お笑い芸人が"売れる"ための近道は「賞レース」で活躍することだが、その王道を通らず、今年、満を持してブレイクした松竹芸能の40代中堅芸人、なすなかにし・中西茂樹(なかにし・しげき)、那須晃行(なす・あきゆき)、みなみかわの3名。『M-1』決勝直前に思いの丈を吐き出してもらった。賞レースのファイナリスト未経験の全芸人、必読!
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■今年ブレイクした3人の転機とは?
――なすなかにしさんはオリコンニュースが発表した「2022年上半期ブレイク芸人ランキング」で10位に輝くなど、大活躍の一年でした。
中西 ありがたいですね。
――今年のロケの仕事が246本というのもすごいです。
那須 12月も入れると250本超えてると思います。
――みなみかわさんはコアなお笑いファンが愛する三大番組『ゴッドタン』(テレビ東京系)、『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)に引っ張りだこです。
みなみかわ ありがたいことに昨日も『水曜日のダウンタウン』のロケでした。
――先ほどのランキングのベスト10のメンバーでは、ものまね芸人のJPさんとなすなかにしさん以外は全員、賞レースのファイナリスト。なすなかにしさんとみなみかわさんはファイナリストではありませんが、何がきっかけで仕事が増えたんですか?
中西 最初は『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ)でロケに行かせてもらいまして。そのロケを見たスタッフさんが『笑神様は突然に...』(日本テレビ)に呼んでくれて、さらにそれを見たスタッフさんが『ラヴィット!』(TBS系)に呼んでくれて。そこからガーンとロケの仕事が広がった感じですね。
那須 ひとつのロケが跳ねたというより、ひとつひとつがつながったみたいな。
――みなみかわさんは所属事務所の松竹芸能の悪口を言って売れたイメージがあります。
みなみかわ 最初はYouTubeチャンネル『もう二度と松竹を辞める人間を出さないでおこうTV』で、松竹を辞めた芸人や辞めそうな芸人をゲストに呼んで、「辞めんなよ」「戻ってこいよ」と、誰も得しない生配信をしてました。
――そこで松竹の悪口を?
みなみかわ いやらしいんですけど、僕は悪口を言わず、ゲストに言わしてました。「え? そんなとこ松竹にある?」「どんなとこ?」って(笑)。
――悪口を引き出してたんですか(笑)。
那須 インタビュアーやん。
みなみかわ 「これってみなみかわが悪いよな」ってバレてきて。大阪の先輩や会社も怒ってて呼び出されました。
那須 みなみかわは芸人とよく揉めるんですよ。それを鎮火するために僕らが駆り出されるんです。
みなみかわ なすなかさんは器用なんで。いつもうまくまとめてくれて。
那須 松竹は今までアットホームな事務所と呼ばれてて、ヒールがいなかったんです。松竹芸人は本音を隠してきたのに、みなみかわが言うようになったんで、それが注目されたんじゃないですか(笑)。
みなみかわ その後に『ゴッドタン』の「腐り芸人セラピー」で松竹や先輩芸人の悪口を言って、ほかの番組にも呼ばれるようになりました。
■〝賞レース以外〟で売れるための突破口
――みなみかわさんは「賞レースにコンプレックスを持っている」と言っていますよね。
みなみかわ 持ってます。芸人がまず目指すのは賞レースで結果を出すこと。コンビを組んでいたときはそれにかけていたんですが、本当に勝てなかったんですよ。「こんなに頑張っているのに何がダメなん?」という嫉妬やコンプレックスがめっちゃありました。
――なすなかさんは?
中西 僕らもずっと漫才をやってたんで、『M-1グランプリ』(朝日放送/テレビ朝日系)に対して、特別な思いがありました。最初は「漫才で売れなあかん」と思ってたんで。
――結果が出なかった原因はなんだと思いますか?
中西 大阪に住んでた頃は『M-1』の準決勝まで何年か連続で行ってたんですよ。でも東京に来てからまったくウケなくて、2回戦で落ちたりして。たぶん関西弁がきつくて圧があったんでしょうね。
――先輩にアドバイスはもらいましたか?
那須 一回、ますだおかだの岡田(圭右)さんにネタを見てもらいました。丁寧に事細かく教えてくださって。そのとおりにやったら、そこだけスベりました(笑)。
――(笑)。試行錯誤はしましたか?
那須 昭和の漫才師みたいなキャラ漫才をやったりしましたね。
中西 そんな感じでいろいろとカタチを試しましたね。でも、それが逆に迷いになって、フォームを崩したのかもしれません。
――2010年にはコンビ名を改名しましたよね。
中西 ますだおかだの岡田さんにノリで変えられて。岡田さんの番組の飲み会に参加した人たちがみんなで考えて、新コンビ名を書いた紙をボックスに入れて引き当てたやつに改名するという。それが「いまぶーむ」でした。
みなみかわ 「いまぶーむ」のときは、おふたりとも本当に調子を崩してて。後輩からは「終わったな」と。「なすなかさん、かわいそうに。岡田さんに潰されたな」と(笑)。
――なすなかさんは2016年を最後に『M-1』の出場資格(結成15年以内)がなくなりました。
中西 逆にそれからは「もう好きなことしよう」と思いましたけどね。だから気持ちが楽になったところもあります。そのあたりからロケのほうにシフトチェンジしていった感じですかね。
――みなみかわさんは売れるためにロシアの軍隊格闘術「システマ」を習得したんですか?
みなみかわ そうですね。
――システマは特別な呼吸法で、キックボクサーに蹴られてもまったく痛くないと言い張っていますが、普通、タイキックの相場はお尻なのに、みなみかわさんはおなかで受けていてすごいと思いました。
みなみかわ ケツはもう(バラエティ番組で)見慣れててベタなんです。だから腹とか、あとはハイキックとか。
――ハイキックは危ないでしょ(笑)。
みなみかわ さすがにスタッフに止められました。
――今までで一番危険だったのは?
みなみかわ 朝倉未来(あさくら・みくる)選手が一番やばかったですね。ほぼ本気で蹴ってくるんで、これはやばいなと思いました。
那須 じゃあ痛かったんや。
みなみかわ めちゃくちゃ......いや痛くはなかったです。
那須 今言いそうになってたやん(笑)。
■「なんで賞レースが正攻法やねん!」
――もうすぐ『M-1』決勝ですが、松竹の芸人さんは今年、準決勝にも進めていません。事務所の先輩としてご意見はありますか?
みなみかわ 松竹は『M-1』にめちゃくちゃ弱いです。しかも今年だけじゃなく、この状況が何年も続いています。
――なすなかさんが松竹の若手を引っ張っていかないといけないのでは?
那須 いや、若手に「ファイナリストでもないのに、何を引っ張っていこうとしてんねん」となめられます(笑)。
――では、後輩にアドバイスするなら、「俺らみたいに賞レース以外で頑張れ」という感じですか?
那須 でも『M-1』は獲(と)れるなら絶対に獲ったほうがいいですから。出られるうちは出て、一生懸命やるべきです。目指した結果ダメなら、僕らみたいな道もありますけど。
みなみかわ 僕が思うのは「賞レースがない時代は売れるためにみんないろんなことをして、もがいたはずやろ」と。それが「なんで賞レースが正攻法になってんねん」というムカつきもあるんですよ。
那須 それで会社に当たると。
みなみかわ そうです。ムカついて会社に当たります。
――会社は関係ないでしょ(笑)。
みなみかわ 吉本芸人もムカつくときがあって。吉本芸人て、めっちゃ面白いんですけど、たまにおもんないやつもちゃんといるんですよ。そいつが「俺、吉本ですよ」って顔してるんですけど、「いや、おまえはおもんないよな」って。「松竹のことをなんか下に見てるけど、おまえは違うやろ」ってやつがいるんです。
――それは誰なんですか?
みなみかわ インディアンスのきむとかです。
――あっさり名前を出すんですね(笑)。
みなみかわ 僕は言います。本人の前でも言いますし。
――でもインディアンスは『M-1』のファイナリストですよ。
みなみかわ ファイナリストですが、「おまえはネタ作ってないやろ」と。ネタ作ってないほうが負けて悔しがるんです。「おまえはネタをひとつも出してないし、関係ないよな」って説教したくなるんですよ。
――めっちゃ怒ってるじゃないですか(笑)。
みなみかわ もちろんボケで言ってます。
那須 嘘つけ!(笑)
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