日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! M・ナイト・シャマラン監督が究極の選択を迫る! 「ホラーの帝王」ダリオ・アルジェント監督の10年ぶりの新作!
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『ノック 終末の訪問者』
評点:★2.5点(5点満点)
「無邪気に楽しむ」ことはできるが、そこには問題もある
タイトでサスペンスフルな映画で、予告編が約束している通りのものを観ることができる。M・ナイト・シャマラン監督らしいさまざまな映画的な創意工夫も楽しい。
「とある家族が休暇を過ごす山小屋に、やってきた謎の4人組が、家族のうち一人を生贄に差し出せと要求する――優しく、しかしきっぱりと。そうしないと世界が滅ぶと言うのだ」という出だしのキャッチーさも特筆に値する。
だが、キャッチーであろうとなかろうと、この物語が一種の陰謀論(あるいは終末論でも良いが、同じことだ)を前提としているところは問題だ。
「荒唐無稽な陰謀論を唱える人物が実は正しかったのだが、その警鐘が受け入れられなかった/受け入れられる」という設定はこれまで数多くの映画で、ときに安易に扱われてきた。
が、数々の宗教によるテロリズムや米連邦議事堂襲撃事件を経た現在、「陰謀論者の方が実は真実を語っていた」という方向性のエンターテインメントは、それがどんなマインドセットに依拠するものか見極める必要性がある。
養子を持つゲイのカップルがターゲットにされているのはなぜなのか? という点に顕著なように「能天気」では済まない鈍感さが目立つ。
STORY:山小屋で休日を過ごすある家族に、突如武装した謎の男女4人が乱入し、こう言う。「家族のうちの誰かひとりが犠牲になることで世界の終末を止めることができる」。彼らに捕らわれた家族は山小屋からの脱出を試みるが......。
監督:M・ナイト・シャマラン
出演:デイブ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジほか
上映時間:100分
全国公開中
『ダークグラス』
評点:★3点(5点満点)
アルジェント監督が見せた驚くべき新境地
多くの映画監督は「その監督らしい映画」を常に期待されてしまう(これは作家でも音楽家でもそうだ)。同工異曲の(ように見える)作品が多い作家にそれは顕著で、ダリオ・アルジェント監督もまさにそのようなファンの期待に応えつつ、一方でそれに翻弄されてもきた。
本作は随所に「アルジェントらしさ」を湛えつつ、本質的に全く新たな次元に突入しており、物語の根底には―驚くべきことに―信頼と優しさがある。主人公の娼婦は視覚を失い、謎の殺人者におびやかされる。だが彼女は孤立無援ではない。彼女が視覚を失った不幸な事故は、同時にとある中国人の少年から両親を奪い去るが、この二人の間に、また主人公と歩行訓練士の女性、さらに盲導犬との間にも信頼関係が育まれていく(とある常連客との間にも信頼関係が垣間見える)。
「孤立無援の女性がサディスティックな殺人鬼にいたぶられる」という「アルジェント映画の類型」がこうして突き崩される。
「アルジェント映画」かくあるべし、という思い入れ、あるいは先入観と言ってもいいかもしれないが、その先にこのような新たな景色を提示できたことが、彼の「作家力」を改めて証明したのである。
STORY:ローマで娼婦を狙った連続殺人事件が発生。コールガールのディアナは殺人鬼に追いかけられ大事故に遭う。失明したディアナは同じ事故に巻き込まれた中国人少年と絆を育み、ふたりは一緒に暮らすが、再び殺人鬼の魔の手が迫る。
監督:ダリオ・アルジェント
出演:イレニア・パストレッリ、アーシア・アルジェント、シンユー・チャンほか
上映時間:85分
新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開中
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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