『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
5月19日から公開中の映画『宇宙人のあいつ』に出演する俳優の柄本時生さんが映画について語り尽くします!
■"かたさ"と"やわらかさ"で映画をとらえている
――子供の頃に見た映画の中で印象に残っている作品はありますか?
柄本 僕の記憶にある最初の映画は、恐らくブルース・リーの『燃えよドラゴン』で、幼稚園児くらいのときにビデオで見たんだと思います。当時はブルース・リーのマネなんかもしていたように思いますね。
中学校に入るか入らないかくらいのときに映画館で見たフランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』は、僕にとって大きな存在です。「トリュフォー、ゴダール入門特集」みたいな名画座の企画で、確か『大人は判ってくれない』『気狂いピエロ』『勝手にしやがれ』の3本立てでした。
どの映画も素晴らしかったですけど、その中で"やわらかい"と感じたのがトリュフォーの『大人は判ってくれない』で、僕の人生を変えた映画を挙げるなら入ってくる作品です。
――『大人は判ってくれない』は僕も大好きな映画です!
時生(ときお)さんが出演された映画で個人的に印象深いものは『愛の渦』なんです。時生さんは嫌な役で登場しますが、登場すると場が一転するのを見てドキドキして、「これが柄本時生という役者のパワーなんだな!」と実感しました。時生さんご自身は、出演された映画の中で「自分の人生を変えた」と思う作品はありますか?
柄本 古厩(ふるまや)智之監督の『ホームレス中学生』ですね。実はこの作品、とてつもない傑作映画なんですよ。
古厩監督は、撮影の際は役者に特に指示を出したりしないんです。けれども、絶対に現場から離れないで役者のことをしっかり見ている。だから、僕のほうも「監督が見ている」という感覚を常に持っていました。
その緊張感の中で仕事ができることは自分にとっていい経験になりましたし、僕自身がもともと古厩監督のファンだったこともあり、すごく楽しかったです。
――なるほど。監督にとって、あれこれ指示する以前に「しっかり見ている」ことが大切な役割なんですね。ちなみに、最近見た映画で「これはすごいな」と感じた作品はありましたか?
柄本 最近だと『かがみの孤城』と『BLUE GIANT』は傑作でしたね。特に『BLUE GIANT』は、まさか音圧で泣かされるとは思わなかった。驚きが大きかったです。
――時生さんは観客として映画を見るときに、どういうものを求めていますか? 純粋にエンタメとして楽しんでいるのか、それとも俳優の仕事柄、何かしら注目していることがあるのか。
柄本 僕にとって映画を見る楽しさは、"かたさ"と"やわらかさ"の感覚をとらえられることですね。例えば、僕の中では(ジャン=リュック・)ゴダールは"かたい"し、トリュフォーは"やわらかい"んです。その感覚から「この映画ってこういう感じなのか」ととらえられることがすごく好きです。
■制約があるから、思考が働く
――5月19日公開の映画『宇宙人のあいつ』で時生さんは、中村倫也(ともや)さん演じる宇宙人と20年以上家族として暮らしてきたきょうだいの三男・真田詩文を演じています。撮影はいかがでしたか?
柄本 まず、僕はずっと飯塚健監督のファンだったんです。ですから、今作で初めてご一緒できたことはとにかくうれしかったです。
もうひとつ、この映画の撮影で楽しかったのは「現場が、現場として、現場のためにやる」感覚が久々にあったことですね。
――「現場が、現場として、現場のためにやる」というのは、どういう意味ですか?
柄本 現場としての「あり方」の話なんですが、要するに、監督が「右」と言ったら、それを実現するためにどうすればいいのかを考えるのが、正しい現場のあり方だと僕は思っています。
監督が「右」と言ったのに対して、それまでの流れと違うからといって、役者が「いや、そこは左ですよ」と返してしまったときに何が起こるのかというと、正直、混乱しかないんです。
思考というのは制約があるからこそ働くものであって、「これまで左だったから」という理由で役者が自由にやってしまったら、新しい考えが生まれてこないじゃないですか。
――なるほど。「監督の指示を実現する」という制約があるからこそ、役者をはじめ、いろいろな人に考える必要性が生まれるわけですね。
柄本 監督の「右」という指示で、これまでの想定が覆った瞬間には、確かにみんなの頭の中が「?」になります。
けれども、そこから改めて「右」の先にあるものを「どうすれば生み出すことができるんだろう?」と思考することがこの仕事の楽しさですし、それをやるのが現場での仕事なわけですよね。久々にそれを感じさせていただけたので、僕にとってはすごく楽しい現場でした。
――劇中では、中村倫也さん、伊藤沙莉(さいり)さん、バナナマンの日村勇紀さん、時生さんで4きょうだいを演じています。画面からも楽しそうな雰囲気がすごく伝わってきましたが、この4人での撮影はいかがでしたか?
柄本 もちろん楽しかったですよ! 沙莉とはもともとすごく仲良くしていましたし、倫也さんともこれまでにご一緒したことがあったので、やりやすかったです。
日村さんは初めましてでしたが、人柄が素晴らしいですし、映画でも圧倒的に良かったですよね。この4人で共演できて、本当にうれしかったです。
――長男役の日村さんからは「お兄ちゃん」という感じが出ていて、素晴らしかったです。時生さんは"かたさ""やわらかさ"で映画を感じているということですが、この映画は観客の方にどんなふうに感じてもらいたいですか?
柄本 これは倫也さんが言っていたことで、僕もすごくわかりやすいと思ったんですが、95%がノリでできている、しっちゃかめっちゃかな映画です。そして残りの5%の密度がすごく濃いので、やっぱり飯塚監督はその配分が上手だと思います。観客の方にも、ノリと密度の濃さのふたつを感じてもらいながら、この映画を楽しんでもらいたいですね。
●柄本時生(えのもと・ときお)
1989年生まれ、東京都出身。2003年に映画 Jam Films S「すべり台」のオーディションに合格しデビュー。第2回松本CINEMAセレクト・アワード最優秀俳優賞を受賞。数多くの映画やドラマに出演のほか、舞台やナレーション、CMでも幅広く活躍中
■『宇宙人のあいつ』全国ロードショー公開中
配給:ハピネットファントム・スタジオ
スタイリング/矢野恵美子 ヘア&メイク/住本由香 衣装協力/Kazuki Nagayama