日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 今週は『マッドマックス』のジョージ・ミラー監督と『ロボコップ』のポール・ヴァーホーベンの新作だ。

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『アラビアンナイト 三千年の願い』

評点:★4点(5点満点)

© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD. © 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

「物語」はなぜ語られなければならないのか

我々人間は「物語」なしに生きることができない。「物語」を「神話」と言い換えることもできるが、本作はまさに「物語」がなぜ語られなければいけないのか、ということについての「物語」だ。

主人公の女性アリシア(ティルダ・スウィントン)は「物語論」の研究者。彼女が学会で訪れたイスタンブールで買った小瓶の汚れを落とそうとして表面をこすると......魔神ジンが現れて「3つの願い」を叶えてくれるという。

アリシアは「3つの願い」のトリッキーな側面を熟知していたので、代わりにジンに「物語」を語るよう促し、ジンは3つの時代に生きた3人の女性それぞれの「願い」にまつわる「物語」を語り始める。そして、その「物語」は端的に「HERSTORYHISTORY=男性視点で語られる歴史/物語の対抗概念)」だということができる。

面白いのはそれぞれの「物語」でジンが決定的な役割を果たせずじまいに終わるところだ。彼の思いは常に空回りを余儀なくされる。つまり、ジンは彼自身の「物語」を欠いており、それはアリシアも同様だ。そんな二人が出会ったことが新たな「物語」を生む。スイートでミスティカルな現代のおとぎ話である。

STORY:世界の物語や神話を研究する学者アリシアが購入した美しいガラス小瓶から巨大な魔人が飛び出した。魔人は「3つの願い」をかなえると申し出る。しかし、アリシアは願い事をかなえる物語にハッピーエンドがないことを知っていた。

監督・脚本:ジョージ・ミラー

出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン

上映時間:108分

TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

『ベネデッタ』

評点:★4.5点(5点満点)

© 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA © 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA

さまざまな「現実」のせめぎ合いが痛烈

デカルトが『方法序説』を著し、ガリレオ・ガリレイが地動説を唱えた17世紀、ヨーロッパでは依然としてキリスト教が権勢をほしいままにしており(サン・ピエトロ大聖堂が竣工したのもこの時代)、魔女狩りの嵐も吹き荒れた。ベネデッタ・カルリーニはそんな時代、イタリア中部の小さな町ペシアの修道院に実在した修道女である。

彼女はキリストを幻視し、聖痕を受け、トランス状態で天使の言葉を語った。そういう奇跡は崇敬の対象となる一方、そこには疑惑もあり、また別の修道女と性的な関係を持ったことが問題視されて裁判にかけられた―その裁判記録が貴重なのは、他に類を見ない当時の同性愛についての手がかりを与えてくれるからである。

ポール・ヴァーホーベン監督は得意の徹底したリアリズム表現を用いてベネデッタにとっての、教会にとっての、また他の修道女にとっての「現実」を皮肉に併置してみせる。それらの総体が「17世紀イタリアの現実」となるわけだが、安易に現代性を持ち込まなかったことで得られたものは大きい。当時の(キリスト教の)教養から最も遠い下層階級の人間が逆説的に「現代的」に見えるところが本作の皮肉の真骨頂だ。

STORY:17世紀、ペシアの町。6歳で出家した少女ベネデッタは成人後、修道院に逃げ込んだ若い女性を助け、秘密の関係を深めていく。聖痕を受けてイエスの花嫁になったとみなされたベネデッタは新たな修道院長に就任するが......

監督:ポール・ヴァーホーベン

出演:ヴィルジニー・エフィラ、シャーロット・ランプリング、ダフネ・バタキアほか

上映時間:131分

新宿武蔵野館ほか全国公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru