忌野清志郎を中心とする伝説のバンド・RCサクセション。彼らが1988年にリリースしたカバーアルバム『COVERS』とライブアルバム『コブラの悩み』が、3月22日にLPレコードで復刻リリースされた。
この2作がLPでリイシューされるのは1988年に最初に発売されて以来はじめてのこと。復刻企画をしたのは大手CDショップのタワーレコードで、同社はこれまでにもRCサクセションの7インチのリイシューや、生産中止になっていたLPを再プレスするなど、RCサクセション作品の復刻に力を入れている。同社の企画担当者に話を聞いた。
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■ロック名曲を「独自の訳詞」でカバーした問題作
今回、復刻されるRCサクセションの『COVERS』と『コブラの悩み』のオリジナル盤LPレコードがリリースされたのは1988年。実に35年ぶりの復刻となる。そもそものきっかけは何だったのだろうか。
企画担当者 世界的なアナログレコードのマーケットが拡大傾向を示す一方で、その需要に対して、実は供給不足、ソフト不足の状況も発生しています。
タワーレコードでは、レコード会社から発売されるもの以外にも商材開発の必要性を感じており、高い人気と音楽性があり、アナログレコードと親和性が高いと判断した作品の復刻商品化を企画していますが、そうした中でRCサクセションの作品がピックアップされたことがきっかけです。
『COVERS』といえば、当時の社会情勢や政治に対する忌野清志郎なりのメッセージを、ボブ・ディランやジョン・レノン、ローリング・ストーンズ、エルビス・プレスリーといったロック史に残るアーティストの名曲カバーを通して、「独自の訳詞」で表現し、一度は発売中止騒動にまでなった問題作。
この発売中止騒動がかえって話題になり、後にリリースされた際にはオリコンチャートでバンド初の1位を獲得するなど、大きなヒットを記録した。
また『コブラの悩み』は、『COVERS』発売中止騒動に対する怒りを込めたライブアルバムだとも言われている。この2作はファンからのLP復刻化の声も大きかったのだろうか。
企画担当者 レコード会社やファンクラブには、2作品の復刻化、LP化を求めるファンの方々からのご要望が多かったのではないでしょうか。
タワーレコードとしては、他のRCサクセション関連商品の市場動向や作品自体の人気の高さなどからも判断して、『COVERS』と『コブラの悩み』をアナログレコードで復刻商品化した際の需要は確実にあると判断していました。
■進むアナログ音源の楽しみ方への理解
しかし、音楽のリスニング環境は今やストリーミングサービスが全盛。同2作もストリーミングで配信されている中、あえて「LPで復刻する」ということにはどのような意味があるのだろう。
企画担当者 まずこの2作は、リリースされた1988年にLPレコードで発表されて以降、LPレコードでの復刻は一度もありませんでした。また、音楽のストリーミングサービスが一般化した現在でも、アナログレコードの需要は拡大傾向にあり、CDを含めたデジタル音源とアナログレコードとの音質の違いや、楽しみ方の違いの理解が進んできていて、アナログレコードを好むファン層が顕在化してきています。
そんな中で、RCサクセション作品の音楽性とファンの方々の特性が、アナログレコードと非常に親和性が高いと判断したのです。
「復刻するからにはきちんとしたものを」ということで、商品にはそれ相応のこだわりを詰めこんだという。
企画担当者 カッティングエンジニアに名匠・武沢茂さん(日本コロムビア株式会社)を起用し、オリジナルのマスターから最新のカッティングを施し、重量盤LPレコード(180g)で発売します。
また『COVERS』はオリジナル盤のダブルジャケットを再現するなど、オリジナル盤を尊重をしながら、可能な限り音質・スペック・仕様を現代向けに魅力的なものになるようにしています。RCサクセションのこのほかの作品も、いくつかアナログレコードでの復刻を計画中ですので、ファンの皆様にはぜひお楽しみにしていただきたいです。
清志郎が亡くなって14年。その間の日本は、大震災に原発事故、そして東京オリンピックに未曾有のコロナ禍を経験した。にもかかわらず、清志郎の音楽のようなメッセージ性のこもった音楽は、すっかり少なくなったように感じる。
『COVERS』『コブラの悩み』からは、今の音楽にはない、今だからこそ響く本当のロックというものが感じられるかもしれない。そして今回の復刻を機に、こういった音楽の良さを知る人が増えてくれれば、社会や政治に興味を持つ人も増えてくるかもしれない。そんなことを考えさせてくれる名盤である。