下北沢SHELTERの店長、義村智秋さん下北沢SHELTERの店長、義村智秋さん

2023年3月13日より、マスクの着用の是非は個人の判断に委ねられることになった。また5月8日から新型コロナウイルスの扱いは、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行される。思えばコロナ禍とはずいぶん遠い昔のような気もするが、それはおよそ3年前、2019年の暮れに始まった。そして2020年初めに、まるでコロナウイルスの温床地帯のようなイメージを持たれ、大きな打撃を受けたのがライブハウス界隈だった。

コロナ禍の収束が見えてきた今、改めて当時のライブハウスに何が起こっていたのか、そして何が変わったのかを探る短期連載。第1回は、新宿LOFTの姉妹店として下北沢で営業を開始して32年の老舗、下北沢SHELTERの店長、義村智秋さんに話をうかがう。

■3密こそがライブハウスの醍醐味だった

――コロナ禍の収束が見えてきましたが、コロナによる打撃はどれほどでしたか?

義村 それまでは基本毎日営業してましたが、2020年2月末くらいから少しずつ公演の延期や中止が出てきて、4月以降しばらくは公演がほぼ100%無くなりました。それから2020年の秋~冬にかけて、キャパシティを制限したライブや配信ライブが少しずつ行われるようになりました。当時はまだコロナの実態が分からなかったので、一度延期したライブをまたやろうとしても、また延期にしなくちゃいけない、みたいなことが続きました。

――コロナ禍当初、ライブハウス全体がまるでウイルスの温床のようなイメージを持つ方もいたと思います。そういう風潮に対してどう感じましたか?

義村 ライブハウスというのは、通常の飲食店と比べて人込みで混雑していたり、不便だったりもしますが、そういった要素が非現実で楽しい空間でもあります。3密の「密閉」、「密集」、「密接」というのは、ライブハウスの醍醐味でもあったわけです。そんなライブハウスの良さが、感染を広めてしまうのだとしたら、一体どうしたらいいんだろう?というのは常に考えていました。

ライブハウスに対して良くないイメージを持つ人がいるのも実感していましたが、いつかはこの状況が好転するだろうとも思ってはいたので、そこまで悲観的にはならないようにしていました。でも、せっかく計画したものをまた壊さなくちゃいけない、そういったことを何度も繰り返すというのは、不毛な気持ちになった時もありましたね。

――下北沢SHELTER は老舗ライブハウス・LOFTグループのひとつですが、グループでの指示や方針は?

義村 とにかく、少しずつでも営業していかないと、ということは言われていました。なので、検温、消毒、キャパの削減、お客さん同士の間隔を空ける、アクリル板やビニールシートをつけるといった基本的な対策にきちっと取り組むところから始めました。それでも初期は、ライブの延期の対応に追われて、なかなかそれどころではなかった時もありましたが。

――2020年の4月には緊急事態宣言が発令され、飲食店には営業時間の時短要請がありました。

義村 そうですね。公演によってはできなくなったものも多々ありますし、オープン・スタート時間をすごく早めた公演もありました。もちろんそれらによって来られなくなったお客様もたくさんいるので、それに伴う払い戻し作業も増えましたし、お酒も提供できなかったりしました。どのライブハウスも飲食店も大変だったと思いますが、国や都からの要請が来るのはいつも実施の直前なので、その対応は特に大変でしたね。

――さまざまな補助金、助成金も新設されました。

義村 補助金、助成金があるのは助かりましたが、例えば公演が延期になったら、やる予定だった証明を出さなければいけないなど、それに伴う事務作業もかなり増えたので、それも大変でしたね。売上は減るのに、仕事は増えるという感じでした。

――コロナ禍を経て、何が変わりましたか?

義村 コロナウイルスが完全に消滅したわけではないですから、基本的な対策は怠っていないですし、衛生意識は高まったかもしれないですね。それと、無理して深夜まで営業しないことが増えたので、名残はちょっとあるかもしれないです。ただ最近は、また下北沢の夜が盛り上がってきたので、それに合わせて深夜も営業することも増えてきました。

度重なる公演延期や業務量の増加があっても、悲観的になりすぎないようにしていたという義村さん度重なる公演延期や業務量の増加があっても、悲観的になりすぎないようにしていたという義村さん

■下北沢に新たな客足が

――実は下北沢SHELTERは現在、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」に登場するライブハウスのモデルになったということで、ファンの間では聖地化されているとうかがいましたが、客足は戻ってきたのでしょうか?

義村 「ぼっち・ざ・ろっく」の効果はすごくて、2022年12月でアニメの放送は終わりましたが、終わってからのほうが聖地巡礼に訪れるお客さんは多くて。店の前で写真を撮っていく方が多いんですけど、中には、当日の公演内容にかかわらず入りたいという方もいらして、特に外国人の方を中心に1日平均して20人前後いらっしゃいますね。

コロナ前を100%だとすると、80~90%は客足が戻ってきたと思います。アーティストの方も、もう普通に活動するようになってきましたし、ここ最近は新しいムーブメントも出てきて、下北沢に新しい人が来るようになってきたのかなと思います。

――新しいムーブメントというのは?

義村 一時期の下北沢は閑散としてたんですけど、特に駅の再開発が落ち着いて、「ミカン下北」(2022年3月開業)という商業施設ができて、最近はあんまり下北っぽくない人が増えたと思います。特にあてもなく遊びに来るような若者が、渋谷から流れてきてるという話も聞きますね。

下北というとカルチャー、それもちょっとアングラなイメージがあったと思うんですけど、割と最近は普通の子たちが増えたような気がします。クセの強い人が減ったのはちょっと寂しい気もするんですけど、そういう人たちが新たにライブハウスとかインディーロックとかに興味を持ってくれたらうれしいですね。

――「ぼっち・ざ・ろっく」以前から、SHELTERはいろんなアーティストの聖地ですが、今後、下北の街をどう盛り上げていきますか?

義村 ライブハウスとしてはコロナ以前にやっていたことがすべてなので、ひとつは、そこにいかに近付けるか。それにプラスして、コロナ禍に感じたところや反省点を活かして、コロナ前以上のものを目指していきたいと思います。まあ、やることはそんなに変わらないですね。

以前ライブハウスに通っていたお客さんで、一度ライブハウスから遠のいてしまうと、戻るきっかけってなかなか難しいと思うんです。でも、行ってた頃と何も変わらないですし、すでにいろんな新しい音楽が生まれているので、ライブハウスのあの感じが好きだったらすぐ思い出せると思います。なかなかふらっと来るのは難しいかもしれないですけど、我々も来ていただけるよう頑張りますし、魅力的なイベントも開催、発信していますので、ぜひ気になったらお店を覗いてもらえると嬉しいですね。

■下北沢SHELTER 
1991年10月に新宿LOFTの姉妹店としてオープン。ロック、パンク、オルタナなどのバンドを中心に、さまざまなバンド、アーティスト、アイドルをプッシュしてきた。東京都世田谷区北沢2-6-10仙田ビルB1
http://www.loft-prj.co.jp/SHELTER/