『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス20巻を熱く語る『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス20巻を熱く語る

2000万パワーズ対ヘル・ミッショネルズ戦の全容をほぼまるごと収めた21巻。この世紀の一戦の主役はしかし、勝者ではなく敗者側だったのではないかと僕は思うのです!

●『キン肉マン』21巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5
  • 強すぎた2000万パワーズの悲劇!?

いきなりですが先に結果から述べますと、読者の大半が応援していたであろう2000万パワーズは残念ながら最終的にヘル・ミッショネルズに敗れてしまいます。

あらためて、この試合を僕なりに評価させていただくと、それでも勝ったヘル・ミッショネルズ以上に2000万パワーズはとてつもなく強いチームだった! そんな思いを抱かずにはいられない見どころ満載の好勝負であったと僕は強く思うのです。

そう思わされる描写はこの前巻の終盤、試合開始直後のバッファローマンとネプチューンマンの力比べから既に見られます。単純な腕力では、ネプチューンマンよりバッファローマンのほうに分がある。シリーズボスとおぼしきネプチューンマンが、いきなり劣勢にもちこまれる非常に珍しい展開です。

その後もパワーに劣るモンゴルマンがその不利を補う軽快な足技でビッグ・ザ・武道をぶっとばし、極めつきはバッファローマンの新技ハリケーン・ヒートの登場です!

僕は、この技の発動までの駆け引きが大好きでして、あえて左右不揃いのロングホーンを装着するバッファローマンに対し、ネプチューンマンはただのこけおどしと切り捨て間隔の広がった両角の間に身体を滑り込ませて激突を回避。

しかし、そこまで読み切っていたのは実はバッファローマン側で、まんまと入ってきたネプチューンマンを両角で刺すのではなく挟みこんで投げとばし、無防備な体勢で降ってきたところへ最後にロングホーンを突き立て大ダメージを与える、というチェスのような一連の攻防! 隠れ頭脳派バッファローマンの真骨頂が拝める大技ですが、なぜか以降は一切使われていないのが僕は残念でなりません。

こうして序盤だけを見ると2000万パワーズの大攻勢なんですが、ここでようやくミッショネルズが対抗策を打ち出してきます。それが新たなる完璧超人の力"マグネット・パワー"のお披露目です。

プラス、マイナスの磁力のコンビネーションで相手の動きを操るこの力は、いわば前シリーズボス悪魔将軍の空洞ボディ級のような反則めいたオプションで、以降の彼らは同じ土俵に立つ超人レスラー同士という肌感覚から一転、手のつけられない別ステージに立つボスキャラへと突如の超進化を遂げ、怒涛の猛反撃を見せていきます。

思うに、彼らがそっちのステージに行ってしまったのは2000万パワーズがあまりに強すぎたがゆえのことだったのではないでしょうか。このままでは圧倒的強者というまでの印象づけは難しい。そこでボスとしての格をまとうために飛び出してきたのが"マグネット・パワー"だったように、僕には思えてならないのです。

バトル作品における敵キャラとは主人公側をさらに成長させるための壁です。でも今回はそれが逆転し、敵側であるヘル・ミッショネルズが真のボスに成長するための壁に2000万パワーズがなってしまった。これはそんな悲劇だったと僕は見ています。

  • ギャグ漫画家の最強進化形がここに

こうしてマグネット・パワーを得たヘル・ミッショネルズは、影法師スエットや磁気嵐クラッシュといった恐怖の芸当を次々と解放してくるのですが、なかでも、僕が感心したのはサンダー・サーベルという秘技でした。

電磁力で黒雲を発生させ、天から降らせた稲妻を手でつかんで相手に投げる!? 理不尽に理不尽を重ねたこの攻撃法を見た僕は本当に心の底から真面目に感動してこう思いました。

「ああ、ゆでたまご先生はやっぱりギャグ漫画出身の先生だったんだ!」と。降ってきた稲妻が天気予報の雷マークみたいな形をしていて、それを手でつかんで相手を突き刺す。これってもう完全にギャグ漫画の理屈であり手法なんですよ。

それをシリアス展開の中で誰ひとりツッコまずにやり遂げ、シリアスのまま相手を最大のピンチへ陥れる。こんな場面はずっとストーリー路線でやってきた作家さんには天地がひっくり返っても作れません。ゆでたまご先生の自由な発想の秘訣は、ギャグ漫画家としてのベースがしっかりあるところから来ていたのか、と僕は読者......というよりひとりの作家として多大なる感銘を受けました。

そして、そのサンダー・サーベルで動けなくなったバッファローマンが、意識を失う前にモンゴルマンに放った一言。「さっきのあんたの言葉への返事だ...。オレもあんたに選ばれてしあわせだった...」。小さなコマで描かれた場面ではありますが、これぞ2000万パワーズ屈指の名シーン。

彼らはそのまま敗れましたが、おかげでミッショネルズは決勝で主人公チームと激突するにふさわしい、真のボスキャラへと成長を遂げたのです。

それでも2000万パワーズの役目はまだ終わりません。試合後にモンゴルマンの救出に入ったキン肉マンが左腕を失うまさかの大負傷。決勝前にどうするの?......と誰もが不安に思ったところで登場したのが、超人界最高の外科医ドクター・ボンベでした。

彼がバッファローマンの角をその腕に埋め込む奇蹟の手術を成功させ、2000万パワーズはヘル・ミッショネルズのみならずキン肉マンをも最終的に超強化させて、決勝戦へと送り出してくれたのです!

まさに全方位的に決勝戦のお膳立てをしてくれた2000万パワーズの大活躍。この巻最大の立役者は彼らしかいないとの思いを新たにしつつ、物語は次巻、決勝戦の大激闘へと突き進んでいきます!

●こんな見どころにも注目!

マグネット・パワーに利用される正義超人の特性として、友情の心を失うと鉄分を含む汗"アイアン・スエット"を流すという逸話が語られますが、このいわれがなかなか壮絶。直前の試合で「仲間を助けただけで死罪」という魔界の掟をアシュラマンが語り読者を驚愕させましたが、ここでキン肉真弓が語った「仲間を憎んだだけで、重い鋼鉄の鎧を一生着せられる」という太古の正義超人界の掟も魔界に負けないインパクト!? 昔の超人はどこで暮らしても大変だったのだなぁと同情を禁じえません......。

●キン肉マン4コマ

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! 最新著『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』も好評発売中

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