日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 今週は『シャザム!』シリーズの第2作目と、『ファーザー』で2021年のアカデミー賞を受賞したフロリアン・ゼレール監督の最新作だ。
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『シャザム!~神々の怒り~』
評点:★2.5点(5点満点)
姿は大人!心は元の子供より幼稚なヒーローが帰ってきた!
出だしは快調である。カタストロフ的な状況においてスーパーヒーローが人助けをする姿には、たとえそれがどれほどバカバカしくても心を揺さぶられるものがある。それはスーパーマンでもスパイダーマンでも悪魔の毒々モンスターでも同じことだ。
さて『シャザム!』は、主人公の少年(とその兄弟)が「シャザム!」と叫ぶことで外見が大人のスーパーヒーローになるという設定であり、変身後も「体は大人、心は子供」というのがギャグにもなっている。これは前作でも明らかに大人状態のほうが幼稚で、そこに何ともいえないおかしみがあったのだが、今回主人公の少年はすでにハイティーンになっており、にも関わらず変身後の言動が小学校低学年児童のままに留まっているのは、それはそれで面白いと言えないことはないが、さすがに違和感があるのも事実だ。
また、せっかく兄弟全員スーパーヒーローになったのに、クライマックスがグループ戦でないのは実に残念。前作との差異化を図ったのだろうが、子供たちそれぞれの戦いをもっと観たかった。というのも、それこそが数あるヒーローものの中で本シリーズをユニークなものにしている要素のはずだったからだ。
STORY:6人の神のパワーを得た"見た目は大人、中身は子供"のヒーローを描く「シャザム」シリーズの第2作目。ヒーローとして半人前のシャザムに神々は激怒し、最強の神の娘たち「恐怖の3姉妹」を地球に送り込む
監督:デイビッド・F・サンドバーグ
出演:ザッカリー・リーヴァイ、アッシャー・エンジェル、ャック・ディラン・グレイザーほか
上映時間:132分
全国公開中
『The Son/息子』
評点:★2.5点(5点満点)
問いかけはシリアスだが展開はメロドラマ的
「チェーホフの銃」が何を意味するか知っている人が観たら、苦笑......とまでは行かずとも、多少なりとも微妙な表情になってしまうのではないかと思う(もしあなたがその意味するところを知らない場合は、映画を観終わってから調べることをおすすめしたい)。
至ってシリアスな本作における大きなモチーフは2つある。ひとつは「難しい年頃」のやりきれなさ、逃げ場のなさ、その何もかもを本人ですら理解できず、ましてや他人に分かるよう伝えることもできないもどかしさである。
「大人になる」というのはビビッドな感覚を鈍麻させることと関係しているのだが、そこには常に根源的な不条理が横たわっている。「大人」はそれを見て見ぬふりをすることにあまりにも慣れきってしまっているので、いつの時代も「若者」の魂の叫びを理解できない。
もうひとつのモチーフも「大人になる」ということと関係している。「大人になる」過程で、いつか自身が自分の親のグロテスクなカリカチュアと化してしまっていたとしたら? そうならないために人は何をするべきなのだろうか? 問いかけはシリアスで重いが、展開はどこまでもメロドラマ的でどうにも野暮ったい印象。
STORY:家族と充実した日々を過ごす弁護士のピーターは、前妻から17歳の息子ニコラスの様子が変だと相談され、ニコラスはピーターのもとに行きたいという。ピーターは彼を受け入れ一緒に暮らすが、親子の心の距離はなかなか埋まらない
監督・脚本:フロリアン・ゼレール
出演:ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーン、ヴァネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンスほか
上映時間:123分
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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