら)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は二村ヒトシ氏との共著『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで、ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演・阿部寛)はDisney+でそれぞれ配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック

爪切男(つめきりお)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。20年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中

●12月12日(月)発売『週刊プレイボーイ』52号には、本誌掲載ラストの「燃え殻×爪切男の先月の肉トーク!!」を掲載‼
※来月より『週プレNEWS』へ移籍いたします。

●『学研の図鑑 キン肉マン「技」』好評発売中!