日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! キャスティングが話題に。名作ディズニーアニメの実写化作と全米大ヒットの「AI人形」が暴れるサイコスリラー!
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『リトル・マーメイド』
評点:★4点(5点満点)
分断の先にあるべき未来像を提示
「海の外で暮らすために、何をあげればいい?/暖かい砂の上で一日を過ごすために、何を差し出したらいい?」という『パート・オブ・ユア・ワールド』の歌詞は、阻害のうちにある全ての人の心を打つ。
そこには普遍性があるが、ここでいう「阻害」が原作者アンデルセンの同性の相手へ寄せた叶わぬ思いを吐露したものだという分析もある。
ディズニー版の歌詞を書いた故ハワード・アシュマンはそのサブテキストを理解していたはずで、そこにクィアネスを抱える人々の疎外感と絶望を見いだすのは難しいことではない(先に書いたとおり、それだけではない普遍性があるのは当然としてだ)。
今回の実写版はその部分にさらに踏み込んだ内容となっており、監督ロブ・マーシャルは「自分自身をはっきりと表現したもの」にしたと語っている(彼はゲイを公言している)。
本作のラストが分断の克服とその先にあるべき未来像の提示となっているのはそのためで、極めて強いメッセージ性と現代性がある。アンデルセンの原作とアニメ版の本質がこのように「実写化」されるとは予期していなかったので驚かされた。めくるめくビジュアルもファビュラスで素敵な一本である。
STORY:トリトン王の娘で世界で最も美しい歌声を持つ人魚姫アリエルは、ある日、嵐に巻き込まれた人間のエリック王子を救うため陸に上がる。人間界への憧れを抑えきれないアリエルは、海の魔女アースラと恐ろしい取引を交わす。
監督:ロブ・マーシャル
出演:ハリー・ベイリー、ジョナ・ハウアー=キングほか
上映時間:135分
全国公開中
『M3GAN/ミーガン』
評点:★2.5点(5点満点)
ぜひ「血まみれバージョン」を観たい!
AIを備えたハイテク人形が「ペアリング」された持ち主に尽くすあまり、危険とみなした周囲の人を次々と殺していく......というプロットは2019年のリブート版にして、オリジナル・シリーズのストーリーラインと唯一接点のない『チャイルド・プレイ』にかなり近い。が、本作はAI人形「ミーガン」の、「不気味の谷」を見事に表現したデザインとダンスで(ビジュアル的には)一歩も二歩も先を行っている。
だがそのダンスがヴァイラル化したことにより、レイティングを下げる判断を映画会社が下したため、本作の血まみれ場面はほとんどカットされてしまった。
脚本家のアケラ・クーパーもインタビューに答えて、何らかの形で「血まみれバージョン」が世に出ることを願うと言っているが、かなり印象が異なるのではないかと思う。
もちろん、殺人ロボットはいつ観ても楽しいものなので、血まみれかどうかはさておき一定の満足感は得られるわけだが、「より広い観客層」にアピールしたい、という(それ自体は納得できる)映画会社の思惑で大残酷がスポイルされてしまったのはいかにも残念だ。物語的にも元々は「えっ、その人も殺されるの?」という驚きがあったそうなのだが。
STORY:おもちゃ会社の研究者ジェマは、AI人形「M3GAN(ミーガン)」を開発。子供にとって最高の友達、親にとっては最大の協力者になるようプログラムされたミーガンだが、この人形による行きすぎた愛情は思わぬ事態を招く。
監督:ジェラルド・ジョンストン
製作:ジェイソン・ブラム、ジェームズ・ワン
出演:アリソン・ウィリアムズ、バイオレット・マッグロウ、ロニー・チェンほか
上映時間:102分
全国公開中
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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