このシリーズのボスが完璧超人なのはもはや明白ですが、そことは全く別の局面で迎えるもうひとつの大きなクライマックスが本巻の魅力。正悪超人戦争に真の終止符が打たれます!
●『キン肉マン』20巻
●汚い闘いを見せてこそ悪魔の魅力!
マッスル・ブラザーズ対はぐれ悪魔超人コンビの激闘が本格始動するこの巻で、まず特筆すべきは2代目キン肉マングレートの大奮闘です。中身が前巻死亡した初代グレート=カメハメから直々に遺志を託されたテリーマンに代わっているのは、読者はもちろん皆知ってますが、面白いのは作中でそのことを知っている人物はテリーマン本人以外に誰もいない点。パートナーのキン肉マンすら、カメハメではないことに途中で気づき、その後はずっと素性も何もわからない。この男が敵なのか味方なのか、疑心暗鬼にさいなまれながら試合を続けていくことになります。
それでも、グレートはひたむきに奮闘を続けることで、キン肉マンとの新たな絆(きずな)を徐々に試合中に紡いでいく。こんな泥臭いことをあのテリーマンが正体を明かさないままやってのけていくカッコよさがたまりません! また、そういう巻であることを示すような収録第1話目「地獄のキャンバス!!の巻」の扉絵、縦半分にわかれてテリーマンとグレートの半身ずつが描かれた一枚絵がこれまた本当にカッコいい! 前巻冒頭のロビンマスクの一枚絵に引き続き、初っ端の1ページめからワクワクが止まらないこの点も本巻の魅力をさらに引き立たせてくれていると思います。
それに対する悪魔超人軍最後の砦、アシュラマンとサンシャインもこれまでの抗争の集大成を示すかのような反則まがいの猛攻撃のオンパレード。悪魔霊術を駆使して仲間の亡霊を呼んで手助けさせたり、半身とはいえ部分的に悪魔将軍を復活させて恐怖の技を繰り出したり。これをカードゲームでたとえるなら、ルールのスキを突きまくって対戦相手から絶対嫌われる、正々堂々と無縁の必勝のデッキ構成を組んでくる人、みたいななりふり構わぬ闘いぶりで、ふたりの力以外にも使えるものは何でも使ってやりこめてくる。
でも僕は、彼らのこの汚いやり口が意外と好きなんですよ。だっていかにも悪魔らしいじゃないですか。悪魔超人っていうカテゴリー自体がそもそもそういう集団だったよね、と思うとものすごく納得感があるし、逆の立場でいうならこれも飲み込んだ上で倒してこその正義超人でしょ、という思いもある。そういう意味でも集大成感が大いにあって、長きにわたった正悪超人戦争の決着をゆでたまご先生はとうとう本気で付けに来たな、という覚悟のようなものすら感じられる演出だと思います。
●超人プロレスという形で読める哲学書
しかも、闘いのアイデアはそれだけにとどまらない。サンシャイン・マグナムやら阿修羅火玉弾やらこのふたりならではの驚異のタッグ技も続々飛び出し、特に僕が恐ろしさを通り越して感心してしまったのは"魔界の死刑執行法"と宣言された技でした。ロメロ・スペシャルに捕らえた相手の胸同士を鉢合わせる際に両者の胸に巨大な針を装着させ、助け合うべきパートナー同士をそれぞれお互いを殺しあう武器にする残酷さ。友情パワーを全否定し続けてきた悪魔の精神ここに極まれりという感もある技ですが、これさえも捨て身の友情魂で乗り越えたグレートの反撃を機に、まずはサンシャインがとうとう友情の否定に疑問を抱き始める驚きの新展開へと発展していきます。
しかし、それでもアシュラマンだけはまだブレない。友情の力にひるみ始めたサンシャインを叱咤(しった)し、果てはサンシャインの秘密兵器である呪いのローラーに己の腕を3本巻き込まれ失っても「わたしを傷つけたことを悩む前にわたしの不注意を笑え!! それが悪魔というものだ!!」と仲間への気遣いを全否定。これもまた彼の信念が強烈に詰まった悪魔の名言だと思います。
こうして闘いの焦点は、友情の肯定と否定、まさに長年にわたる両軍のイデオロギーのぶつかりあいへと集束していき、その果てに出た最後の答えこそが、アシュラマンの命に関わるピンチを正義超人同様に身を挺して救ったサンシャインの最大の名言「悪魔にだって友情はあるんだーっ」。その行為はアシュラマンの心にまで異変を起こし、隠されていた彼の素顔、涙の三面がついに姿を見せるのです。
もちろん試合はこの後も続きます。しかし彼らの闘いの実質上の決着はここだったんじゃないでしょうか。友情の肯定と否定、それは言い換えれば性善説と性悪説の対立です。その一方である性悪説の権化こそが魔界の王子アシュラマンという存在。悪魔は生まれた時から悪魔であり、情など一切持ち合わせない。だからお前たちの言葉は理解したくてもわからないのだと突っぱねてきた彼の目から流れる、涙という情の雫。
物語としては超人プロレスの体をなしていますが、結局これは凄まじいまでの哲学書だったんじゃないかという内容の、歴史的な名勝負となりました。こんな壮大な話をここまで誰にもわかりやすい形に落とし込み、しかもそれをシリーズ途上の準決勝戦でやってしまうのがまた『キン肉マン』という作品の恐ろしさでもあります。
そして、この大一番の後に満を持して登場する本ボスのヘル・ミッショネルズ。バッファローマン&モンゴルマンの2000万パワーズと初戦以上の死闘を繰り広げる次巻へと物語は続いていきます。
●キン肉マン4コマ
●こんな見どころにも注目!
僕が密かに大好きなのがマッスル・ローリングというタッグ技。「地獄のキャンバス」という悪魔霊術で現れた悪魔の亡霊たちに対し、生身の肉体ではなすすべなしと思われていたところ、この技だけはなぜか有効。次々と亡霊をキャンバスへと押し戻していきます。しかしパワー抜群の魔雲天にだけはこの技も止められた!? どうするかと思われたふたりの答えは「かまわんこのまま回転だーっ」でした。結局、それで魔雲天もあっさり潰されこの危機から完全脱出。勢いで乗り切る強さを学べる隠れた大技だと思います。
●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! 最新著『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』も好評発売中