女優としての活動だけでなく、アート、音楽、映像監督・脚本などを含めた芸術活動を自由に行う「創作あーちすと」を名乗る、のん。そんな彼女が、2017年にCMで披露したキリンジ「エイリアンズ」のカバーから最新曲までをまとめたセカンドフルアルバム『PURSUE』を、6月28日(水)にリリースする。
7月に30歳になる彼女の「20代」と、『PURSUE』という単語の意味通り「追求してきたもの」を詰め込んだという今作。では、のんが20代に追い求めてきたものは何だったのか、独占インタビューで探る。
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自分のアートや音楽の確立
――「創作あーちすと」を名乗り始めてからもうすぐ7年ですが、ご自身の中でアートや音楽はどういうものでしょうか?
のん 最近ようやく自分の中で「自分の音楽はこういうものだ」「自分のアートはこういうものだ」っていうのが確立し始めて。アートに関しては、『Ribbon』(2022年)という映画で脚本・監督・主演をさせていただいた時に、リボンをモチーフにしたアートに目覚めて、「これこそが自分のアートだ!」って発見できたんです。(※のんは2020年からリボンアートを継続的に発表)
音楽に関しては「王道を行きたい」という考えがずっとあって。私は「女優」という枠で見られることが多いと思うんですけど、自分が憧れるポジションは映画でも音楽でも男性が多くて。それは自分の性別がどうということとは別の話で、少年っぽいものが好きだったり、ヒロインよりヒーローがよかったりするんです。そういう「王道のヒーロー像」を、最近になってようやく音楽にも見出すことができたんですね。
それに、自分がライブでステージにいる姿も、まるで演技をするように見つめ直すことができるようになってきました。今までは、ただ「感情を発露するための方法」として音楽に打ち込んでたんですけど、最近は「どうやって見せるか」「ステージにどうやって介入していくか」ということを役者的な目線で考えることができるようになってきたんです。それにビジュアル面ではアート的な視点も使えるようになってきて、いろんな自分を交わらせて、すべてが繋がるように発想できるようになってきました。
――「演技もやりたい」「アートもやりたい」「音楽もやりたい」という段階から、ひとつレイヤーが上がりましたね。
のん 「この、たくさんのやりたいことをどうやって繋げよう」という思いはずっとあったんですけど、だんだんと進むべき道を見出すことができるようになってきたんです。「創作あーちすと」として7年活動してきて、「これか!」というものがやっと見えてきた感じですね。
「怒り」の感情もポジティブに
――そんな、のんさんの様々な表現スタイルの中で重要なひとつである「音楽」について、2作目のアルバム『PURSUE』が出来上がりました。のんさんの音楽は、特にロックやギターにこだわっている気がしますが、その理由は?
のん ロックな音楽をやる人でありたいという思いはずっとあります。中学生の時に友達とGO!GO!7188のコピーバンドを始めて、ギターを買って担当して、その頃から「ロックってカッコいい!」っていう気持ちは強かったです。だから自分が音楽をやるとなったら、ギターボーカルで、バンドサウンドで、っていうビジョンしか見えてなかったですね。
自分の中に流れる音楽がギターのサウンドだから、今は正直にロックをやっていますね。(※今作収録曲『ナマイキにスカート』は、元GO!GO!7188のノマアキコが作詞、元GO!GO!7188・現チリヌルヲワカのユウが作曲を担当)
――先ほど、やり始めた当初の音楽は「感情の発露」だったと話していましたが、今作でも、のんさんが作詞作曲された曲は「心の叫び」みたいなものを感じます。
のん そうですね。自分で曲を書こうとするとだいたい怒ってるんですよね(笑)。でも、喜怒哀楽の中で「怒り」の感情が一番好きな感情で、それは自分の中ですごくカジュアルな感情だと思います。時には人を傷つけちゃうような怒りの時もあるけど、基本的にはコミュニケーションとしてちょっと怒ってみたりとか、何かに当たってみたりとか、怒りをポジティブに変換するようにしています。
私の一番の憧れは忌野清志郎さんで、清志郎さんも音楽で怒りの感情を出していることがあると思うんですけど、すごくユーモラスで面白い。ああいう、明るく感情を出せる人に憧れるんですよね。GO!GO!7188もチリヌルヲワカも、音楽で訴えかけるものがあるけど、言葉運びや曲の展開にすごくユーモアがあってカッコいい。そういう人に惹かれるんです。
――収録曲『この日々よ歌になれ』は柴田隆浩さん(忘れらんねえよ)が、のんさんとのお話を元に書き下ろした曲だそうですが、のんさんが持つそういった「ポジティブな怒り」を、うまく柴田さん流に落とし込んだように感じられました。
のん そうですね。今作『PURSUE』の裏テーマは「自分の20代を詰め込んだ曲たち」で、自分が20代で経験したことや思ったことを柴田さんに伝えたら、それをうまく形にしてもらえました。
元々は、柴田さんと配信ライブでご一緒した際に「でっかい声で歌う曲を作りたいな」って言ってくれて、それでイメージが湧いたみたいで、それから「こんな曲ができたので歌ってほしいです」って、いわば勝手に作ってくださった曲なんです(笑)。だからその時は違う歌詞だったんですけど、私の話を元に、まるでドキュメンタリーのように私に当て書きしてくださったんです。
――他にも、『Beautiful Stars』は後藤正文さん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が、『荒野に立つ』はヒグチアイさんがそれぞれ詞曲を提供しています。
のん 後藤さんからは、ミーティングで好きな音楽ジャンルを聞かれて。「アジカンならこんな曲が推しです」って答えたら、「それならかっこいいパワーポップを作りましょう」と言われて、曲も歌詞もお任せでした。
その時に後藤さんは「怒りとか恨み節とかではないでしょ?」って言ってたんですけど、やっぱりそういう雰囲気が入ってますよね(笑)。そこにはビックリしたけど、めちゃくちゃカッコいい曲です。
ヒグチアイさんとはしゃぶしゃぶに行ってお話をいっぱいして、その時の話を曲に落とし込んでいただきました。これまであまり人に話してこなかった「自分がなんで『のん』になろうと思ったか」とか、悔しかったこととか、「弱みとかネガティブなところを見せるのは嫌だ、だけど」みたいなこととかをたくさん話して。
私はやっぱり屈強なヒーローでありたいんです。でも、私の好きなヒーローって、実は情けなくて弱いところも持っている。だからこれからは自分も、強いところだけじゃなく弱みも見せられるようなヒーローになりたいんだっていうところを示したくて、そういうテーマは結果的に『PURSUE』という作品全体にも繋がっていきました。
「創作あーちすと」、さらなる追求へ
――その『PURSUE』というアルバムタイトルは「追求する」という意味ですが、今回追求したのはどういう要素ですか?
のん 私は「ずっと追求し続けてきた」っていう実感があって、「自分ってどんなものを作るんだろう」「どう見せたら面白いんだろう」「みんなを驚かせるぞ」といったことを、演技でもアートでも音楽でも追求してきました。
でも「追求する」っていうとすごく懸命で力強い印象が思い浮かびますけど、『PURSUE』って柔らかくてかわいい響きの単語だなって思って。意味合いは力強いけど響きはかわいくて、強いけど弱みを見せることもあったり、カッコいいけどユーモラスな部分もあったり、そういう部分が自分の姿勢とすごく重なったんです。例えるなら「牙をむいてるけど、その姿がかわいく見える」みたいな、そういう作品に仕上がったと思います。
アルバムジャケットもYOSHIROTTENさん(※世界的に活躍するグラフィックアーティスト)にアートディレクションをお願いして、自分とのコラボもすごく挑戦したものになりました。なのでビジュアル面にも注目していただきたいですね。
――7月には東京・羽田と大阪・梅田で、約5年ぶりとなる単独ツアーが行われ、これからはライブのモードになるかと思います。
のん 曲を作ってレコーディングする作業は、1曲1曲に向き合って、テイクも重ねられるけど、ライブとなると今度はそれらを一連で歌わなくちゃいけないので、体力づくりもしてますし、エアロフィットっていうトレーニング用品で肺活量も鍛えてます。
もちろん、どんな曲順でどんな見せ方でどんなステージにしようかっていうのも考えていますね。自分がどう見られたいのか、研究しているところです。
――「創作あーちすと」として活動してきたのんさんの集大成が見られそうですね。
のん はい!見えてきます!ここ数か月で自分がパワーアップしてる実感がすごくあるので、楽しいヒーローになる道を上り詰めてる気がします!
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■のん
女優・創作あーちすと。1993年、兵庫県生まれ。女優のほか、音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。2022年には自身が監督・脚本・主演を務めた初の劇場映画作品『Ribbon』を公開。2023年6月28日にセカンドアルバム『PURSUE』をリリース
のん セカンドアルバム『PURSUE』
2023年6月28日(水)発売
収録曲:12曲+ボーナストラック1曲
【通常盤】
CD(20P撮り下ろしブックレット付)
価格:3,300円(税込)
【のんオフィシャルファンクラブ「NON KNOCK」盤】
CD(20P撮り下ろしブックレット付)+DVD+アザージャケット
価格:5,500円(税込)
『PURSUE TOUR -最強なんだ!!!-』
2023年7月9日(日)Zepp Haneda
開場17:00/開演18:00
2023年7月17日(月・祝)梅田クアトロ
開場17:00/開演18:00