『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス15巻を熱く語る『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス15巻を熱く語る

前巻から続く、五重のリング決戦の後半戦から始まる第15巻!

テリーマンの奮戦やジェロニモのデビュー戦と、見どころ満載の死闘の果てに、いよいよ"あのお方"が登場します!!

『キン肉マン』第15巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●この巻のトレンドは「#ミステリー」!?

僕らのテリーマンがとうとう恐怖の必殺技・阿修羅(アシュラ)バスターまで食らってしまうのかという、いきなり絶体絶命テンションMAX大佳境から始まるこの巻ですが、まず、僕が注目したいのはテリーマンがその大技を受ける直前、死んだ仲間から奪ったというアシュラマンの6本の腕について、ひとつの疑問を投げかけるシーンです。

「どうしてないんだ!? 七人めの悪魔超人バッファローマンの腕が!!」

このテリーマンの両目アップのワンカットは、今までの『キン肉マン』にはなかったコマだと思うんですね。まるで、『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』などの推理サスペンス作品を読んでいるかのような独特の雰囲気。最終的に、この質問内容が試合結果にも大きく関わってくるわけですが、思えばこの巻にはここ以外にも、後述するジェロニモの素性についてのくだりなど、そこはかとなくミステリー感の漂う要素が散見されるんですよね。

『キン肉マン』は1話完結ギャグから、熱血ストーリーものへ姿を変えていったという稀有な経緯を持つだけに、ひと言でジャンルをくくり難いさまざまな要素を併せ持つ作品ではありますが、ここに来て、新たに「#ミステリー」というタグまで加わるのかという驚き。たとえ『週刊少年ジャンプ』における看板作品のひとつという地位にまでたどり着いても、そこで形を安定化させやしない。ゆでたまご先生の変化・進化はとどまるところを知りません。

最終的にはこの闘い、まさに指摘のあったバッファローマンの腕のおかげで、完敗必至だったテリーマンは命の危機を脱したのみならず、引き分けにまで持ち込む粘りを見せ、準主人公の面目躍如。しかし、この「両者リングアウト引き分け」という渋い結末もまた、生きるか死ぬかの超人プロレスにそんな両者生存できるルール上の抜け道があったのかという、僕にとってはこれも大きな驚きでした。

●ジェロニモに見る斬新なヒーロー像

そして、物語は五重のリング決戦の大トリ、ジェロニモvsサンシャインへ。面白いのは、今でこそ誰もが知るこのふたり、この時点では両者共に初戦のリング。つまり、当時の読者からするとよくわからない謎のキャラクター同士なんですよね。

とはいえ、六騎士の首領格として最上階に配置されたサンシャインが弱いわけがないでしょう。だからといって、ジェロニモもここであっさり負けるのでは何しに出てきたかわからない。

それらを考え合わせると、どっちが勝つのかまったく読めないという謎。それに加え〝五重のリング〟最終戦といいながら、実はこの闘いの舞台は4階、この上にまだ5階が空き家のまま残っているという謎。さらには、味方であるはずのジェロニモが、作中のキン肉マンたちに対してのみならず、僕ら読者にまでずっと何かを隠しながら闘い続けているという謎。総じてこの闘い、何から何まで異常なほどに謎だらけ!? 先の試合でわずかに顔をのぞかせた「#ミステリー」という新要素が、ここにきて大爆発した珍しい描き方になってます。

こうして随所にあえて謎をちりばめたまま進行させて、読者や視聴者が侃々諤々とその真相を議論し合う余地をつくるというのは、昨今のSNS時代によく見られる作劇の形ですが、それをここでやってのけたゆでたまご先生。もし当時、SNSが普及していたら、果たしてどんなログが残っていたのだろうと考えると空想が止まりません。

そんな謎に包まれたリングに立つ両者、ふたを開けてみると共に素晴らしいキャラクターでした。作品史上、こんなに技を持った超人がいたかという変幻自在のサンシャインもさることながら、やはり殊更に特筆すべきはジェロニモです。テリーマンが探偵ばりの謎解き推理で徐々に明かしていったとおり、その正体は超人でなく人間だったわけですが、一般的な話として、これまでこの手の秘密めいたキャラクターってたいがい、本当はすごい能力を秘めたヒーローなのに凡人のふりをしててそれがバレる、というのがテンプレだったと思います。

でも、ゆでたまご先生の創り出したジェロニモはひと味違う。本当はただの人間なのにすごい能力を秘めた超人のふりをしていたのがバレる、というテンプレの真逆をいくキャラクター。あまりにも斬新! しかし、そんな逆ヒーローがカッコよく見える物語に仕上げていくのがゆでマジック、こんな稀有なキャラクターの形を生み出されたことはまたひとつ、ゆでたまご先生の偉業だと思ってます。

そして、五重のリングの全激闘を終えた後、満を持して登場する至高のラスボス・悪魔将軍! 将軍については、次巻以降に語るべきことが山ほどありますので今回は控えますが、初登場時からここまで仕上がっているところもこの作品の中で白眉の存在といえるでしょう。この後、バッファローマンの復活、そして裏切りという衝撃展開に読者はこれまたハラハラさせられながら闘いは次巻、キン肉マンとアシュラマンによる待望のバスター合戦へ。

●こんな見どころにも注目!

今ではあらゆる少年漫画作品でおなじみ「キャラクター人気投票」。最初に始めたのは『キン肉マン』だそうですが、そんな企画をわざわざ始めておいて、もはや伝統芸的に面白いのが順位の低さを嘆く主人公の悲痛なボヤき。キン肉マンの歴代順位はこの7位前後でほぼ安定。最高位でも2017年時の2位とのことですが、言い換えればそれだけほかのキャラが強いのもまた本作の強み。僕はキン肉マン大好きですが、1位になる日は来てほしいような、ほしくないような......。

キン肉マン4コマ

●おぎぬまX
1998年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

●12月12日(月)発売『週刊プレイボーイ』52号には、本誌掲載ラストの「おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第16巻編】」を掲載‼
※来月より『週プレNEWS』へ移籍いたします。