特撮への思い、原点、こだわり、アイデアの源を語る佛田監督 特撮への思い、原点、こだわり、アイデアの源を語る佛田監督

特撮に関わり続けて35年余り。数々のスーパー戦隊作品で特撮監督を務め、放送中の『王様戦隊キングオージャー』でも監督として特撮制作を総指揮する。そんな名匠・佛田 洋(ぶつだ・ひろし)氏が語る特撮への思い、原点、こだわり、アイデアの源、そしてこれからの展望とは?

* * *

■昆虫のシルエットに徹底してこだわりたい

――最初に、〝特撮監督〟という仕事について教えてください。

佛田 作品によって違いはあるけど、僕が監督しているのは主に主人公たちが操るメカの活躍、ロボの変形合体シーン、そしてそのロボと敵怪獣の巨大バトルシーンなどですね。そういうシーンで監督の希望を聞きつつ、僕も意見やアイデアを出し撮影を進めていく感じです。

――放送中の『キングオージャー』では、主人公たちが操るメカのモチーフが昆虫です。

佛田 『キングオージャー』のポリシーとして、昆虫のリアルなシルエットに徹底してこだわりたいという、みんなの総意があった。そこで苦心したのが、虫ならではのアクション。

例えば、合体して巨大ロボになったときの片足はカマキリなので、カマで切り裂くようにキックするとか。もう片方の足はハチだから、足先をニードルのようにして、針を刺して攻撃するようにしたり。そういうことを考えるのが本当に大変なんだけど、すごく面白くもあるんだよね。

ゴッドクワガタやゴッドトンボなど、5人の王が操る昆虫メカに加え、ゴッドクモなど計10体が合体し、キングオージャーに! ©テレビ朝日・東映AG・東映 ゴッドクワガタやゴッドトンボなど、5人の王が操る昆虫メカに加え、ゴッドクモなど計10体が合体し、キングオージャーに! ©テレビ朝日・東映AG・東映

――特撮に関わって35年余り。新しいアイデアはどこから?

佛田 僕は特撮以外の映画やドラマも大好きだから、よく見るんですよ。そこでアイデアが浮かぶことがあります。こないだも、地上600mの鉄塔に若者が取り残される『FALL/フォール』という映画を見て、特撮のアイデアが浮かびました。

あとは、かみさんが書道とか陶器が好きで、その展覧会や美術館に誘われたら一緒に行くようにしてるかな。「なんだこれ?」って思うこともあるけど(笑)、特撮のヒントがあるかもしれないから。昔は仏像や土偶なんかも戦闘機のモチーフによくしていたね。

――時代を重ねて、特撮の技術も変化・進化しています。

佛田 僕が特撮をやり始めた頃は、まだCGがなかったですからね。当時の特撮はミニチュア模型とロボスーツのみですべてを撮影してました。そこからデジタル技術が発達して、ミニチュアを使わずフルCGで撮ったのが『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001~02年)。

それ以降、CGだからできる動きが面白くてCGが続いてたけど、何年かしてミニチュアに戻そうって話になって戻したりもして。

――どうして戻そうと?

佛田 どっちかに偏ると、どうしても飽きちゃうんだよね。それに、CGとミニチュアの両方を経験すると、それぞれのいい面と悪い面が見えてくる。その上で、僕が代表を務めている特撮研究所にはミニチュア模型のチームとCGのチームの両方があるから、お互いに相手のいいところを見習って、技術的に切磋琢磨(せっさたくま)しています。

だから、現在の結論としては、シーンごとにミニチュア模型とCGを使い分けていくのが、一番いいかなというところです。個人的には、実写で撮ったものにちょっとCGを足すのが今は好き。そうすると、〝そこにある感〟がしっかり表現される気がします。

――スーパー戦隊シリーズは、子供向けの作品でありつつ、大人のファンも多いです。

佛田 僕は、基本的に子供に向けてしか作ってないです。特撮やロボットのことを考えるときは、いつも幼稚園児の自分に戻っているから、そのまま幼稚園児の気持ちで作るんですよ。そこに大人のファンがついてくるのはどうぞどうぞなんだけど、最初から大人狙いでやっても響かないものですからね。

5人の主人公たちが操るメカは、昆虫のフォルムをリアルに再現。各昆虫の実際の動きも検証され、劇中のバトルシーンに生かされている。ただし、カラーリングはリアルにこだわらず、個性的だ。©テレビ朝日・東映AG・東映 5人の主人公たちが操るメカは、昆虫のフォルムをリアルに再現。各昆虫の実際の動きも検証され、劇中のバトルシーンに生かされている。ただし、カラーリングはリアルにこだわらず、個性的だ。©テレビ朝日・東映AG・東映

©テレビ朝日・東映AG・東映 ©テレビ朝日・東映AG・東映

©テレビ朝日・東映AG・東映 ©テレビ朝日・東映AG・東映

©テレビ朝日・東映AG・東映 ©テレビ朝日・東映AG・東映

©テレビ朝日・東映AG・東映 ©テレビ朝日・東映AG・東映

■今も原点にあるのは少年期のプラモ爆破

――幼稚園児の心を持ち続けることが、特撮監督として大事?

佛田 意識して持ち続けてるわけじゃなくて、いくつになっても幼稚なのよ、発想が(笑)。本当にくだらないことばっかり考えてて、でもそれが楽しい。

――どんなくだらないことを?

佛田 『烈車戦隊トッキュウジャー』(2014~15年)は列車が合体してロボになるんだけど、変形の途中で股の所にある機関車がガチャンって前に出るとチ○チンみたいになるとか(笑)。

楽しいじゃん、そういうの。やりたくなっちゃうのよ。子供は、チ○コだウ○コだって、いつの時代も大好きだしね。僕自身も下ネタ好きなんだけど、こういう仕事にはそういう子供っぽい感性が大事だと思うよ。

――戦隊シリーズには、マニアックなファンも多いですよね。

佛田 マニアを喜ばすために何かすることはないです。ただ、自分たちが楽しむために遊びを盛り込んだことが、結果的にマニアも楽しめるシーンになることはあるかも。

例えば、『未来戦隊タイムレンジャー』(2000~01年)の空中戦闘シーン。当時は映画の『マトリックス』(1999年)がはやってて、その有名な銃撃戦をまねたんだよね。

本家は何百台ものカメラでそのシーンを撮ってるけど、こっちは巨大ロボと敵怪獣の人形に棒をつけて支えて、手で回転させたりして。棒は後から消しましたけど、なかなか笑えてカッコいい絶妙のシーンになりましたよ。

リアルな風景の構築が、巨大ロボが活躍するスーパー戦隊シリーズの世界にリアリティを与える。これぞ特撮の醍醐味だ。©テレビ朝日・東映AG・東映 リアルな風景の構築が、巨大ロボが活躍するスーパー戦隊シリーズの世界にリアリティを与える。これぞ特撮の醍醐味だ。©テレビ朝日・東映AG・東映

――ここまで特撮監督を続けてこられた理由は?

佛田 本当に好きだから。それしかない。子供の頃、自分で作ったプラモデルに爆竹を仕込んで爆破してたときと気持ちはまったく変わらない。うまくいかないときもあるけど、それを乗り越えればまた楽しいことがあるし、ここまできたんだからライフワーク。まだまだやりたいこともあるし、お楽しみに!

――その「やりたいこと」は、今後の『キングオージャー』にも反映されるんですか?

佛田 もちろん! シュゴッダム国のお城にある高低差を使ったサーカスアクションを特撮やCGでやってみたいし、『キングオージャー』に登場する5つの国にはそれぞれ特徴があるので、その特徴を生かした特撮を考えて、実現させていきたいと思っています!

●『王様戦隊 キングオージャー』 
シリーズ初「昆虫」をモチーフとしながら、5つの王国の王様が集結した"全員がリーダー"の最強のスーパー戦隊が誕生。圧倒的映像美と大迫力アクションがシリーズに革命を起こす。毎週日曜9時30分よりテレビ朝日系列で放映中。

●佛田 洋(ぶつだ・ひろし) 
1961年生まれ、熊本県出身。特撮監督の矢島信男に師事し、90年の『地球戦隊ファイブマン』で特撮監督デビュー。以降、スーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズの特撮監督を務めるなど、特撮の第一人者として活躍中。(株)特撮研究所代表。