元テレビ東京の高橋弘樹氏「新チャンネルはカネがないので、より手作り感がハンパないです」元テレビ東京の高橋弘樹氏「新チャンネルはカネがないので、より手作り感がハンパないです」

登録者数100万人超のユーチューブチャンネルが突然、終了! そのプロデューサーがテレビ局を退社し、新会社を設立。いったい何があったのか? そして、これから何をするのか? 本人を直撃して「本当のこと聞いてイイですか?」

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■あの番組には裏の意図があった!

登録者数100万人を超える人気ユーチューブチャンネル『日経テレ東大学』が3月末で終了する。そして、このチャンネルのプロデューサーだった高橋弘樹(たかはし・ひろき)氏は、2月末でテレビ東京を退社した。

いったい何があったのか? 『日経テレ東大学』誕生の背景、チャンネル終了の真相などを高橋氏に直接聞いた。

――まず、人気チャンネル『日経テレ東大学』はどのように始まったんでしょうか?

高橋 日本経済新聞社から「経済を楽しく学ぼう」みたいなコンセプトで動画企画の募集があったんです。普通だったら、そういう企画はテレビ東京の報道局に行くはずなんですが、なぜか制作局に来た。それで僕が企画を出したら通ったんです。

――当初は苦戦していましたよね(2021年4月スタート)。何が原因だと思いますか?

高橋 テレビっぽく作ったことでしょうね。テレビで好まれるタレントさんに出演をお願いしたり、テロップやナレーションを多用したり、すごく手間をかけて作っていたんです。

でも、ユーチューブはごはんを作りながらとか、ランニングしながらとか〝耳〟で聴くだけの人も多い。ラジオに近いんです。だから、しゃべりで勝負する方向に変えました。

――それは、いつ頃から気がついたんですか?

高橋 2ヵ月くらいたった頃に『4歳でもわかる!にっけいしんぶん』という番組をアップしたんです。

これは日経新聞の記者が、ユーチューブで人気のぽるぽるちゃんという女の子に日経新聞の内容を解説するという番組だったんですけど、解説をしていると突然「飽きたー」と言ったりして、そのコの言動や忖度(そんたく)のなさが面白かった。それでプチヒットしたんです。

ユーチューブって、テレビに比べると「反権威」色があると思うんです。テレビはもともとは反権威だったけれど、今は権威というイメージがある。だからテレビに対する新興勢力としてのユーチューブは反権威という雰囲気になっているので、忖度なしの番組のほうが楽しんでもらえるとわかりました。

それで、日経やテレ東の事業サイドの人たちに相談したら「討論番組のようなものが見たい」というので、みんなで出演者は誰がいいかを話し合って、元東京都知事の猪瀬直樹さん、ウェブの論客としてひろゆきさん、投資家の井村俊哉(いむら・としや)さん、新進気鋭の学者として成田悠輔(なりた・ゆうすけ)さんをお呼びして番組をやったあたりから再生回数が伸びましたね。

――その後に大人気番組の『Re:Hack』がスタート(21年7月)したんですよね。

高橋 『Re:Hack』は企画の段階から事業サイドやひろゆきさん、成田さんと話をして、皆さんの意見をすべて混ぜたようなコンテンツです。

でも、この番組にはひろゆきさんや成田さんには話していない裏の意図がありました。今だから言いますが、それは「テレビ局の報道に対するカウンターカルチャーになれたらいいな」というものです。

テレビ局の報道には「権力の監視」と「不正を正すジャーナリズム」という大きなふたつの役割があります。

これはとても大事なことですが、どうしてもこのふたつの面が強すぎて、例えば、ある政治家が「どんな思いで法案を出したのか」「どんな思いで政策をやっているのか」といったことや「その人にはどんな魅力があるのか」といった部分はなかなか伝えられていない。それは、放送時間が限られていて、その時間が取れないからだと思うんです。

だから、『Re:Hack』では、政治家や文化人、学者などに、90分、じっくり話を聞いて、その人の思いや魅力を描こうとしました。

でも、その人の魅力を描くからといって、まったく批判をしないと思っていたわけではありません。例えば、経済学者の竹中平蔵さんの場合、話をそのまま聞いているだけだと、こちらだけでなく竹中さんも「また、きれいごとばかり言いやがって」と批判されると思うんです。そうなると、どっちにとっても意味がない番組になる。

――じゃあ、竹中さんを怒らせることも計算していた?

高橋 いや、してないですよ。ただ、90分という長い時間話していると、やはり議論は避けられなくなりますし、そこに人間性が見えてくる。

――だから、『Re:Hack』は、ほとんど編集なしだったんですか?

高橋 そうですね。基本的には編集しない方針でした。理由は編集するとお金がかかるから(笑)。それと、記録として残すのならば、やはり編集しないことが大事なんですよ。例えば、2022年の夏に政治家の誰々がこう言っていたという映像は記録的な価値があると思うんです。

僕はテレビ局員時代から、歴史的なことは記録しておきたいと考えていて、『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京、毎週日曜18時30分~)という番組は、一般の人の記録を残そうと思って作った番組なんです。だから、ナレーションを一切入れていない。

もしかしたら、今は入れているかもしれませんけど、ナレーションって視聴者に状況を押しつけちゃうんです。それに、その人の言葉じゃないから、記録にはならないですよね。

その『家、ついて行ってイイですか?』を政治家とか経済学者に替えて、そのときの記録を残しておきたかったという思いがあったんです。

少子化や日本経済が成長できないという問題を政治家はどんな表情で語っているのかという映像を見ると、視聴者は「この人は嘘をついている」とか「本当のことを言っている」とか、何かを感じ取ってくれるはずです。

特に長時間話しているとやはり気が抜ける瞬間があるはずで、どうしても本音が見えてくる。しかも、ひろゆきさんと成田さんというツッコミ役もいるわけですから、なおさらですよ。

■番組をなくすのは歴史への冒涜です!

――『日経テレ東大学』が大人気チャンネルになることは、ある程度予想していましたか?

高橋 いや、まったく予想していませんよ。僕の中の目標のひとつとして「ユーチューブチャンネルの『日経テレ東大学』が、テレビ東京のゴールデンタイムの番組と同じ価値を持つこと」というのがありました。なぜなら、テレビプロデューサーとしての僕の仕事は、ゴールデンタイムの番組を作ることです。

でも、ユーチューブのチャンネルを作ることを会社に認めてもらったからには、それと同じ経済効果とメディアとしての影響力を生み出さなくてはいけない。登録者数50万人を超えると、それが見えてくるんです。

そして、100万人を超えると、ひと月当たりで計算してゴールデンの番組と遜色ない利益が出せるんじゃないかと思っていました。

あと、ゴールデン番組は1日1時間×3枠(午後7時から10時)×7日で、週に21枠以上はないので、その中で自分の企画を通そうとか、3.0%の視聴率を0.1%でも上げて売り上げを伸ばそうとか考えるんです。

でも、ユーチューブチャンネルが成功すれば22番目の枠ができる。すると、視聴率3%のゴールデン番組がひとつ増えたことになりますよね。これは画期的なことで、そういう意味でいうと「やったな」という気持ちはあります。

――でも、そのチャンネルが3月末で終わっちゃうわけですよね。

高橋 それは、僕もちょっとおかしな話だと思います。

――もったいないですね。

高橋 黒字が出ている事業を終わらせるのは、社内的にももったいないと思いますけど、それよりも「番組を楽しみにしていた視聴者のことをどう思っているのか」とか「歴史的な記録をなくそうというのは、どういう意図なんだろう」と思います。

僕、本能寺の変の犯人がわからないことがモヤモヤするんです。3月末に消されるという報道がありましたけど、もし、3月末に動画が見られなくなったら、本能寺の変の犯人をわからなくした人と一緒だと思います。

歴史の記録にアクセスできなくなるというのは歴史への冒涜(ぼうとく)ですよ。僕は歴史マニアなんですけど、歴史好きの観点からしたら、大犯罪者ですよ。

――ちなみに、高橋さんがテレビ東京を辞めた理由は?

高橋 だから、今、言ったことに加担したくなかったからです。僕、本能寺の変の犯人をわからなくした人が許せないんですよ(笑)。ホント、歴史マニアなんで!

――それで、新しいメディアを立ち上げた?

高橋 そうですね。やはり、命がけで作ったものを消されるというのは、なかなかつらいものがあります。だったら、自分が作るコンテンツは、自分たちで所有していくしかないと思ったんです。

都内に新しくオフィス(兼スタジオ)を構えた高橋氏。内緒ですが、中古で買ったというイスには穴が開いていて、そこをガムテープでふさいでいました。本当にお金がなさそうです都内に新しくオフィス(兼スタジオ)を構えた高橋氏。内緒ですが、中古で買ったというイスには穴が開いていて、そこをガムテープでふさいでいました。本当にお金がなさそうです

――それが、新チャンネルの『ReHacQ』なんですね。どんな内容なんですか?

高橋 『日経テレ東大学』の進化系番組です。さっき言った理念は引き継ぎます。あと、カネがないので、より手作り感がハンパなくあるチャンネルです。

――そういえば、今インタビューをしているこの新しいオフィスに引っ越してきたわけですけど、さっき下にチラシが置いてあって、このオフィスを借りるとき「3月中のご契約で、最大6ヵ月フリーレント」って書いてありました。

高橋 よく見てますねぇ。

――今はお金がないけど、半年後にはお金が入ると思って、ここを借りたんですか?

高橋 そうですよ。だから、『ReHacQ』がうまくいかなかったら、6ヵ月後に夜逃げしてるかもしれません。

――でも、すでに登録者数が20万人を超えているから、安心じゃないですか?

高橋 いやいや、20万人じゃペイしないですよ。出演者さんのギャラや人件費などの制作費がかかりますから。

――でも、ABEMA(サイバーエージェント)の社員でもあるじゃないですか。

高橋 はい。だから、給料はもらってますよ。でも、それは生活費なんです。それに『ReHacQ』も趣味でやってるわけじゃないので、ちゃんと採算が合うように自立させないといけないんです。だからABEMAもReHacQも全力でやっていきますよ。

――そんなに働いて大丈夫なんですか?

高橋 いけんじゃないですか。っていうか、やらなきゃしょうがないでしょ。もう、こうなったからには......。

――じゃあ、一応、応援しています(笑)。

●高橋弘樹(たかはし・ひろき) 
1980年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、2005年にテレビ東京に入社。『吉木りさに怒られたい』『家、ついて行ってイイですか?』などの番組を制作。2021年『日経テレ東大学』のプロデューサーに。2023年2月テレビ東京を退社。現在、YouTubeチャンネル『ReHacQ』のプロデューサーで、サイバーエージェントの社員としても活躍中。
公式Twitter【@ReHacQ】