『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
5月12日公開の『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』に主演する女優・モデルの松村沙友理さんが登場!
■映画を通して出会った"初めての先輩"
――子供の頃に見て記憶に残っている作品はありますか?
松村 16、17歳のときに見た『ベンジャミン・バトン』ですね。主人公は生まれたときはおじいちゃんで、そこから若返っていくんです。幼なじみの女のコがいて、彼女は普通に生まれたので、それぞれ違う人生を歩むけれど、40歳ぐらいのときに見た目も体も一緒になって、人生が交差します。
少しの間、ふたりで一緒に住むけど、離れてしまう。その時間がすごく好きです。ベッドのマットだけを床に置いてふたりで暮らす場面がカッコよくて、私も一時期ベッドのフレームを捨てました(笑)。
――作品のキャラクターで「推し」というと、誰を思い浮かべますか?
松村 『コードギアス』シリーズのルルーシュにガチ恋で、結婚したいというか、すでにしてるかもしれないです(笑)。原作のないオリジナルのアニメがすごく好きなので、本放送のときに「新作のオリジナルアニメだ」と思って見たらハマってしまって、それからはルルに大恋愛ですね。
――松村さんは5月12日公開の『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』で伝説的なファン、「えりぴよ」という主人公を演じていますが、まさに彼女みたいに「ピカッ」ときたんですね。どういうところにほれたんですか?
松村 言動とキャラクターのギャップですね。「仮面の革命家・ゼロ」のときは誰よりも頭の回転が速くて冷酷だけど、高校生活ではちょっとドジだったり、クラスメイトにバカにされてたりするんです。
本当は人間っぽさもあるのに、それを隠して強がりながら人を駒として動かしているのがとてもかわいいし、いとおしい。ダメな部分も全部受け入れてあげたい気持ちです。
――なるほど。推しはダメな部分も良く見えるんですね。
松村 続編の映画『復活のルルーシュ』では、冒頭でルルーシュが廃人になっているんです。あんなにカッコよかったルルーシュが、心がなくなってうつろになっている姿にびっくりしてしまって。
「私のルルが......」とあぜんとしたんですけど、すぐに「でも、このルルはこのルルでいいかも」と思えて、「全部お世話をしてあげたい!」という気持ちになりました。
――乃木坂46としてデビューされてから、影響を受けた作品はありますか?
松村 2作品あるんですが、ひとつは『ラブライブ!』シリーズです。私がアイドルとして悩んでいるときにμ's(ミューズ/劇中のアイドルグループ)の姿を見て、「やっぱりアイドルっていいな」と感化されました。
もうひとつは、私が出演させていただいた映画『ずっと独身でいるつもり?』です。監督のふくだももこさんは普段から本当に面白い方ですが、役柄についてはぶつかり合って、何度もNGをもらったんです。
――それはけっこうヘコんだんじゃないですか?
松村 でも主演の田中みな実さんが「大丈夫?」って声をかけてくださって、台本を広げて一緒に考えてくださったんです。私は乃木坂46の1期生だったので、デビューしてからの10年間は先輩がいなくて何が正解かわからない状態でやってきたんですが、そんな中で出会ったみな実さんが迷っている私を導いてくださった。
そこから出てきたものを改めてふくだ監督にぶつけたら、時間をかけて何回もやらせてくださいました。あの映画の撮影を通して人生観が変わった感じがしています。
■これまでの人生を"裏側"から経験できた
――『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』で、松村さんはドラマ版から引き続き、伝説的なファンの主人公を演じています。この作品にどんな思いがありますか?
松村 乃木坂46の頃は推される側""でしたが、握手会のときに「この後ファン仲間でごはんに行くんだよ」と報告してくれるファンの方がいたりして、「推すのも楽しそうだな」といつも思っていたんです。
だからこの作品は本当に楽しみました。初めのうちは、演技の経験も少ないので迷いながら演じていて、大谷健太郎監督から細かく指示をいただいていましたが、途中からは「やりすぎていたら止めるから、好き勝手に動いていいよ」と言ってくださって、自由にさせていただきました。
ファン同士の会話も、世間話をせずにずっとChamJam(えりぴよの推し・舞菜が所属する劇中のアイドルグループ)の話しかしなかったり、「舞菜のここが最高だから見てほしい!」みたいな推し合戦になったり、そういうことが全部楽しかったです。
ライブのシーンでずっとペンライトを振るのはやっぱり疲れましたが、「いつもこうやってくれてたんだ」と思えてすごく楽しかった。朝早く会場に行って順番取りをしたりするのもリアルに感じられました。自分の今までの人生の"裏側"を経験できている感じがしたんです。
――松村さん自身がファンからしてもらっていたことを、逆の立場から体験したわけですね。アイドル時代はどんなことがうれしかったですか?
松村 握手会があったので、ファンの方が変わらずにずっと会いに来てくれることがすごくうれしかったです。毎回じゃなくても、何かの節目で来てくださる方も多くて、そうやって長く愛していただけたことが私にとって力になっていたと思います。
私も乃木坂の10年間でいろんなことがあったけれど、ファンの方も「転職した」とか「海外に行った」とか、いろいろあるんですよね。そういう人生を共有できると、「ひとりで生きてるんじゃないんだ」と感じられました。
アイドルは自分からファンに会いに行けないから、来てくださることを待つしかない。「もういいかな」と思われたら、二度と会うことができません。だからこそ、変わらずに応援してくださる方の存在はありがたかったです。
――今作では、まさに「アイドルとファンのすれ違い」が描かれていますが、アイドルにとってもファンの存在が心の支えなんですね。この映画をどんな人に見てもらいたいですか?
松村 人生にきらめきがない人に見てもらいたいです。別に理由はないけど、人生楽しくないときって誰にでもありますよね。そういう「何か足りない」みたいな気持ちを抱えている方に、「推し、欲しいな」って思っていただきたいですね。推しがいると日常のすべてが特別に思えるんです。
●松村沙友理(まつむら・さゆり)
1992年生まれ、大阪府出身。愛称はさゆりんご。2011年からアイドルグループ「乃木坂46」の1期生として活動し、2021年に卒業。映画やドラマなどの女優活動やバラエティ番組の出演、ファッションモデルなど、幅広い分野で活躍中
■『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』5月12日(金)全国劇場にて公開予定
衣装協力/dazzlin(ワンピース) 31 Sons de mode(靴) 4℃(ピアス)