『このテープもってないですか?』の制作秘話を語る大森プロデューサー 『このテープもってないですか?』の制作秘話を語る大森プロデューサー

昨年末に3夜連続で放送された『このテープもってないですか?』。一見、普通の番組に見えるが、進行するにつれて、会話や映像が不気味に、おぞましくなっていく。そんな異様な番組を手がけたテレビ東京の麒麟児、大森時生(おおもり・ときお)プロデューサーに制作の裏側を直撃した。

※TVerなどで『テレビ放送開始69年! このテープもってないですか?』を鑑賞後に読まれることをオススメします。

* * *

■新進気鋭の映画監督や怪談作家がチームに

昨年12月27日から3夜連続でBSテレ東で放送された番組『テレビ放送開始69年! このテープもってないですか?』(以下、『このテープ』)がSNSを中心に話題になっている。

いとうせいこうと井桁弘恵が、昔のテレビ番組が録画されたビデオテープを視聴者から募集し、それを見ながらコメントをしていく番組で、主に1980年代に放送されたという『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』(以下、『ミッドナイトパラダイス』)のアーカイブを見る形で進行していく。

しかし、どこかおかしい。というのも、回を追うごとに番組内の会話が支離滅裂になっていき、出演者が突然呆然(ぼうぜん)としたり、不可解な映像が流れたりと、不気味になっていくのだ。それでも番組は何事もないかのように進んでいく。

実は、この『ミッドナイトパラダイス』、実際には存在しない架空のバラエティ番組。つまり、『このテープ』は過去のアーカイブを見るという一見ありふれたバラエティを模したホラーテイストのフェイクドキュメンタリーなのだ。

手がけたのはテレビ東京のプロデューサー・大森時生氏。これまでのバラエティとは異なる質感の番組を手がける彼のこだわりに迫った。

『このテープもってないですか?』は水原恵理アナウンサー(左)、いとうせいこう(中央)、井桁弘恵(右)の3名が視聴者から送られてきた昭和のテレビ番組の録画ビデオにコメントしていくフェイクドキュメンタリー 『このテープもってないですか?』は水原恵理アナウンサー(左)、いとうせいこう(中央)、井桁弘恵(右)の3名が視聴者から送られてきた昭和のテレビ番組の録画ビデオにコメントしていくフェイクドキュメンタリー

主に取り上げられる『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』はタレント、ミュージシャンとして活動していた坂谷一郎の冠番組で、1980年代に放送された深夜の生放送番組。テレビ局側に記録が残っておらず、詳細は不明な点が多い 主に取り上げられる『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』はタレント、ミュージシャンとして活動していた坂谷一郎の冠番組で、1980年代に放送された深夜の生放送番組。テレビ局側に記録が残っておらず、詳細は不明な点が多い

メインコーナーは、視聴者から募集したビデオテープの映像を番組内で視聴する「見て!聞いて!坂谷さん」。ほかにも、女子大生が最新水着を着用し、ジャズに合わせて登場する「ジャズde水着deパラダイス」など昭和らしいコーナーも メインコーナーは、視聴者から募集したビデオテープの映像を番組内で視聴する「見て!聞いて!坂谷さん」。ほかにも、女子大生が最新水着を着用し、ジャズに合わせて登場する「ジャズde水着deパラダイス」など昭和らしいコーナーも

* * *

――見ていて、普通のバラエティ番組かと思っていたら、徐々におかしくなっていくさまが本当に不気味で怖かったです......。そんな今作の制作のきっかけを教えてください。 

大森 実は当初の企画書の段階では、「最近の時事を昭和風のニュース番組で取り上げる」という内容でした。でも、正直その企画がやりたかったワケではなくて、ずっと〝昭和〟という概念を使ったフェイクドキュメンタリーが作りたいと思っていたんです。

ただ、イマイチやり方が思いつかなくて。その企画書が通ってから内容を詰めていった結果、昭和のバラエティ番組のアーカイブを振り返るフェイクドキュメンタリーに行きついたんです。最終的には企画書に書いたものは跡形もなくなっちゃいました。

――そこにホラーのエッセンスが加わった経緯は?

大森 ウェブメディア『オモコロ』の編集長・原宿さんがYouTubeの企画で、川柳や俳句に対して支離滅裂な直しを入れるキャラクターを演じていたのを見て、支離滅裂な会話劇って面白いんじゃないかなって思ったんです。

発する単語のひとつひとつはわかるけど、前後関係がめちゃくちゃで何を言っているのかわからないっていう。それを昭和の番組と合わせれば、不気味さやホラーの要素も出て面白くなると考えました。

『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(2022年) 3夜連続で放送された、昔のテレビの映像を見ていく形式の番組を模したフェイクドキュメンタリー。回を追うごとに取り上げる番組が支離滅裂になっていき、それを見るスタジオのいとうせいこうや井桁弘恵の発言もおかしくなっていく 『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(2022年) 3夜連続で放送された、昔のテレビの映像を見ていく形式の番組を模したフェイクドキュメンタリー。回を追うごとに取り上げる番組が支離滅裂になっていき、それを見るスタジオのいとうせいこうや井桁弘恵の発言もおかしくなっていく

――では、そこから実際どのように進めたのでしょうか?

大森 まずは『山田孝之の東京都北区赤羽』や『タモリ倶楽部』などを手がける放送作家で脚本家の竹村武司さんと、『ミッドナイトパラダイス』の普通の台本を共に制作しました。

それと同時進行で、自作の怪談がたびたびウェブ上で話題になっていたさんに構成に入ってもらい、裏のストーリーやモチーフを考えました。

そして、竹村さんが完成させた脚本を、梨さんと一緒に壊していったんです。第1夜はあまり触っていませんが、最終回の第3夜に至っては、作っていただいておいて申し訳ないんですけど、ほぼ跡形もないくらい変えています。

――第3夜は特にカオスで話の内容が一切理解できず、異様な空気感に圧倒されました。構想段階からかなり分業されているんですね。

大森 さらに分業でいうと、『ミッドナイトパラダイス』のメインコーナー、「見て!聞いて!坂谷さん」では、視聴者から募集したビデオテープが放送されるのですが、それは短編サイコスリラー『カウンセラー』を手がけて注目されていた新進気鋭のホラー映画監督、酒井善三さんに監修してもらっています。

――投稿されたビデオテープはどれも昭和を感じさせる画質でノイズが含まれており、どこかぞっとする映像でした。個人的には、暗闇を怖がる女の子の映像が特に不気味でした。

大森 逆に、第1夜の『ミッドナイトパラダイス』は、普段からバラエティを制作している西古屋竜太さんにお願いしてバラエティ感を押し出してもらいました。

第2夜はそこに酒井監督も演出に加わっていただき、ホラーのエッセンスを加えてもらって、第3夜は酒井監督をメインに西古屋さんにバラエティのテイストを演出してもらいました。

担当者をシフトしていく珍しい撮影法によって、物語だけでなく、映像の見え方でも不気味さが増していく演出になったと感じています。

■配信がある時代のバラエティ制作

『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!~芸能界のお節介奥様派遣します~』(2021年) おせっかい芸能人が悩める奥さまを助ける形式の番組を模したフェイクドキュメンタリー。都会から地方移住した奥さまの引っ越し先の村がどこかおかしかったり、密着した大家族に意外な秘密があったり。番組が進むにつれて、裏にある不穏な物語が浮かび...... 『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!~芸能界のお節介奥様派遣します~』(2021年) おせっかい芸能人が悩める奥さまを助ける形式の番組を模したフェイクドキュメンタリー。都会から地方移住した奥さまの引っ越し先の村がどこかおかしかったり、密着した大家族に意外な秘密があったり。番組が進むにつれて、裏にある不穏な物語が浮かび......

――大森さんは2021年放送の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』(以下、『奥様ッソ』)も手がけています。

大森 『奥様ッソ』も『このテープ』同様、フェイクドキュメンタリーです。表では奥さまをお助けする番組に見えますが、明らかに裏で不穏な物語も同時進行で起きていて、それが徐々に浮かび上がってくるというもの。これは「2回見たら怖い話」という内容で企画書を提出しました。

――とある奥さまの地方移住先がカルト宗教団体の村だったり、とある大家族に秘密があったりと、よく見るバラエティの構造を巧みに使った番組でした。2回見るのを想定しているということは、配信ありきで企画している?

大森 そうですね。特にBSの場合は、放送してからTVerや配信でも見てもらえるようにしたいと思いながら作ります。2000年代の、1回きりしか番組が見られなかった時代にはなかった考えでしょうね。

今はどの局も、特に深夜番組において、配信を見てもらおうという動きが活発化してきている気がします。リアルタイムで見る人は少なくても、配信ではけっこう見られているっていう番組も少なくありませんし。

今のテレビなら多少わかりづらくても、配信があることで、後から何度も見てもらえるので、じわじわ番組が広がる可能性もあると思っていて。もっと言えば、これまでのテレビのようにわかりやすさを重視しなくても、視聴者はそのわかりづらさを楽しんでくれるんじゃないかとも思っています。

――さらに、『奥様ッソ』は放送後に架空のニュース番組をTVerに配信し、それが種明かしになっているという面白い構造でした。

大森 このときの関係値もあって、今年の2月と3月に行なわれるAマッソのライブ「滑稽」に僕も演出で携わっています。まだ何も詳しくは言えないのですが、一般的なお笑いライブとは異なる手触りになると思うので、チェックしておいてもらいたいです。

■テレビの文化をフリにする

――ただ、世間的に、特に日本においてフェイクドキュメンタリーはあまり浸透していません。ある意味、視聴者をダマしているともいえますが、視聴者からの反応は?

大森 『奥様ッソ』は楽しんでくださる方が多かった印象です。ただ、初めて演出を手がけたので、泣く泣くわかりやすくしてしまった部分もあって。「面白かったけど、もっと難しくてもいいのに」って言う考察ファンの方も多かったんです。

そして今回、前作に比べるとモヤモヤする状況が続く『このテープ』を放送したら、不快感を示す方がけっこういたのが興味深かったですね。「気持ち悪いことが続いて解決してくれない!」とか。『奥様ッソ』は楽しめたけど、『このテープ』は楽しめなかったという人もいると思います。

――それはどうしてでしょう?

大森 どちらの番組も「ホラー」に大別されるとは思うんですけど、細かいジャンルでいえば、『奥様ッソ』には「意味がわかると怖い」みたいな謎解き要素がある一方で、『このテープ』は日本のホラー、いわゆるJホラーの怖さや不快感を目指したところがあるんです。

そのためファン層が分かれて、リアクションの差につながったんだと思います。あとはやっぱり、テレビが基本的に優しいっていうのも原因だと思います。

――テレビが優しい?

大森 視聴者にとってテレビは想定内の中で楽しませてくれるものってイメージがあると思うんですよね。「へえ」とか「なるほど」ってなる番組はいっぱいあるけど、「なんだこれ」みたいな気持ちはあんまりないっていうか。

そういう不思議な気持ちって、多くの人にとって不愉快にも近い。ただ、僕はその感覚が好きなんです。意表を突かれる刺激というか。だから『このテープ』も、視聴者に意地悪しようと作ったワケじゃなく、僕が純粋に面白いと思ったものがそうなっただけなんです。

映画監督の黒沢 清さんが、かつて「オバケがワーッ!と出てくるよりも、仲良くしゃべっていた友達をふと見たら真顔で10秒くらいこっちを見つめてきた、みたいな瞬間が一番怖い」って言っていたのをどこかで読んだことがあって。

これはJホラーの怖さに近い感覚だと思うんですけど、テレビもこの〝友達〟になっていると思うんです。

――というと?

大森 わかりやすくて優しいはずのテレビで不可解なことをすることで、視聴者に届けられる怖さが増幅するんじゃないかと。もちろん怖さだけじゃなく、すべての感情で成り立つと思いますが。

「僕がデジタルネイティブ世代なので、ネットからも面白いものを摂取してきたのが今につながっていると思います。見た人も呪われるなんてまさに2chの『洒落怖』ですし、『意味がわかると怖い話』もネット文化ですし」 「僕がデジタルネイティブ世代なので、ネットからも面白いものを摂取してきたのが今につながっていると思います。見た人も呪われるなんてまさに2chの『洒落怖』ですし、『意味がわかると怖い話』もネット文化ですし」

――テレビという文化そのものがフリになっている、ということですね。大森さんはさまざまなバラエティ番組をオマージュしていますし、番組という小さな単位でも、テレビという大きな単位でも、脱構築をされていますね。

大森 ただ、それはもう数本やってしまったので、次のフェーズで新たな面白さを作りたいと思っています。それでも、外の空気を取り込むのは続けると思います。

僕が意識的にやっているのは、テレビ以外の人とテレビを作ること。ネットで人気のある梨さんやホラー映画監督の酒井さんなど、テレビの文脈じゃない人とテレビが融合することで新しさが生まれる。それによって『このテープ』はわかりづらいものになりましたが、それは決して悪いことではないと思うんです。

テレビって、特に深夜番組はいかようにも遊べる遊び場なのに、あまり外に開放されていない状態じゃないですか。テレビ局員と制作会社と放送作家だけで遊び続けちゃうと、新しいものがなかなか生まれなくなると思うんです。

だから僕は、テレビで新しいものが生み出せるように、テレビ外の文脈の人々と、新しいものを作っていきたいと思っています。

『Raiken Nippon Hair』(2022年) 「テレビ東京若手映像グランプリ2022」優勝作品。ネラワリという架空の国で放送された架空の言語を使ったクイズ番組。会話内容は理解できないが、クイズの題材が日本の芸能ニュースであるため、なんとなくわかるのが面白い。後に特番化された 『Raiken Nippon Hair』(2022年) 「テレビ東京若手映像グランプリ2022」優勝作品。ネラワリという架空の国で放送された架空の言語を使ったクイズ番組。会話内容は理解できないが、クイズの題材が日本の芸能ニュースであるため、なんとなくわかるのが面白い。後に特番化された

◆『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』はTVerにて2月7日まで配信中。

●大森時生(おおもり・ときお) 
1995年生まれ、東京都出身。2019年にテレビ東京に入社。『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ2022」に優勝。『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』『島崎和歌子の悩みにカンパイ』ほかの企画・演出を手がける