■それでは問題です
「グラストンべリー・フェスティバル、レディング&リーズ・フェスティバル、ダウンロード・フェスティバルといった海外の名門ロックフェスに出演を果たし、メタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ジューダス・プリースト、KORNといった数多のビッグネームのツアーサポートも務めた日本人アーティストは?」
......という問いに対して、世の多くの人は「長いキャリアを積んだレジェンド」か「硬派なロックバンド」を想定して脳内検索することと思う。が、正解は「BABYMETAL」。先に挙げたアクションはすべて、これまでBABYMETALが実際に行ってきたものだ。
海外でライブ活動を展開している日本のバンド/アーティストも少なくないが、それこそコワモテのメタルファンに至るまで、世界各国のライブシーンを狂喜の渦に巻き込んでいる日本発のアーティストはBABYMETALくらいだろう。
■無謀なチャレンジから快進撃へ
前代未聞のメタルダンスユニットとして、文字通り世界を席巻してきたBABYMETAL。サブカルの中でも特に閉鎖的な傾向のあったヘヴィメタルという音楽ジャンルにおいて、当初、「10代の少女たちが辣腕メンバー(=神バンド)の轟音を浴びながらオーディエンスの前に立つ」という表現スタイルは、今から振り返っても無謀とも思えるチャレンジだった。
しかし、リードボーカルを務めるSU-METALの歌唱力をはじめとするBABYMETALの鮮烈なパフォーマンスが、メタルとポップの異次元融合を可能にした。そして、「メタルで世界をひとつにする【メタルレジスタンス】」というファンタジックなコンセプトを、紛れもない21世紀の現実としてBABYMETALは展開してみせたのである。
2013年の国内メタルフェス「ラウドパーク」のステージで、賛否両論の下馬評を覆して巨大なウォール・オブ・デスを生み出した瞬間は、BABYMETALというユニットの持つマジカルな魅力の象徴そのものだったし、そこからの快進撃を誰もが予感した名場面だった。
ワンマンライブを重ねてファンとのコミュニケーションを育むよりもむしろ、BABYMETALは海外ツアーとフェスを主戦場として闘ってきた。常に未知の領域に挑み続けるその姿が何より、「にわか」も「古参」も区別なくファンの熱量を高める最大の原動力になってきたのである。
日本のカルチャーや和のイメージ、ジャパニーズメタルのエッセンスを『イジメ、ダメ、ゼッタイ』『ヘドバンギャー!!』『メギツネ』『ギミチョコ!!』といった楽曲に結実させた1stアルバム『BABYMETAL』(2014年)。
メロディックスピードメタルの名曲『Road of Resistance』を筆頭に、ヴァイキングメタル/プログレッシブメタルといったメタルのサブジャンルを網羅し、「世界ヘヴィメタル博覧会」的な音像を繰り広げた2ndアルバム『METAL RESISTANCE』(2016年)。
「メタルの銀河を旅する」をテーマに、ラテン/ヒップホップ/バングラビートなど多彩な音楽を内包し、Tak Matsumoto(B'z)をはじめ、サバトン、ポリフィア、アーチ・エネミーといった海外精鋭バンドのメンバーをもフィーチャーした、2枚組の3rdアルバム『METAL GALAXY』(2019年)----。
作品ごとに音楽的変遷を遂げながら、BABYMETALは自身の表現の可能性と訴求力を着実に高め、ライブ活動も含めた【メタルレジスタンス】の物語性をリアルの世界で体現していった。
■LEGEND封印、そして物語はリアルとバーチャルの境界線すら超越し......
2020年10月10日に結成10周年を迎えたBABYMETALは、翌2021年の1月から4月にかけて計10公演に及ぶ日本武道館ワンマンライブ「10 BABYMETAL BUDOKAN」を開催。10周年イヤーを締め括る同年10月10日をもって【メタルレジスタンス】は完結、そしてLEGEND(ライブ)は封印された。
バーチャルワールド「METALVERSE(メタルバース)」におけるBABYMETAL復元計画「THE OTHER ONE」、今年1月28日・29日の幕張メッセ公演「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」でのLEGEND封印解除を経て、先日3月24日にはBABYMETAL自身初となるコンセプトアルバム『THE OTHER ONE』がリリースされた。
さらに、4月1日・2日にはぴあアリーナMMにてワンマンライブ「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE -」を開催......という流れを見ていると、どこか壮大なRPGの一場面のようにも思えてくる。だが、リアルとバーチャルの境界線すら超越して綴られるそんな物語のスケール感こそ、BABYMETALという表現が持つ唯一無二の存在感を克明に伝えるものだ。
■神話にも似た空気感のコンセプトアルバム
3月24日にリリースされたコンセプトアルバム『THE OTHER ONE』は、「復元計画『THE OTHER ONE』を進めていく中で明らかになった、時空を超えて存在する10個のパラレルワールド」を、全10曲の音楽世界へと昇華した作品。荘厳な音の王宮を打ち立てる『METAL KINGDOM』も、メタルコア×ドラムンベースの爆走感に満ちた『Divine Attack - 神撃 -』も、どこか神話にも似た空気感とともに響いてくるのも、ポップの神話を更新し続けるBABYMETALだからこそのものだろう。
2018年のYUIMETAL脱退以降は、SU-METAL/MOAMETALの2人に加えてサポートダンサー「アベンジャーズ」から1人を迎えた3人体制でライブを展開しているBABYMETAL。今回のぴあアリーナMMのライブでは、復元計画「THE OTHER ONE」を完遂し、新世界(ニューワールド)への旅立ちの時とともに新しいメタルが誕生することが告げられている。また、4月〜5月にはスウェーデンのパワーメタルバンド・サバトンのサポートアクトとしてヨーロッパツアーを巡った後、5月26日からは「BABYMETAL WORLD TOUR 2023」のアジア〜オーストラリア公演のツアースケジュールも決定。BABYMETALの新しい闘いの日々は、もう始まっている。
●高橋智樹(たかはし・ともき)
音楽ライター。『ROCKIN'ON JAPAN』『rockin'on』編集部を経て2006年よりフリーランスのライターとして活動。BABYMETALについては、ディスクレビューやライブレポなど執筆経験多数。Twitter