この巻から「夢の超人タッグ編」の各試合が本格始動! トーナメント・マウンテンでの手に汗握る熱戦が始まり、興奮のツープラトン技も続々登場。さらに新勢力の出現も!?
●『キン肉マン』18巻
●チュートリアルには豪勢すぎる開幕戦!
タッグ・トーナメント開幕戦、まず読者の目をクギ付けにしたのは新キャラのキン肉マングレートです。鮮烈なマーシャルアーツ・キックで開始早々に四次元殺法コンビを圧倒、この絶大なインパクトで当シリーズきっての人気キャラに急浮上してきました。
しかしこの大会、ロビンマスクにバッファローマン、アシュラマンとこれまでの全編を代表する超人オールスター総出演なわけで、そこにぽっと出の新顔が入ったところで埋もれるのが関の山。でもグレートは埋もれるどころか試合開始からたった数コマで読者の心を鷲掴みにし、その効果でまだ新シリーズに様子見状態の読者の期待感まで同時に揺り覚ましたのです。
こういうところに、ゆでたまご先生の勝負勘の鋭さを感じずにはいられません。
そして、相手の四次元殺法コンビもまた面白い。スゴいのはなんでブラックホールとペンタゴンが仲良くコンビを組んでいるのか、事前説明が一切ないんですね。実はいとこだった、なんて話も当時は一切なし。ブラックホールに至ってはバッファローマンとの会話すらなく、そのくせ接点の欠片も見えないペンタゴンと、長年のパートナーのように息の合ったコンビプレイを喜々として見せていく。しかもそこそこ強い(笑)。『キン肉マン』って時々、懐かしのキャラがこうして予兆なく復権してくることがあるように思うのですが、他のバトルマンガと比べてキャラの強さのインフレが抑えられているのは、そういうところにも秘密があるのかなと思ってます。
さて、この試合ですが、これは実質"タッグマッチ"という試合形式の楽しみ方を読者に理解してもらうべく、ゆでたまご先生が用意されたいわばチュートリアル戦だったとも思うんですね。その本質をわかりやすくまとめたのがグレートのこの言葉「1プラス1がそのチームワークによって3にも4にもなる!! しかしチームワークが乱れてしまっては2にもならなくなってしまうものだ!!」
どう考えてもキン肉マン側が勝つように思えても、コンビネーション次第で軽く足をすくわれる。そしてその状況をゆでたまご先生も次々と見せてくれます。しかし、その苦境をなんとか跳ね除け、チームワークが最大に高まったときついに飛び出す驚愕の合体技"マッスル・ドッキング"。この大発明ともいえる技が、チュートリアルという意味合いだけでは語れないインパクトを読者に与え、超人プロレスという競技をさらに数段階、上の次元に引き上げました。読者からしてみれば「こんな技がこれからまだまだ出てくるのか!?」と妄想せずにはいられない。総じて、今後控えている人気超人たちの試合への期待感を爆発的に高めてくれた、最高のシリーズ開幕戦だったと思います。
●先の読める試合は描かずにぶち壊す
そして、この巻のもうひとつの大ネタは新勢力"完璧超人"の出現です。第2試合の2000万パワーズ対モスト・デンジャラス・コンビ戦。読者の大半が、2000万パワーズ勝利を予想したかと思うのですが、ここでゆでたまご先生のよく使われる秘術のひとつ「結果が見えている流れは描かない」が炸裂。代わりに、突如現れたスクリュー・キッド&ケンダマンの乱入コンビがモスト・デンジャラス・コンビを一蹴してしまいました。
すでに、ふたつ存在している不穏枠、はぐれ悪魔超人コンビ、ヘル・ミッショネルズがまだ何もしないうちに、よもやの3つ目の不穏枠が先に登場して大暴れを始める事態に読者も大混乱。しかも彼らは、新勢力"完璧超人"を名乗ったばかりですから「そんな新勢力がすぐ負けるわけがない。え、もしかしてこのまま2000万パワーズも負けちゃうの?」と、最も先が読みやすかったはずの第2試合の一寸先は突如として真っ暗闇に!
しかし、ここでまたゆでたまご先生のマジックが炸裂。謎の新勢力・完璧超人は即刻2000万パワーズに倒されてしまったのです。読者からしてみればもちろん嬉しい!...けれど心は複雑です。「お前ら一体、何しに来たんだ?」状態です。
そこへとうとう、正体を明かすのが今シリーズ最大の不穏枠だったヘル・ミッショネルズ。新勢力たる完璧超人の本丸はこっちだったんですね。さてこの新顔、今回は一体どういう素性のどんな因縁でキン肉マンを狙いにきたかと思いきや、なんと因縁があるのは主人公のキン肉マンではなく、その斜め先のロビンマスクだった!?...というのもまた展開として新鮮です。
そして、このネプチューンマンというキャラがまた深い。誇りの高さに男として憧れるといいますか、己の能力を認めない世を蔑(さげす)みながら川に身を投げたという彼のエピソードが僕は大好きで、僕自身も描いた漫画がまったく世に評価されなかった時期には嘆いて川に飛び込んで、その写真を友達に撮ってもらったことがありました。
あの時、自分は死んだと周りに喧伝(けんでん)して樹海にこもり、森の中で4コマ100本描いては誰にも見せず焼き捨てるなんてハードな修行にもチャレンジしたものですが、そんな僕の話はともかく(笑)、明らかに敵ながらそれほどの孤高の魅力を放つ彼に、僕はまた激しく興味を掻き立てられたのでした。
そして飛び出す超必殺技クロス・ボンバー。単純明快にして抜群の破壊力を感じるこの新技の登場にてタッグマッチの魅力を存分に示し尽くしたところでヘル・ミッショネルズVS超人師弟コンビ戦の決着は、次巻へと持ち越します。
●キン肉マン4コマ
●こんな見どころにも注目!
僕がこの巻で忘れがたいのがこのページ。ブラックホールの異次元空間を破壊すべく屁をかますキン肉マンにも、ブラックホールは余裕のポーズを崩さない。まず臭くなかったのかという問題もさておき、その後のセリフ「おまえのホワイトホールをくってもいいように、ブラックホールの壁を二重にしておいたのさ!」...って、どういうこと? 難解すぎる!? その言葉に愕然と抵抗をあきらめる次のページのキン肉マンまで含め、ゆでたまご先生のパワープレーぶりが存分に堪能できる一幕です
●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!