山下リオ
浅野いにお原作、竹中直人監督で公開中の映画『零落』に出演した女優・山下リオ

30歳を節目に事務所を退所しフリーランスとなった彼女は、W不倫がテーマの人気ドラマ「わたしの夫は―あの娘の恋人―」(テレビ大阪)で主演を務めるなど、話題作への出演が続いている。

今、注目の女優の素顔に迫ったインタビューの前編では、出演作の舞台裏について聞いた。

■完成した映像に「ここまで映っているんだ!」

――今年1月から始まった主演ドラマ「わたしの夫は―あの娘の恋人―」が話題沸騰中です。

山下 すごいですよね。私もびっくりしています。

――深夜ドラマながらTVerでの見逃し配信再生数ではキー局のドラマに並んで常に上位にランクインし、テレビ大阪のドラマとしては同局歴代1位を記録しています。ここまでの反響は予想していましたか?

山下 もちろん、出演するからにはどの作品も反響があるようにしたいとは思っていますけど、特にこの作品は久々の主演作でカラダも張っていますし、たくさんの方に観ていただきたいとは思っていました。

――第1話の冒頭から過激なラブシーンがあるなど、W不倫を描く愛憎劇とはいえ、かなり攻めている内容ですよね。

山下 私も出来上がった映像を観て、「ここまで映っているんだ!」と驚きました。それでも正直、ここまでの話題になるとは思っていませんでしたね。

――なぜ人気になったと?

山下 やっぱり、予想がつかない展開の連続だからじゃないでしょうか。私も最初に脚本をいただいたとき、「うわ、面白い」となったんですよ。次どうなるのか気になるワクワクがあって。それが視聴者の方にも伝わり、これだけ楽しんでいただけているのではないかと感じます。

――実は原作漫画もまだ連載中なんですよね。

山下 だから途中からストーリーがドラマオリジナルになって、そこも先の読めなさにつながっているのかなと思います。

――山下さんが演じた笹野香織は、自身も夫の不倫相手のパートナーと不倫をしてしまい、そこから日常が一変する出来事の連続に巻き込まれていきます。このキャラクターを演じるうえで意識したことは?

山下 原作を読んだとき、これはリアルを追求したというよりは、女性の妄想を具現化したような作品だと感じたんです。だから私としては、漫画のエンターテインメント的な要素を、リアルな人間でやってみたらどうなるのかという実験だと思って演じました。非日常の世界観を現実のものとして真剣に演じるから面白くなるし、挑戦する価値のある役柄だと思いましたね。

――おっしゃるとおり、ドラマは終始怒涛の展開で、俳優もスタッフも全力で振り切っているのが伝わってきます。

山下 たとえ空振りになったとしても常に全力投球しているのが、この作品の魅力になっています。現場では皆さん気合いが入っていて、すごくいい雰囲気でやれました。

■今まではどんな役も「努力次第でどうにかなる」と思っていた

――『あまちゃん』で徳島出身のアイドルを演じた印象が未だ強いのか、ネットでは「あの徳島っ子が大人になったな」という声も多く見られました。

山下 もう30歳なんですけどね(笑)。童顔なこともあるせいか、時が止まったように言われることは多いんです。そうした中でこういう作品に出合って、多くの方に知っていただけたのは、とてもいい機会をいただきました。

――山下さんは昨年30歳を迎えるとともに、長年所属した事務所を退所してフリーランスになりました。こうした体当たりの作品への出演を決めたことに、環境の変化は影響していますか?

山下 基本的な心持ちは変わっていないです。事務所にいたときから、自分で脚本を読んでお仕事を選ぶってことはやらせてもらっていたので。ただ、香織を演じるにあたっては、かなり悩んだ部分はありました。

今まではどんな役でも、自分の努力次第でどうにかなると思っていたんですよ。難しい役でもストイックにやればなんとかなると過信していて。でも今回は撮影中、「これはできないかもしれない......」っていう瞬間がありました。

――それは「役になりきれない」ということですか?

山下 役者として香織というキャラクターを信じて向き合っているつもりなのに、彼女の心の動きを自分で感じられなくなって。それで感情が追いつかなかったり、自分の気持ちの抜け道をどこに見つけ出していけばいいのかわからなくなって。まったく初めての、衝撃的な体験でした。

――そこからどうアプローチしていったのでしょう?

山下 香織は私が共感できる部分が少ないキャラクターなんです。夫の不倫が発覚する前は他人から見れば順風満帆な暮らしをしていて、本人も幸せだと感じていた。不満といえばセックスレスなことだけど、それを夫にぶつけたりはしないし、そういう人だから芝居も受けから始まることが多い。私とはまったく違う性格だなってところが出発点で、撮影が進むにつれてうまく交われない部分が増えていったという感覚でした。

でも、よく考えてみると、すべてが理解できる人なんていないじゃないですか。例えば、香織は顔つきがドラマの中で統一されていないんですよ。夫と話すときの顔、不倫相手と話すときの顔、一人でいるときの顔......全部違う。だから感情をつかみきれなかったんですけど、本来はそういう矛盾があって人は当たり前。

そう思うと、香織に理解できないところがあっても、私の「その気持ちはちょっとわかるよ」っていう部分が要所々々にさえあれば、むしろ彼女の不安定さの表現に、いい具合につながるのではないかと思って演じていきました。

■実は人の目をすごく気にする性格

――ラブシーンがあるかどうかではなく、役者としてこういう人物を演じることが自分にとってのチャレンジになった、と。

山下 本当に悩みましたね。それに「わたしの夫は―あの娘の恋人―」って、出演依頼をいただいたタイミングがフリーランスになった直後だったんですよ。自分で自分のマネジメントをやり始めたばかりのときに、こういう重い作品をやって。16年くらい役者をやってきましたけど、この撮影中が一番大変な期間だったと思います。

――この作品の放映中も、ホラーサスペンスの配信ドラマ「ガンニバル」、竹中直人監督の映画『零落』と話題作への出演が相次ぎました。

山下 本当、ありがたいという言葉に尽きます。

――『零落』は仕事にも私生活にも行き詰まった漫画家(斎藤工)の鬱屈した日々を描いた物語で、山下さんはそのアシスタントの冨田奈央を演じました。

山下 尊敬する竹中さんの監督作ということで、お話をいただけたのがうれしかったです。これも「わたしの夫は―あの娘の恋人―」とは違った意味で、すごくさらけ出している作品ですね。

――フリーランスになったタイミングで重めの内容の作品が続いていることから、イメージを一新しようとされているのかと感じたのですが、そういう意識は?

山下 役柄に対してはないです。それより、どんな仕事をやるにしても、管理された立場から離れたことで、全部の責任が自分になるっていうことへの意識が強くなっていると思います。

――自分の俳優としてのイメージをどうしていくかっていうことよりも、一人でやっていくことへの挑戦に集中しているわけですか。

山下 もともと私は人の目をすごく気にする性格なんです。マネージャーさんはこう思っているだろうから、自分はこうしなきゃとか。女優という立場に期待されているのは、こういう振る舞いだろうとか......。誰にも言われていないんですよ。事務所には自由にやらせてもらっていましたし、とても良くしてもらいました。

私が勝手に、「こうすべきだろう」と自分自身を縛ってしまい、身動きがとれなくなっている感覚がずっとあったんです。自分でもすごくもったいないことだとわかっていたんですけど、なかなか変われなくて。でもフリーランスになると、もう言い訳はできないじゃないですか。仕事がなかったら自分に実力がないってことで、どこにも逃げ道はないんです。

私を育ててくださったマネージャーさんには10代の頃によく、「あなたは『でも』とか『だから』が多い」と言われました。「こうしたい」という思いがあっても、「でも」って自分で勝手にできない言い訳をしてしまう。ずっとそういう自分が嫌いだったので、30歳を目の前にしたときに、私は自分で自分を追い込むべきだと思ったんです。私には言い訳を全部塞いでいくことが必要で、人生を長い期間で考えたときに、今やっておかないとって。だから、もう自分に言い訳はしません。

――一人ですべてを決めることへのプレッシャーは感じますか?

山下 ありますよ。仕事のたびに、「これで失敗したら次はないぞ」と思います。でも、気負ったところでいい芝居になるとは限らないですよね。だから、努力は最大限にしつつ、うまくできなかったときには、その自分も受け入れていかないと。フリーランスになったばかりですけど、人間的にはすごく成長させていただいていると思います。

⇒インタビュー後編「人生の節目を迎えて独立した女優・山下リオ『今はめっちゃいい感じです(笑)』」に続く。

●山下リオ(やました・りお)
1992年10月10日生まれ、徳島県出身。身長165cm
〇2006年の芸能界入り以降、女優・モデルとして多くの作品に出演したほか、2007年には「三井のリハウス」12代目リハウスガールにも選ばれた。近年の主な出演作にドラマ『わたしの夫は-あの娘の恋人-(テレビ大阪・BSテレビ東京)』、ドラマ『ガンニバル』、映画『零落』、映画『Ribbon』など。
公式Twitter【@rio_y10】
公式Instagram【@rio_yamashita_official】