1997年に誕生し、現在では世界160以上の国と地域で親しまれているTBSのモンスター番組『SASUKE NINJA WARRIOR』。その第40回記念大会が、12月27日(火)18:00から放送される。
39回の大会を重ね、延べ3900人が挑戦してきた25年の歴史で、完全制覇を達成したのはたったの4人。
――不可能に挑み続けてきた名もなき男たちの生き様を伝える短期集中連載、週刊プレイボーイプレゼンツ「SASUKE完全制覇者の肖像」。3日連続更新の第3回は、長野誠さんが登場です!!
SASUKE史上、最も「センス」があるのは誰か――?
この質問に、自他共に認めるSASUKEマニアで、7歳でSASUKEに目覚めた現役最強プレーヤー、サスケくんこと森本裕介(今大会はゼッケン4000)はこう即答した。
「断然、長野誠さんです。漁師の仕事で培った運動神経はもちろんですが、それ以上にエリアの見極め、エリアの特性に合った動きを瞬時に表現する力がほかのどの選手よりも高いんです」
一時期は出場者の身長と体重、奥さんの名前まですべて暗記するほど番組の録画を繰り返し見ていた森本が、「ナンバーワン」と断言する男。それが"最強の漁師"長野誠である。
長野は史上ふたり目の完全制覇者。毛ガニの秋山和彦が1999年、第4回大会において人類で初めて鋼鉄の魔城を陥落させた7年後――2006年開催の第17回大会で、4度目のFINALステージ挑戦にして悲願を成し遂げた。
163㎝と小柄だが、獣のようにスピーディにエリアを突破していく姿はまさにNINJA。国内はもちろん、海外でもカリスマ的な人気を誇るSASUKE界のレジェンドで、森本をはじめ長野に憧れてSASUKEを始めたという現役選手は多い。
その長野は16年、第32回大会で一旦現役を退いたが、20年に「コロナ禍のSASUKEを盛り上げたい」という理由で第38回大会に復帰。昨年は不出場だったが、この第40回大会で再びカムバックを決意した。
その大きな理由が、今年中学1年生になった長男・塊王(かいおう)君(同ゼッケン3914)の存在である。SASUKEの番組ホームページには出場者の規定が「中学生以上」と明記されており、長野はずっとこのときを待ち望んでいたのだ。
「まずは40回も続いてくれたSASUKEにありがとうという気持ち。それから、その40回大会に息子と一緒に、親子で出場させてもらえることになって。息子が中学生になって、やっと応募できた。
すごくテンションが上がって、『これはやらないかん』って。やっぱりこの年になると、気持ちに体がついていかないところもあるんですけど、そこは経験でカバーできればと思っています」
長野は2年前、久々の復帰となった38回大会で、1stステージの難所・ドラゴングライダーでリタイアを喫している。
「だから、何が悪かったのかというのを研究して、やっぱりトランポリンの使い方だなと。(一本目のバーをつかみにいくときに)前のめりになっていて、そこからの体の動きが大事になってくるから、自分で造ってみようと思って」
長野は自宅の庭に、そり立つ壁をはじめとするさまざまなエリアの自作セットを造っている。ドラゴングライダーは、SASUKE界屈指のセット造り職人・群馬県みなかみ町在住の松田大介(同ゼッケン3940)にアドバイスをもらって実装したという。
だが、遠洋漁業の漁師である長野は月の休みが5日間しかなく、しかも家まで帰ってくるのに1日を要する。つまり、実質的な休日は月に4日間のみ。
「帰ってくるたびにこつこつ造ってたんですけど、番組の収録がある10月の時点でまだできてなかった(笑)。直前の休みでなんとか完成して、急ピッチで仕上げてきました。
だから、今回は(1回目の)飛び移りまでは絶対にできると思う。2本目のバーのセットは造ってないので、その先をどうできるか。2本目をつかんで、耐えて、着地までいけるか。でも(飛び移るための)傾斜もちゃんと造ってあるので、できそうな気はするんですけどね」
SASUKEで一番センスがあるのが長野さん――。そう、森本が言っていたと伝えると、長野は相好を崩した。
「いや、うれしいけどね。全盛期はそうだったかもしれないけど、今は全然そんなことない(笑)」
エリアの特徴、攻略法を見極める秘訣はあるのかと訊ねると、こんな答えが返ってきた。
「私の場合は、自分の想像でこうしたらいいんじゃないかって思っているだけでね。人に教えると、それぞれでまたちょっと違ったりするんですよ。
どうしても一致しない部分は出てくるから、『だいたい、こうすればいいんだよね』というのを押さえておいて、あとは自分なりに工夫して、好きなように行くのがいいと思います」
ポイントになるエリアは? ――こう振ると、長野は真剣な顔つきになって言った。
「SASUKEは本当に、どのエリアも油断ならないからね。本当に凡ミスで、ちょっとしたことで落ちるから」
今大会で28回目の出場になる長野は、完全制覇者4人の中で最多出場を誇る。それは、4人の中で最も多くSASUKEに跳ね返されてきたということでもある。その経験が、SASUKEに楽なエリアなんてひとつもないのだと語らせる。
「それを考えなければ、まずはフィッシュボーン。それから、前回できなかったドラゴングライダーですね」
初めて親子二代での挑戦となる今大会。かつてそんな日がくることを想像していたかと訊ねると、長野はかぶりを振った。
「最初の頃は全然してなかったですよね。番組がここまで続くとも思っていなかったし、まさか息子も出してもらえるなんてね。感激して」
長野が最初に自宅に造ったセットがそり立つ壁。それも、塊王君がきっかけだった。
「おまえ、クリスマスプレゼント何がいい?って訊いたら、『そり立つ壁』って(笑)。そこから少しずつセットが増えていって。うちにはクリフハンガーとか、3rdステージのセットもあったんですけど、教えてないのにいつの間にかできるようになってたんですよ。
でも、『おまえ、3rdばっか見ててもダメだぞ。1stで落ちたら意味ないからな』って言って、全部崩して、それでドラゴンを造ったんです。崩した部材を使って。そういう感じだったので、(息子に)やらせたいというよりかは、最初からそこにあった感じでしたね。
我々の生活の中に、SASAUKEが。私が出ているところとかも、ビデオやYouTubeとかで、昔から見てきたわけだからね」
そうやって長野ら往年の名選手たちの競技を見て、憧れて、SASUKEにのめり込んだ若者がたくさんいる――そのことを聞かされると、長野は本当にうれしそうに笑う。
「本当に感謝というか、光栄に思う気持ちと、やっぱりうちの息子も含めて、そういう若い人たちがどんどん、どんどん増えてほしい。
今は森本君が強くて、私も本当に応援しているけど、ほかの常連組も、新しい子たちも、いくらでも出てきてほしい。SASUKEというのは、完全制覇者というのは、1位、2位を争うものじゃないから。何人でも完全制覇できるわけだから。次はどんなすごい子が出てくるんだって、そうやって楽しませてほしいですね」
最後に、SASUKEプレーヤーたちに出会ったとき、必ず訊く質問をした。
――あなたにとって、SASUKEとは。
「昔の言葉でいいですか? ――私の代名詞。『生きた証しを残せるところ』。
それは今も変わらない。何回出ても、見ている人たちの記憶に残るようなことをできれば、『長野さん、ああだったな』って、いつまでも語り継がれていくわけだから。SASUKEの歴史に残っていくわけだから。自分の生きた証しを残せるところ。それに尽きます」
●長野誠(Makoto NAGANO)
1972年3月30日生まれ、宮崎県出身。身長163 ㎝、体重70㎏。28歳、2001年開催の第7回大会でSASUKE初出場。06年の第17回大会で史上2人目の完全制覇を達成。株式会社タカスイ所属の漁師で、第50金比羅丸船長を務める。キャッチコピーは"史上最強の漁師""宮崎の荒波が生んだ伝説"。第40回記念大会はゼッケン3998を背負う