ミスタープロ野球チップスこと、カルビー(株)マーケティング本部の三井剛さん ミスタープロ野球チップスこと、カルビー(株)マーケティング本部の三井剛さん

お目当ての選手のカードを求め、野球ファンであれば一度は買ったことがあるだろう、カルビー「プロ野球チップス」。1973年に「プロ野球スナック」として誕生し、今年は誕生50周年のメモリアル・イヤーだ。

その長い歴史のなかでも、2009年から「プロ野球チップス」の"ひとり担当"として歩んできたのが"ミスタープロ野球チップス"こと、カルビー(株)マーケティング本部の三井剛さんだ。

カードデザインや選手の紹介方法などを時代ごとに変えながら、数々の野球カードを生み出してきた背景にはどんなドラマがあったのか? そして、発売されたばかりの2023年版カードのこだわりとは?

《野球カードの世界にも「大谷ルール」があった!》

――50周年を迎えた「プロ野球チップス」で、三井さんは担当14年目。これまで担当されたなかで、これは革新的なことができた、というカードはありますか?

三井 ひとつは、やはり日本ハム時代の大谷翔平選手ですね。二刀流選手をカードでどう表現すべきかを考え、はじめて1枚のカードのなかに写真をふたつ並べるレイアウトを採用しました。

そして、写真以外にもうひとつ、大谷選手の登場で変えたことがあります。裏面の記録紹介部分では、投手であれば何試合出場で何勝したのか、打者なら何試合出場でどんな成績かを記していました。

ただ、大谷選手の場合、「出場試合」にすると投手なのか打者なのかわかりません。そこで、大谷選手の登場以降、投手の記録は「登板数」に変更することにしたんです。

大谷翔平の二刀流はプロ野球カードにも影響を及ぼす 大谷翔平の二刀流はプロ野球カードにも影響を及ぼす

――カードの世界でも大谷ルールが生まれたと。ほかに、50年の歴史を振り返って画期的だったカードといえば?

三井 野茂英雄投手(当時、近鉄)のトルネード投法や、イチロー選手(当時、オリックス)の振り子打法など、成績でもフォームでも画期的だった選手は特別に枚数を増やし、連続写真のように見えるカードにしていましたね。

また、日本初のドーム球場である東京ドームの登場も画期的だったということで、東京ドームの外観や人工芝がカードになったこともあります。ほかにも、広島カープにいたベースボール犬ミッキーや、私が担当したものでは中日のドアラ、ヤクルトのつば九郎といったチームマスコットもカードにしたことがあります。

ただ、やはりファンのお目当ては選手です。選手以外のカードは期待を裏切っているのかも......と考え、あまり奇をてらったカードにし過ぎないようにとも心かげています。

≪2023年第一弾カードを一部ご紹介 その1:スターカード佐々木朗希≫

令和の怪物・佐々木朗希。WBC1次ラウンドチェコ戦でも大活躍 令和の怪物・佐々木朗希。WBC1次ラウンドチェコ戦でも大活躍

――三井さんが担当されたなかで、制作過程で思い出深かったカードはなんでしょうか?

三井 まだ私が担当し始めたばかりの2009年、ドラフトで注目されたのが西武に1位指名された菊池雄星投手。ただ、通常第一弾カードに新人選手は入れない、というか、キャンプインする21日までユニフォーム写真が入手できないため、制作工程的に入れられないんです。

それでも、話題だった菊池投手をどうにか入れられないかと、西武球団さんが宣伝用に撮影していたユニフォーム写真を特別にお借りして、制作会社にもスケジュールをギリギリまで調整いただいて、第一弾カードに入れたことがあります。

≪2023年第一弾カードを一部ご紹介 その2:タイトルカード村上宗隆≫

昨年の三冠王・村上宗隆。WBCでも徐々に調子を上げ始めている 昨年の三冠王・村上宗隆。WBCでも徐々に調子を上げ始めている

――そんな第一弾カード、今月発売される「2023年版」では何枚のカードを用意されていますか?

三井 今年の第一弾は「レギュラーカード」が60枚、「タイトルホルダーカード」が18枚。そして、各チームの人気選手2枚をキラカードにした「スターカード」が24枚。昨シーズン限りで引退した福留孝介さんや引退後も人気の杉谷拳士さんといった「レジェンド引退選手カード」が8枚。さらに、4枚の「チェックリストカード」を加えて、全部で114枚のカードがランダムに封入されています。

≪2023年第一弾カードを一部ご紹介 その3:タイトルカード山本由伸≫

昨年投手六冠の山本由伸。WBC1次ラウンドオーストラリア戦でも先発として勝利に導く 昨年投手六冠の山本由伸。WBC1次ラウンドオーストラリア戦でも先発として勝利に導く

――チェックリストカード、というのは?

三井 今回の第一弾にはどんなカードがあるのかを知っていただくため、裏面をリストをしたカードです。ネットもなかった時代には重宝されたようで、その伝統が続いています。

例年、第一弾のチェックリストカードには、前年度優勝チームの胴上げシーンを表面に掲載しているのですが、今年はヤクルトの村上宗隆選手が56本塁打を放ってガッツポーズしているシーンを使わせてもらいました。きっとこちらのほうを欲しがるファンが多いんじゃないかなと。

――その第一弾が発売されても、三井さんはすぐに第二弾の準備ですか?

三井 そうですね。第二弾は6月発売ですので、4月末にはカードデザインや裏面の文言を入稿しなければなりません。そのため、3月下旬には各球団に「この選手をカードにしたい」と提案する必要があります。理想としては開幕直後に活躍する選手になりますが、まだシーズンが始まっていないからこそ目利き力が必要で、毎年この第二弾カードが一番難しいですね。

――そんななかでも、去年の第二弾では佐々木朗希投手(ロッテ)の完全試合でキャッチャーを務めた松川虎生選手、新人王に輝いた巨人の大勢投手を入れていたのは、まさに素晴らしい目利き力ではないかと。

三井 あれは上手くハマった例ですね。実際には上手くいかないほうが多いですから。

≪2023年第一弾カードを一部ご紹介 その4:タイトルカード大勢≫

昨年新人王を獲得した大勢。WBC1次ラウンドオーストラリア戦で初登板。翌日、ダルビッシュとラーメンを食べに行ったことも話題に 昨年新人王を獲得した大勢。WBC1次ラウンドオーストラリア戦で初登板。翌日、ダルビッシュとラーメンを食べに行ったことも話題に

《どのカードも、ファンの誰かにとっては当たりカード》

――カードになった選手からなにか反応はありますか?

三井 阪神のある投手が猛打賞を記録したのが珍しかったので、打撃シーンを使用したことがあります。するとその投手が何かのインタビューで、「ピッチャーなので投げているところがよかった」とコメントしているのを拝見したときは驚きました。

実は今年の第一弾カードでも、DeNAの京山将弥投手の打撃シーンを採用したんです。これは、昨シーズンDeNAが記録した「ハマスタ17連勝」の17勝目に先発し、プロ初アーチも放ったのが京山投手だったから。DeNAファンの方に17連勝を思い出してほしい、という狙いでこの写真を選びました。それでも、やっぱり投球シーンが良かったかな......と今でも悩ましいです。

≪2023年第一弾カードを一部ご紹介 その5:スターカード宮城大弥≫

WBC1次ラウンドチェコ戦では、佐々木朗希先発で宇田川を挟み、宮城が5回を投げ切った WBC1次ラウンドチェコ戦では、佐々木朗希先発で宇田川を挟み、宮城が5回を投げ切った

――でも、「プロ野球チップス」の野球カードを通してファンの記憶喚起につながることは実際にあると思います。今年1月、南海などで活躍された門田博光さんが亡くなられた際、SNSでは「プロ野球チップスではじめてパ・リーグの選手を認識したのは門田さんのカードだった」といった投稿を見かけましたが、50年続いてきたからこそのファンの受け止め方だと感じました。こういったファンの反応はどのように捉えていますか?

三井 カードのことでお客様に反応いただけるのはやっぱり嬉しいですね。意識しているのは、どのカードもファンの誰かにとっては当たりカードである、ということ。当たって嬉しい人にしっかり喜んでいただけるカードにしよう、と心がけています。

≪2023年第一弾カードを一部ご紹介 その6:レジェンドカード福留孝介≫

海を渡りメジャーでも活躍、2009年のWBCでのホームランも記憶に新しい福留が昨年引退 海を渡りメジャーでも活躍、2009年のWBCでのホームランも記憶に新しい福留が昨年引退

――それこそ、50年続いてきた秘訣のように感じます。ほかに、長く愛されるために大切にしていることはなんでしょうか?

三井 大人の購買層も数多くいらっしゃいますが、メインターゲットはあくまで小学生男子向けのカード、という部分はブレないように心がけています。

だからこそ、今も裏面の文章部分にはフリガナがふってあるんです。今だと情報はSNSでもすぐに入ってきますが、昔は選手名鑑でも買わないかぎり、このプロ野球カードが大事な情報源だった。そのことを意識して、小学生に読んでもらえるカードを目指しています。

また、デジタルの時代にアナログカードにこだわっているのも小学生向けだからです。やっぱりコレクションというものは、現物があるからこその喜びもあると思うんです。デジタル化が重視される時代ですが、もうしばらくは現物のアナログカードであることにこだわったほうがいいのかなと考えています。

子供から大人まで楽しめる配慮が伝わるカード裏面 子供から大人まで楽しめる配慮が伝わるカード裏面

――3月発売の第一弾に続き、今年の第二弾、第三弾で考えていることは?

三井 WBCでの活躍はどこまで反映できるか。ギリギリまで粘りたいですね。あとは、この3月に開場する日本ハムの新球場、エスコンフィールドHOKKAIDOの勝利第1号かホームラン第1号のカードはぜひ作りたいです。

≪2023年第一弾カードを一部ご紹介 その7:スターカード伊藤大海≫

16日に行なわれたWBC準々決勝イタリア戦では、大谷翔平の後を受け、好リリーフの伊藤 16日に行なわれたWBC準々決勝イタリア戦では、大谷翔平の後を受け、好リリーフの伊藤

――そんな「プロ野球チップス」の視点で、これからのプロ野球に期待することは?

三井 野球は日本人の中で一番人気のプロスポーツです。今後もずっとそうであってほしい。野球が盛り上がるほど、プロ野球カードも盛り上がる好循環が生まれますから、WBCの盛り上がりそのままに、シーズンも大いに盛り上がってほしいですね。

●3月27日よりプロ野球チップス2023年第一弾発売!!!