人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが10,11月の『キン肉マン』連載をレビュー!人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが10,11月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが昨年10、11月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
(この記事は、2022年12月12日発売『週刊プレイボーイ』52号に掲載されました)

―今回の「先月の肉トーク」テーマ―

394話 乱暴者の素質!!の巻(10月3日分)
395話 バベルの試練の真意!!の巻(10月16日分)
396話 背撃の好敵手!!の巻(10月23日分)
397話 背骨折りの極意!!の巻(11月6日分)
398話 獲物は逃がすな!!の巻(11月13日分)
399話 猛威の戒律!!!の巻(11月20日分)
あらすじ
超神vs超人のバベルの塔第5戦は、ロビンマスクvsランペイジマン。マンモスマンの助けで鳥取砂丘からよみがえり、復帰第1戦となったロビンマスクは"仮面の貴公子"とは思えぬラフファイトを序盤から繰り出す!

●ロビンマスクvsランペイジマンは、屈指の名勝負!

燃え殻(以下、) 今回は、ロビンマスクとランペイジマンの試合が終わるところまでなんだけど。

爪切男(以下、) それにしても、いい試合でしたね。ロビン、普通に戻ってきたんじゃなくて、荒々しい闘いっぷりで。

 ロビンマスクがタワーブリッジで勝負を決めたとき(398話の最後のコマ)の顔が、初期の『キン肉マン』の頃の顔に似てるんだよね。昔っぽい顔。ゆでたまご先生、どんどん画風が変わってるじゃない? 超人タッグの頃とか、コロコロしている画の時期もあったけど、今はまた実写に近い画と描き分けてると思う。

 あらためて、タワーブリッジっていい技なんだなって思いましたね。シンプルで、説得力抜群。プロレスでいうところの燃える展開ですよね、貴公子じゃない、乱暴なロビンを見られるっていうのは。勝った後の決めポーズもカッコいいし。人さし指をこう立てて。

 あと大事なのが、ランペイジマン、いい悪役だったよね。個性がある神だった。

 そうそう。今までの神様の中で、いちばん噛み合っていて、すごくハイスパート(見せ場の多い)なプロレスでしたよね。めちゃくちゃ燃える試合だった。ずっとふたりが攻め合っていて。

 もし、アニメ化なんかがあればおもしろいところだし、動いてるところが見たくなる試合だよね。

 そう。読んでいて思い出したのが、昔、秋山準と柴田勝頼が、WRESTLE-1GPで闘ったときに、柴田がものすごい蹴りまくって、秋山が流血してブチキレて、場外でありえないぐらい柴田をイスで殴りまくる。

 あった、あった!

 NOAHの秋山準だったのが、乱暴者の秋山準になって、むちゃくちゃ怖くなって。それを引き出したのが柴田勝頼。当時、柴田はいろんな相手にケンカを売ってたけど、いちばん噛み合ったのが秋山準だった。意外と噛み合う相手っているんだな、と思いますね。

 まさに今回のロビンマスクが秋山準だよね。

 ランペイジマンも、神でありながら乱暴者になるっていい展開ですよね。行儀のよかった人が荒々しくなるのは、いいですよね。俺がずっとプロレス好きの友達と言ってたのは、棚橋弘至のヒールが見たい。

 ああ、ああ。

 今からはもうやらないと思うけど。蝶野正洋みたいになれたのは棚橋かもしれない。

 おもしろいよね。

 棚橋がやると、不思議なヒールになると思う。女性ファンもついてくるし。中邑真輔がいてくれたら、棚橋がそういうことをする余裕があったかもしれないですけどね。WWEへ行ってしまったし、柴田なんかもケガがあったから。その分を背負いすぎましたね、棚橋が。乱暴者の棚橋、見たかったな。今のあの超ベビーフェイスも、棚橋にしかできないですけど。

 そうだね。ストーリー上まったく無理なく、ランペイジマンが凶暴なロビンマスクを引き出していて。ロビンマスクの初登場時、正義超人のリーダー的存在になる前の、仮面のツノで相手をグサグサ刺してた頃の感じがよみがえってきた。

●次の試合は、キン肉マン? バッファローマン?

 ロビンマスクの試合の後で気になるのは、塔の上からの景色を早く見たいのと、スクリュー・キッドがやられた相手が誰だったのかですね。

 ああ、そうだよね。

 で、あと2試合じゃないですか。キン肉マン戦とバッファローマン戦。

 僕は素直に、最後にバッファローマンが残るって、興行としておもしろいな、と思ってた。見たことがない光景だもんね。キン肉マンが先に闘って、バッファローマンが最後に残るっていうのは。最後の試合がキン肉マンだったら、順当すぎるしね。

 でも、先にキン肉マンが出たら、それはそれで安牌になっちゃいますけどね。「どう考えても負けはないよね」みたいな。そこでキン肉マンがどういう闘いをしてくれるか、楽しみですけど。

 今のところ、超人側に負けはないしね。

 ウォーズマンが引き分けだったのと、サンシャインとアシュラマンのタッグマッチは、試合は勝ったけどサンシャインが消えてしまった。サンシャイン、塔の上に行ったら、何事もなかったように復活してたらおもしろいんですけどね(笑)。『キン肉マン』が少年ジャンプの頃も、そういうの、許されていましたからね。「あ、よみがえったんだ?」って。

 読者も「そうか」で終わらせてたしね。でも、試合の前の予想から、殺される可能性があるのは、バッファローマンとサンシャインだって......。

 燃え殻さん言ってましたよね。今のところ的中してる。

 と思うので、もしキン肉マンが先に出て勝つと、さらにバッファローマンに黄信号が灯る。興行的には、最後にバッファローマンが勝たなきゃいけないんだけど。

 じゃあ例えば......バッファローマンが勝つけど、この塔の中で何かが起こって、全員を生かすためには誰かが犠牲にならないといけない。それでバッファローマンが最後に「俺のことはいいからみんな天上へ行け!」って言って、死ぬとか。

 似合うねえ。

 例えば、バッファローマンが勝ったところで、スクリュー・キッドを倒したヤツらが乱入してくる。で、バッファローマンがとんでもないハリケーン・ミキサーをぶちかまして、全員ぶっ飛ばすんだけど、バッファローマンも力尽きて死ぬ、とかね。

燃 いいねえ。最後に彼が犠牲になることによって、なんらかの危機を回避できる。

 塔が崩壊するのを止めるとか。そのために誰かが人身御供に、っていうときに「俺が行く」というのが似合いますよね。で、キン肉マンが泣く。

 ありえるなあ。

爪 でも、ようやくですね、キン肉マンの試合......でも、最近で言うと、ちょっとウマ娘的な感じもしますね。ウマ娘も、全部のウマにファンがいるんですよね。『キン肉マン』も、それぞれの超人のファンがいる。ウマ娘より何十年も前から、各キャラが立っていて、主人公が試合しなくても許される。『キン肉マン』のすごいところですよね。ファン、誰も怒んないもんな、キン肉マンが出なくても。だって『DRAGON BALL』で、悟空がいつまでも闘わないとか、ありえないですもんね。

 ありえないよね。

 『聖闘士星矢』だって、星矢、けっこうなターンで試合してたし。『魁!!男塾』も、桃はちゃんと試合する。 

 でも『キン肉マン』は、キン肉マンとほかの超人たちを、並列で話せるところがおもしろい。そこまでキャラが作り込まれている、っていうことなんだろうけど。

●誌面掲載最終回。これまでの総括

 この対談、誌面に載るのは今回が最後で、次回からウェブの『週プレNEWS』の月イチ連載になるんだけど。

爪 この対談のおかげで、エル・デスペラードさんとも、ハリウッドザコシショウさんとも、超人・技図鑑を作ったGakkenの芳賀靖彦さんにも会えたし、ゆでたまご嶋田先生の事務所にお邪魔して、先生とお話もできた。(目の前のこれまでの対談掲載誌を見て)しかし、けっこうな量ですね。今回で17回目か。よくしゃべりましたよね、『キン肉マン』というひとつのテーマで。

 ほんとそうだよね。

 俺らもほかのマンガだったら、月に一回誌面に載せられることをしゃべれって言われても、無理でした。

燃 無理だよね。子供の頃、マンガ研究会でジャンクマンを描いてたって話、前にしたけど。その頃から考えたら、こうして『キン肉マン』の仕事に携われるっていうのは、うれしいよね。想像だにしてなかったことだなあ、と思う。『キン肉マン』に縁のある人たちに会えたのも、おもしろかったし。昔『キン肉マン』がジャンプで連載してたとき、「来週こうなる」とか、クラスでみんなで話してた。50歳近くになってまた、みんなで「今度の試合、ロビンマスク、次こうなるんじゃない?」みたいな話を、子供のときみたいにできたのがうれしかったな。

 しかも、『キン肉マン』掲載誌というオフィシャルの場でね。

 そう、ここでやっている、というのがおもしろい。部室でジャンプを回し読みしてた時代の頃の気分のままで。やっぱり、今でも『週刊プレイボーイ』で『キン肉マン』が連載されているから、みんないろんな所で、子供の頃と同じように『キン肉マン』を読んでいて、「来週どうなるんだろう?」っていう話をしているだろうし。昔の頃を思い出させてくれつつ、今もちゃんと生きてる感じが、すげえいいなあと思うんだよね。みんなの真ん中に『キン肉マン』があって、いろんな話ができる、っていうのは。

21年5月17日(月)発売『週プレ』22号より掲載が始まった本コラム。先月の連載を話し合う、というムチャぶりを楽しんでいただいたおふたりに感謝です21年5月17日(月)発売『週プレ』22号より掲載が始まった本コラム。先月の連載を話し合う、というムチャぶりを楽しんでいただいたおふたりに感謝です

 ほんとにそうですよね。

 雑談できるマンガなのがいいよね。ここまでそれができるマンガ、ほかにないから。

 飽きっぽい燃え殻さんが、よくここまでやってくれたなと思いますね(笑)。

 『キン肉マン』は飽きないよ!

 それも、ほかのマンガだったらこうはいかないだろうな、と思います。思い出だけで語るのはきついじゃないですか? でも、燃え殻さんが言ったように、『キン肉マン』はちゃんと現在進行形だから。今日みたいに、最新の試合であるロビンマスクとランペイジマンの話ができる。

 あと、超人募集とかもそうだけど、読者みんな参加型のマンガになっているのも、大きいよね。『キン肉マン』が、自分と離れたものじゃなくて、ちょっと参加してる感じがあるっていうか。なんか近くないですか? ほかのマンガより。

 ああ、そうですよねえ。

 近いところにいるんだよね。『キン肉マン』という作品も、出てくるキャラも。

 確かに。じゃあこれから超人を考えて、応募しましょうよ。フェアに、俺も偽名で出すので。燃え殻さんみたいな超人にしようかな、疲れた感じの(笑)。

 爪さんと『キン肉マン』の話をしてきて、だいぶ疲れは取れてきてるんだけどな。

爪 週プレNEWS』に移っても、どんどん『キン肉マン』の魅力を伝えていきましょう!
※1月30日0時前後配信の本コラムより、『週プレNEWS』へ移籍します。変わらぬご愛顧宜しくお願い致します。

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は二村ヒトシ氏との共著『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで、ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演・阿部寛)はDisney+でそれぞれ配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中

●1月30日(月)0時より『キン肉マン』405話配信、同日発売『週刊プレイボーイ』7号にも掲載!