普段は大会前に減量を行なうが、「今大会は自然と体重が落ちていった」と語った漆原。3大会ぶりの3rdステージ進出、その先のFINALステージを目指す普段は大会前に減量を行なうが、「今大会は自然と体重が落ちていった」と語った漆原。3大会ぶりの3rdステージ進出、その先のFINALステージを目指す
1997年に誕生し、現在では世界160以上の国と地域で親しまれているTBSのモンスター番組『SASUKE NINJA WARRIOR』。

その第40回記念大会が、12月27日(火)18:00から放送される。39回の大会を重ね、延べ3900人が挑戦してきた25年の歴史で、完全制覇を達成したのはたったの4人。

――不可能に挑み続けてきた名もなき男たちの生き様を伝える短期集中連載、週刊プレイボーイプレゼンツ「SASUKE完全制覇者の肖像」。3日連続更新の第2回は漆原裕治さんが登場です!!

漆原裕治の戦績を見ていて目を引いたのが、「初出場の第21回大会から、今大会で20大会連続の出場になる」ということだ。初出場から1度たりとも欠場がない――これは現役最強プレーヤー、サスケくんこと森本裕介(今大会はゼッケン4000)でも成し遂げられなかった快挙である。"SASUKE皆勤賞"で過去40回すべての大会に出場している山本進悟(同ゼッケン3995)というレジェンドもいるが、4人の完全制覇者の中で初挑戦から連続出場を続けているのは漆原ただひとりだ。

漆原が史上初となる2度目の完全制覇を達成したのは、2011年の第27回大会だった。山田勝己(同ゼッケン3996)、長野誠(同3998)らに代表される「SASUKEオールスターズ」に続く世代、日置将士(同ゼッケン3955)、川口朋広(同ゼッケン3993)、又地諒(同ゼッケン3994)らとともに「SASUKE新世代」と呼ばれ、その旗頭として番組に新風を吹き込んだ。

漆原が史上初の2度目の完全制覇を達成した瞬間漆原が史上初の2度目の完全制覇を達成した瞬間

それから10年以上が経過し、44歳になった今、漆原は2度目の全盛期を迎えていると言われる。支えているのは、日々の鍛錬と節制だ。

「完全制覇した頃より確実に強くなっているし、いいときの感覚も維持できています。トレーニング量は逆に増えているくらいなので、だからこそとは思います。新しいものを加えるというよりは、これまでやってきたことをきっちり続けて。それがもう、すでに限界レベルなので。ただ、背負う重りの量は4キロ増やして、今は23㎏のベストを着てやっています」

重りを背負って階段ダッシュを繰り返す漆原(2018年撮影)重りを背負って階段ダッシュを繰り返す漆原(2018年撮影)

漆原といえば、勤務先の靴のハルタの社屋の非常階段を下から上まで9階分、重りを背負って駆け上がる階段トレーニングが有名である。漆原は普段から下半身を徹底的に鍛えることで、かつて苦手にしていたタックルのエリア(合計860㎏、3つの重りを押していく)を克服したのだ。

「ずーっとやってますよ。ひとりで、あそこで続けてます。仕事終わって、結構孤独ですけど、今日もやるかって感じで」

SASUKEの練習は本当に過酷だ。それも、一朝一夕では身に付かない。加齢とともに怪我も増えてくるはずなのだが、20大会連続出場中の漆原はどのようにやりくりしているのだろうか。

「日々ぎりぎりを攻めています。これ以上やったらまずいな、というときはすぐに休んで、違う種目にシフトして。食生活にも気をつけるようになりました。大会が近くなると妻が、タンパク質多めのメニューにしてくれています」

2018年に妻・あゆみさんと結婚した漆原は現在2児の父。家族の存在も支えになっている。30代後半は1stステージでのリタイアがかさんだ漆原が、18年以降、再び継続的に3rdステージに進出できるようになったのはそのあたりの要因も大きそうだ。

SASUKE界屈指の空中戦の達人、"エアマスター"漆原の3rdステージ、FINALステージを期待するファンは多い。しかし、前回39回大会は雨の影響もあり、4大会ぶりの1stステージリタイアを喫した。

「終わってみれば、やっぱり難しかったなと。でも逆に言えば、あの雨のコンディションでもそり立つ壁まで行けたというのは結構自信になって。じゃ、晴れの日は絶対落ちないよねって。たぶん、自分史上最悪のコンディションでやった1stだったので」

漆原が近年、最もFINALに近づいたのは、2019年の第37回大会だった。3rdステージ最後のエリアであるパイプスライダーに挑もうと空中に身を投じた瞬間、パイプがレールから外れ、落水してしまったのだ。「まさか」というアクシデントのような落ち方に、テレビの前で悲鳴を上げた視聴者も多かろう。

2019年の第37回大会、FINALステージ目前のパイプスライダーでリタイア。その直前の様子2019年の第37回大会、FINALステージ目前のパイプスライダーでリタイア。その直前の様子

「あれは、パイプの左手側が、落下の反動で前にスライドして、それで脱線しちゃったんですよね。自分でもちょっと前に押しちゃってて。確かに、思ってもいない落ち方でした。でも、腕もかなり(ダメージが)効いていたので、余裕もなくて。FINALのこととか、パイプスライダーの最後の飛び移りのこととかは一切考えていなくて、目の前のレールに下りることしか考えてなかったです」

"怪物"森本裕介と並ぶ2度の完全制覇。漆原がまた、FINALの檜舞台に立つ日は来るのか。4年前、彼は「完全制覇できる可能性を自分に感じられているうちは、SASUKEを続けていく」と語っていた。そのことを振ると、苦笑まじりにこう答えた。

「もうついていくのがやっとですけど(笑)。若い実力者たちがどんどん出てきて。ついていくのがやっと、という思いと、ついていきたいという自分がいます。

正直、完全制覇は今の自分の力だと難しいかもしれない。またエリアも変わりましたしね。FINALの第1エリアなんて、まだどんなエリアなのかわからないですから。見てみないと、というのもあります。もちろん3度目の完全制覇もしたいけど、そんなこと言ってる場合じゃないというのもわかっていて。まずはFINALに行きたい、トレーニングの成果を出したいというところにちょっとシフトしている、というのはあるかもしれません」

完全制覇の難しさを誰よりも知る、漆原ならではの重みのある言葉だ。

そんな彼に今大会の注目選手を訊ねると、意外な名前が返ってきた。

「Snow Manの岩本照(ひかる)君(同ゼッケン3988)とずっと一緒に練習してきたんですけど、彼は前回2ndに行って、今回は3rdに行くんじゃないかって普通に思ってます。本当にSASUKEが好きな子なんですよ。出場者100人の中で、一番好きなんじゃないかと言っても過言ではないくらいに。研究熱心で、Paraviの番組も、YouTubeも全部観てますし。練習も、実際の競技前も、本当に楽しそうで。常連選手がみんな『やりたくねぇな、気持ち悪いな、落ちたくねぇな』とか思ってるのに、全然違うんで。勇気をもらえますね」

そして漆原はこう続ける。

「だから、どういう気持ちで競技に臨んでるのかとか、訊いてみることもあるんですよ。普段の生活自体、人に見られる仕事なので、メンタルなんかは僕なんかじゃわからないところがいっぱいだと思うんですけど、SASUKEに対する姿勢とか、思いとか、本当に学ばせてもらっているし、頭が下がるなって気持ちです」

"名もなき男たちのオリンピック"をコンセプトに始まり、多くの一般人たちが活躍してきたSASUKEだが、近年はガチ勢と呼ばれる芸能人プレーヤーも増えてきた。ジャニーズのSASUKE先駆者、A.B.C-Zの塚田僚一(同ゼッケン3971)。「SASUKEが恋人」と豪語するゴールデンボンバーの樽美酒研二(今大会は不出場)。"吉本の筋肉怪物"梶原颯(はやて・同ゼッケン3965)、アクション俳優の才川コージ(同3910)など、若い芽も育っている。

もちろん一般人選手を見ても、漆原ら「新世代」の次の世代――森本裕介の親友にして最高のライバルである"山形県庁の星"こと多田竜也(同ゼッケン3973)、愛知の有名企業に勤めるカーデザイナーでベトナム版SASUKEのファイナリスト・荒木直之(同ゼッケン3974)、クライミングに絶対の自信を持つ最強の塾講師・山本桂太朗(同ゼッケン3975)ら「サスケくん世代」、森本世代が台頭。

ここ数年、森本以外の日本人で唯一FINALステージを経験している多田。山形県庁で理学療法士として働いているここ数年、森本以外の日本人で唯一FINALステージを経験している多田。山形県庁で理学療法士として働いている

ほかにも1stステージ最強の呼び声高い"スピードスター"、パルクール協会会長の佐藤惇(同ゼッケン3972)、「山田軍団 黒虎」の絶対エース・山本良幸(同ゼッケン3950)、山田勝己の元弟子にして現役陸上十種競技の実力者・伊佐嘉矩(よりのり・同ゼッケン3924)など、3rdステージ常連の猛者たちが今のSASUKE界にはひしめいている。そんな頼もしい「後輩」たちの存在が、ここにきてまた、漆原の中に変化をもたらしているのかもしれない。

あなたにとって、SASUKEとは――? 4年前そう訊ねたとき、漆原は言っていた。

「昔は、どこまでいけるのか、自分の力を試す場所でした。でも今は、『つなげてくれたもの』かな。昔はひとりでやっていたトレーニングも、今は一緒にやる仲間がいる」

交わるはずのなかったいくつもの人生を、つなげてくれたのがSASUKEだと。

気が早いけど、第50回大会は――? 最後にその質問をぶつけると、漆原は少し考えてから、こう答えた。

「今ほどのトレーニングはできなくても、何かできなくはないかなとは思います。......(テレビ番組なので)いつかは、なくなるわけじゃないですか。絶対に、ずっと続くということはない。100年、200年、そういうことじゃないので。だから、今ここにいること。ここでSASUKEをできていることの幸せを噛みしめて、やっていきます」

自身のストロングポイントを「身軽さ」と分析する漆原。重力を感じさせない、芸術的なクリフハンガーを今大会では見せることができるか自身のストロングポイントを「身軽さ」と分析する漆原。重力を感じさせない、芸術的なクリフハンガーを今大会では見せることができるか

●漆原裕治 Yuji URUSHIHARA
1978年8月21日生まれ、東京都出身。身長164㎝、体重57㎏。30歳で迎えた2008年、第21回大会でSASUKE初出場。10年開催の第24回大会、11年開催の第27回大会で完全制覇を達成。現在は株式会社ハルタで営業を担当。第40回大会はゼッケン3999を背負う。既婚、2児の父