1月10日、世界的ロックギタリストのジェフ・ベックが細菌性髄膜炎により、78歳で逝去した。その報は世界中を駆け巡り、日本でも多数のメディアが取り上げた。
では、ジェフ・ベックはどんな功績を残した人物だったのか? アメリカのバンド「メガデス」の元メンバーにしてスーパーギタリスト、マーティ・フリードマン氏と彼の偉業を振り返ってみたい。
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■新しい音楽ジャンルを開拓し続けた男
――ジェフ・ベックが天国に旅立ちました。今の率直な気持ちは?
マーティ・フリードマン(以下、マーティ) ショックです。言葉が出てこない。僕はギタリストとして彼の後輩に当たります。プロのミュージシャンとして彼について深く語る責任があると思っています。「とてもうまいギタリストでした」なんて、ひと言では済ませたくない。彼は、僕のミュージシャン人生のお手本なんです。
――ベックといえば、今年4月に来日するエリック・クラプトン、ハードロックの開祖「レッド・ツェッペリン」のジミー・ペイジと共に「世界三大ギタリスト」と呼ばれていた伝説的存在です。
マーティ クラプトンもペイジも、ロック史の中では革命的な存在ですが、ベックはそれ以上の〝天才〟でした。これは一般論だけど、「キャリアの初期が絶頂期」というミュージシャンは少なくない。年を取るごとに体力が衰えていったり、創作意欲に陰りが見えてきたりするのは当然でしょう。
でも、ベックにそれは当てはまらなかった。年を追うごとに新しいジャンルを切り開き、成長し続けていったミュージシャンだったんです。
改めてベックの経歴を振り返ってみると、1965年に「ヤードバーズ」というポップ・ロック・バンドに加入してデビュー。
その後、第1期「ジェフ・ベック・グループ」ではブルースロックというジャンルを開拓し、第2期ではソウルなどのブラックミュージックに接近。「ベック・ボガート&アピス」というバンドではハードロックを実践しました。
70年代中期からはジャズやフュージョンといった歌のない音楽で、ギターソロをボーカルのように歌わせる「ギターインスト」というジャンルを確立、後年はテクノミュージックにギターを合体させる実験的なこともやっていましたね。
――まさにジャンルを超えたアーティストだった。
マーティ さらに人材の発掘力もすごかった。名ボーカリストのロッド・スチュワートの才能を見いだしたのは彼ですし、現在「ローリング・ストーンズ」でギターを弾いているロン・ウッドも、元はベックのバックバンドだった。
70年代には当時のブラックミュージック界のナンバーワン的存在といえるスティーヴィー・ワンダーともコラボもしている。全員一流の人ばかりですよ。
■70代にしてジョニー・デップと共演する胆力
――昨年には映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』などで知られる俳優のジョニー・デップとのコラボアルバム『18』を発売し、ファンを驚かせました。
マーティ 普通、ベックくらいキャリアのある人だったらこんな挑戦はしないですよ。一方で、実はジョニー・デップはみんなが思っている以上にミュージシャンシップにあふれた人で、「ハリウッド・ヴァンパイアーズ」というバンドでデビューしたこともある。
ジェフ・ベックはデップの才能を見抜いていたのでしょうね。そのコラボを70歳過ぎてからやっているのが最高クールです。この冒険心には嫉妬するほどですよ。
――ベックは晩年までルックスもクールでしたね。
マーティ めっちゃカッコよかったよね。それは、バックバンドにたくさんの女性ミュージシャンを入れていたからかもしれない。いくらギターがうまくてもガールズバンドの中にしょぼくれたオヤジがいたらイメージ悪いじゃん。見た目も相当気を使っていたと思います。
――そういえば2016年のアルバム『Loud Hailer』ではバンドメンバーの多くが女性でしたね。
マーティ 実は僕もバックバンドに女性ミュージシャンを入れているんですが、ベックの気持ちがすごくわかります。
どうせうまいミュージシャンとやるなら、かわいい女のコと組みたいじゃないですか。女のコとバンドをやると元気をもらえますから。
それに世界的な傾向としてダイバーシティ(多様性)という考え方が広がっているから、そういう考え方の人にもファンになってほしいという戦略もあると思う。ベックには男の生きざまのレッスンがたくさんありますよ。
■どうしたらあの音が出るのかわからない!
――マーティさんはベックのギタープレイに影響を受けたことはありますか?
マーティ 実は彼の曲やギターにはあまり影響を受けていないんです。ベックが流行していた70年代後半から80年代のアメリカのギタリストたちは、「ジェフ・ベック派」と「エディ・ヴァン・ヘイレン派」に分かれていたが、僕はどちらのプレイもまねできない、絶対に手が届かないものだと感じた。だからアルバムを聴かせてもらったりはしたけど、真剣にコピーまではしませんでした。
でも、一回だけライブでカバーしたことがあって。僕が80年代後半にやっていたバンド「カコフォニー」のメンバー、ジェイソン・ベッカー(ギタリスト)が90年代に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患ってしまったんです。
その治療を応援するためにチャリティライブが企画されました。そこでジェイソンが大好きだったベックの名曲『哀しみの恋人達』(アルバム『ブロウ・バイ・ブロウ』収録)をプレイすることにしたんです。
今にして思えば、ちゃんと弾けていたかどうかわからない。ギターの神様の名演を僕が再現できるわけがないですから。しかも、ライブで僕の後に出演するのはエディ・ヴァン・ヘイレンだったんです。僕はこの日、ギターの神様ふたりに挟まれていたんですよ。本当にバカなことをしたなぁ、と(笑)。
このライブのときにわかったんだけど、ベックがどんなテクニックを使って弾いていたか、何をどうやってあんな音を出せていたのかよくわからなかった。あの伸びやかなトーン、変態的な音使い、変拍子のセンス......すべてがスペシャルです。あのプレイは彼の人生と経験の中から生み出されてきたものだと思います。
――最後にベックに何かメッセージはありますか。
マーティ 生前にコラボレーションをしておけばよかったと後悔しています。僕の友人のスティーヴ・ルカサー(人気ロックバンド「TOTO」のギタリスト)がベックの親友で、彼のプロデュースもしていたんです。
だから、ルカサーに頼めば彼と共演できたかもしれない。一緒にプレイをしたかったです。そして彼と話をして、その生きざまを間近で見たかった!
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ジェフ・ベック逝去の報の数日後、今度は日本のテクノバンド、YMOの高橋幸宏(ボーカル、ドラム)が脳腫瘍の闘病生活を終え、旅立った。憧れのアーティストたちの死は寂しいものだが、彼らの音楽と生きざまは永遠に生き続けるだろう。ネバー・ダイ!
●マーティ・フリードマン
アメリカ出身のギタリスト・ミュージシャン。ヘヴィメタルバンド「メガデス」などに在籍し、世界で2000万枚以上のCDをセールス。現在は日本に在住し、ソロ活動のほか綾小路 翔、ももいろクローバーZらとコラボを行なっている。『第59回NHK紅白歌合戦』『題名のない音楽会』『タモリ倶楽部』などのテレビ番組にも出演。3月からは全米ツアーを開始。最新アルバムは『TOKYO JUKEBOX 3』