『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが4月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第412話 バッファロー一族の真実!!の巻(4月2日分)
第413話 バッファローマンの選択!!の巻(4月16日分)
第414話 死と進化の二者択一!!の巻(4月23日分)
あらすじ
超神vs超人のバベルの塔最終第7戦は、バッファローマンvsザ・ワン(調和の神)。ザ・ワンの圧倒的な力を前にバッファローマンは最後までまったく太刀打ちできなかった。そんな中、ザ・ワンはバッファロー一族が自らの系譜を継ぐものと宣言。最強を追求したいのなら、我が軍門に下るべきだと提案する。
●天龍的で、髙田的な男・バッファローマン
燃え殻(以下、燃) いやあ、しかし、こうなるとは予想できなかった。
爪切男(以下、爪) ザ・ワンに敗れたバッファローマンは、ザ・ワンからの提案を受けて、今以上に強くなるために、彼の弟子になることを決めた。キン肉マンたちのもとを離れてでも......。
燃 スゴい展開だよなあ。
爪 でも、バッファローマンは、死んで退場するか、生き残るかで、後者だとしたら、この選択しかなかったんだな、と思いました。
燃 ああ、ああ。そうだね。でも、普通......他のマンガとか、プロレスとかだと、ここで筋を通すか、それとも敵の軍門に下るかで、下る方を選ぶって、なかなか、なくない?
爪 (笑)。そうですね。
燃 それ、スゴくない? 軍門に下るって。要は、バッファローマンがどっちに付いても成立するような世界観が、『キン肉マン』という作品にはあるということだよね。他のマンガだったらないと思う、この展開は。
爪 バッファローマンが敵方に付くとなると、今後が楽しみになりましたよね。
燃 そうだね。あ、でも、バッファローマンのやられっぷりがいい、というところだけは、僕らの予想、合ってたね(笑)。
爪 そうですね。しかし、ほんとにこれは、バッファローマンしか受け止められない役ですね。技が何も通用しないで、ボロ負けして、どっちかを選べと言われて、敵に付いていく流れ。
燃 『キン肉マン』の歴史上、こんなにいろいろと課される登場人物はいないよね。キン肉マン以上じゃない?
爪 確かに。バッファローマン、どういう位置付けなんだろう? たとえばプロレス界だったら、誰だろうなあ......。
燃 うーん......。
爪 ......天龍源一郎かな。メガネスーパーのSWSに行ったり、WARを作ったり、全日本プロレスに戻ったり、長州力が作ったWJプロレスに上がったり......。
燃 ああ、なるほどね。
爪 王道じゃないほうに行っちゃう感じですかね。天龍は、バッファローマンみたいに裏切ってきたわけじゃないけど......あ、でも、全日本プロレスをやめてSWSに行ったのは......。
燃 あれは裏切りというか、ターザン山本が裏切りとして定義した気が(笑)。
爪 はははは。そうですね
燃 バッファローマン、最初に出てきた時、7人の悪魔超人のリーダーだったじゃない? 2000万パワーズの時もメイン級だったし、キン肉マンともシングルで闘ったし、今回も最後の試合を務めた。ゆでたまご先生としては、常に大切なキャラクターなんだろうね。
爪 ああ、それはそうですね。
燃 でも......YouTubeでくりぃむしちゅーの有田哲平さん(※)が言ってたんだけど、髙田延彦って、「あの試合、良かったよな」って後年に語り継がれている名勝負は、全部負けているじゃない?
(※)YouTubeチャンネル『有田哲平のプロレス噺【オマエ有田だろ!!】』内「#111【髙田延彦の哀愁】武藤に敗れヒクソンに大敗...なぜ有田はそれでも愛するのか!?【髙田の半生を紐解く】」(5月15日更新)
爪 ああー。
燃 髙田の試合って数々印象に残ってるんだけど、そのなかで髙田が勝ってるのは北尾光司戦くらいかも。
爪 ああ、引き分けのはずが、だまし打ちで北尾にハイキックを叩き込んで失神させた。
燃 それ以外の試合はどれも負けている。だから、髙田が負けている姿が良かった、ということなんだろうと思うんだよね。
爪 天龍にも武藤敬司にも負けてますもんね。
燃 髙田って、武藤に負けた3ヵ月後に再戦して、勝ったじゃない?
爪 ああ、そうでしたね。
燃 でも、そんなの誰も覚えてない(笑)。やっぱり髙田は負けているところがいい。というのを、バッファローマンにも感じるなあ。
爪 普通、読者はキン肉マンに感情移入するんでしょうけど、もっとボンクラな、僕らみたいなファンは、バッファローマンを推すのかも。負けても負けても立ち上がってくるし、仲間を裏切ってでも強くなろうとするし。
燃 ああ、そうだねえ。
爪 でも、やっぱりキン肉マンという存在は、デカいんですね。バッファローマンも最後にキン肉マンの「何があってもお前は私の永遠の友達だ」という言葉を思い出して、涙を流しながらザ・マンに付くことを決めたじゃないですか。
燃 彼自身に、何度も鞍替えしてることの、後ろめたさはありつつね。
爪 ここまでいくと、友情とか言うよりも、メンヘラに近い(笑)。「ここまで行っても私を許してくれる?」っていうメンヘラ彼女みたいな。キン肉マンがこんなバッファローマンを受け入れるとしたら、すさまじい彼氏ですよ。彼女のドロドロを全部受け止めている。
燃 はははは。確かにね。
爪 しかもひとりじゃない、そういう彼女が。ウォーズマンもいるし、他にも......。
燃 (笑)。ほんとだねえ。
爪 しかし、これでますます、バッファローマンのポジションが重大になりましたよね。このあと、どこかのタイミングで、ザ・ワンに鍛えられて生まれ変わったバッファローマンが、再登場するはずだから。
燃 うん、楽しみになった。だけど、こうやって超神側に裏切るの、バッファローマンだけなのかな? このあとまた誰か......。
爪 えっ、だって、これが天上界に上がる前の最後の闘いだったじゃないですか。
燃 いや、だから、この闘いに加わっていない超人たちを招集するとか。
爪 ああ! なるほど。
燃 バッファローマンと超人血盟軍で仲間だった、キン肉マンソルジャー、ブロッケンJr.。僕は特にザ・ニンジャが好きだから。
爪 あ、それは観たいかも。
燃 そうやって、バッファローマン以外の超人たちが、超神側に付いたとしたら、相当おもしろくなりそうだね。
爪 うん、盛り上がるなあ。あ、そうだ、ザ・ワンといえば、413話の「今週の採用超人!!」、ザ・ワンの元になったヘルモーズという超人でしたよね。
燃 ああ、そうそう。これを読むと、2011年に採用になった超人なんだね。
爪 じゃあ『キン肉マンII世』の頃か。(担当編集に)その時は、本編には登場してないんですよね?
担当 そうです。そこから12年経って、先生がヘルモーズを思い出して、それをアレンジしてザ・ワンを作ったそうです。
燃 そんなことあるんだ? すごいなあ。先生、ちゃんと覚えてるんだね。
爪 当時、カッコいいと思って、それが記憶のどこかにひっかかっていたんでしょうね。
燃 ヘルモーズを考えた人、うれしいだろうなあ。採用の12年後に出て来るなんて。
爪 でも、よかった、バッファローマンが死ななくて。いなくなったら寂しいので。
燃 そうだね。たとえ敵に回ろうと、生きていて、今後も出て来てくれた方がね。
爪 どうなるんだろうな、バッファローマン。強くなって、見た目とかも変わるのかな。
燃 やっぱり鎧じゃない?
爪 あ、鎧! おもしろい。悪魔将軍にもつながるし、いいかもしれない。
燃 似合いそうだしね。そうするといっそうチーム感が出るしね、ザ・ワンと。
●我々はバッファローマンして生きている
爪 ちなみに、燃え殻さんは今回のバッファローマンみたいに、どちらに付くか、人生の二択を迫られたこと、あります?
燃 え? 二択?
爪 もしくは、誰かの軍門に下ったことは?
燃 ああ......さっき、他のマンガだったら軍門に下るという展開はない、って言ったじゃない? でも、普通に社会人やってたら、軍門に下るよね。
爪 (笑)。そうですよね。だから全然間違ってないですよね、バッファローマン。
燃 僕も日常的に下ってきたな。下った上で、何らかの恩恵を被ったり、誰かから裏切り者だと言われたり。と思うと、『キン肉マン』は、よくできたマンガだよね。
爪 (笑)。
燃 元は少年マンガだけど、その頃読んでいた少年たちは、今、社会人じゃない? みんなバッファローマン化してるんじゃないかな。
爪 しかも、バッファローマンみたいに、軍門に下ると強くなる、みたいな、大きなメリットがなくてもね。
燃 そう、バッファローマンは最終奥義まで出して、完膚(かんぷ)なきまでに敗れた後に軍門に下ったけど、我々の人生は、もっと手前の段階で「このまま行くとボコボコになるから、その前に下っとく?」ぐらいだよね。バッファローマンは、軍門に下っても、その代わりに強くなれる、という夢も見せてくれているし。
爪 うん、よくできてますよね。
燃 僕なんか、どこで下ったのかの節目がわかんなくなるくらい、何度も下ってきたし。
爪 僕もそうです。下ったほうが早いから。
燃 「あ、はい、わかりました、下ります」みたいな。あとで「下るんじゃなかった」と思うんだけど。
爪 でもめんどくさいんですよね、そこで己を貫くのが。下ったほうがさっさと終わる。
燃 そう。だから、僕らより圧倒的に抵抗した上で、軍門へ下ったバッファローマンが強くなることを祈ってますよ。
爪 (笑)。ほんとに。新しいバッファローマンが観れるの、楽しみです。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は二村ヒトシ氏との共著『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで、ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演・阿部寛)はDisney+でそれぞれ配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中