髙城晶平
2011年にアルバム『WORLD RECORD』をリリースし、現在までポップをアップデートし続けるバンド・cero。彼らが5年ぶりとなるニューアルバム『e o』をリリースした。

このアルバムは、「一(いち)から三人で集まって作る」ことだけを決め制作された作品。それまでのポップミュージックのイメージを大きくくつがえし、儚くも美しい世界観の楽曲が詰まっている。

今回はメンバーの高城晶平にインタビューを試み、制作の過程について、またceroの現在地について語ってもらった。

――特設サイトを拝見しましたが、5年ぶりのアルバム『e o』はあらかじめコンセプトや指標を定めず、「一(いち)から三人で集まって作る」ということだけを決め、制作されたそうですね。

高城 はい。これまでは誰かが完成形に近いデモを作り、それをスタジオでサポートメンバーとレコーディングしていったんですけど、今回はメンバーの橋本(翼)くんのマンションを拠点に三人でデモから制作していきました。最初に作ったのはシングルにもなった「Nemesis」。その手応えがすごくあったので、同じスタイルで楽曲を作り続けていきました。

――「Nemesis」は、静謐(せいひつ)なピアノのフレーズが繰り返される、ミニマルな楽曲でしたね。

高城 コード進行もリズムも決して難しくないんですけど、どこか不思議な印象の残る楽曲で。その塩梅がすごく絶妙だったんですよ。

――なぜ三人で集まって作ろうと?

高城 以前、楽曲提供の話があったんですけど、締切が迫っていたので、メンバーの荒内(佑)くんの家でデモから制作したんです。それがすごく新鮮で、バンドでも活かせそうだなと。あとメンバーが引っ越しをして、三人の家が近くなった事情もありますね。

――でも全員で一から作ると、個人でやるより時間がかかりません?

高城 おっしゃる通り、すごくかかりました。ゾロゾロと集まって「最近、何聴いてる?」なんてダベりから始まり(笑)、「じゃあ、そろそろ手を動かそうか」なんて言いながら、曲作りが始まっていく。でもその緩さが大事だったというか。細かくメンバーの手が加わることで、自分たちでも思いもよらなかったものができあがる。それが刺激的でした。

髙城晶平

――ceroは前作から今作までの間にメンバー個々がソロアルバムをリリースしました。そのフィードバックもありました?

高城 あったと思います。本来、三人はタイプの異なる音楽家なんです。ceroの曲はそれぞれがなんとなく折り重なった形で曲が作られていたんですよ。それがソロを出したことで各自の音楽性がより明確になりました。誰がどのようなことをやればどうなるかが分析できるようになったんですよね。

――確かに荒内さんのソロ(『Sisei』)などは、ジャズや管弦楽の要素を強く感じるなど、ceroと違った印象を受けましたけど、『e o』はそのエッセンスを感じます。それにしてもソロを経て集まることで、特に最初の頃などは妙に「意識」しませんでした?

高城 いや、仲が悪いわけじゃないし、普段から度々、会っていましたから。ソロだって計画的に進んでいたので共有されてたし。三人が揃うこと自体にハズいみたいなのはなかったですよ(苦笑)。

――失礼しました! 制作上、特に印象に残った楽曲は?

高城 全部ですけど、特に三人が関わったなと実感があるのは「Tableaux」(タブローズ)ですかね。

――ピアノのドラマチックなメロディとヴォーカルが細かなリズムとともに柔らかに溶け合う幻想的な楽曲ですね。

高城 橋本くんと僕は同じ高校の同級生なんですけど、昔、放課後の教室で演ってたようにアコースティックギターを一緒に鳴らしてメロディを作ったんです。それを録って荒内くんに預け、外側を作ってもらったらまったく違うものになってびっくりして(笑)。それに三人がちょっとずつ手垢を付け、出来上がっていきました。

――あれはアコギが最初だったんですね。シングルにもなった「Cupola」(キューポラ)は?

高城 あれは僕が本当に軽くコード進行とメロディだけ作って、ふたりに委ねたんです。すると荒内くんが、90年代に坂本龍一さんがいた「gut」レーベルを思い出すと。最終的にはモヤついた雰囲気のある楽曲に仕上がりました。

――小さな楽曲の種が予測していない形に育っていくというか......。

高城 そうですね。他には些細なボイスメモやワンループ分のコードから作った楽曲もあるし、あるいは漠然と「温かい感じ」とか「早い感じ」とか最低限の座標軸だけ決めて作った楽曲があったり。断片がパズルのようにはめ込まれながら拡張し、整っていきました。

――歌詞は高城さんが書かれていますが、今回意識したことは?

高城 もともとストーリー性の強い詞を書いてたんですけど、徐々に叙情的なものになって、今回は、それがより極まった感じですね。というのも香水のパンフレットの影響があって。

――香水のパンフ、ですか? 

高城 はい。僕の妻が香水にハマってて、見せてくれたんですけど、香水の説明って成分についてだけでなく、ほとんど詩みたいなんです。「眠りを妨げる、夏の日差しの~」とか「地中海の○○民族が~」とか、言葉の断片から香りが漂ってくる。それを読んで、今回は叙事的ではなく楽曲の「質感」を感じてもらえる詞にしたいなと。

――例えば先ほどの「Cupola」はどんなイメージで?

高城 気圧が安定せずに、不快な感じってあるじゃないですか。でもそれが逆に官能的にも感じるというか。そういう「もや~」とした感じを楽曲ととともに出すことを意識しましたね。

――なるほど。「不穏な気圧の谷で」「焦げ付く薫り」とかどんよりした言葉が羅列していますよね。

高城 そう。あとプリンスに「Sometimes It snows in april」って曲があって、4月に雪が降るような不穏な感じってあると思うんですが、それを「雪のあとの虹」なんてワードで醸し出してみたり。

髙城晶平

――「Tableaux」はどうです? 

高城 さまざまな光景が夢の中で思い浮かんだ後、一瞬だけ現実に戻される、みたいなイメージ。そこから再び夢に引き戻されるんだけど、さっき見ていた景色が壊れている。一番と二番に登場した歌詞がシャッフルされてしまっているんですね。夢と現実の間にいて、不快と快をいったりきたりしてる空気を描きたかったというか。

――歌詞に「仄めいた鳥」や「滅び色の怪物」など、生物が繰り返し現れる幻想的な描写がありますよね。それが夢の中の光景というか。

高城 「Cupola」も「Tableaux」ももちろん全曲そうですけど、楽曲から漂う香りが言葉でプッシュされたらいいなと思っています。

――完成したアルバムを聴いて、改めてどう思われました?

高城 1枚目の『WORLD RECORD』、2枚目の『My Lost City』の頃に戻ったって感じですね。僕らはもともと高校時代から一緒に音楽を作り、デビュー後も宅録の延長みたいな感じで制作していたんです。ひたすらやりすぎて途中で段々訳がわからなくなったりしたし。なにしろ1~2枚目なんてビートが一定で終わる曲がないんですからね。それこそクラシックみたいに速くなったり、ゆっくりになったり。今、聞くと疲れますし(笑)

――相当な宅録マニアというか。一方で3枚目『Obscure Ride』や4枚目『POLY LIFE MULTI SOUL』はR&Bやソウルを彷彿させるなど作風が変わりましたよね。

高城 そうですね。ゲストミュージシャンを呼んだり、エンジニアの人を交えてとか、いわゆるバンドっぽいものになり、意識が外向きに変化していったのかもしれません。でも5枚目となる今作は原点に戻り、録音物としての完成度を高めよう、そして自分たちが楽しいことをやろうみたいなのがありました。

cero

――アーティストとしてのキャリアを積み、現在は等身大なスタンスで制作できるようになったということなんでしょうか。あるいは年齢的なものとか?

高城 年齢もあるし、ソロをやったのもあるし。すべてでしょうね。

――改めて伺いますが、三人はどういう関係なんでしょう。ここまで密な関係は単にバンドメンバーとだけは括れないというか。

高城 高校時代から一緒にいますからね。ceroはバンド以前にやっぱり友達なんだと思います。当時、たまたま気が合ってしかも「このレコード、いいよ」「あの曲、いいよ」ってシェアし続けてきて、もはや誰が最初に「いい」って言い出したのかわからなくなってる(笑)。もはや半分くらい自分自身のような感じです。

――以前どこかのインタビューで、ceroは常に高校時代の表現にたち帰る場で、ソロアルバムは実年齢の表現をする場だと高城さんはお話されていましたね。

高城 ソロアルバムを出した時はそういう意識だったけど、実際にソロを出して、またみんなとアルバムを作った今となっては少し違うかも。どちらかといえば玉手箱を開けた状態とか。「あれ? みんな、おじさんじゃない?」みたいな。ceroは高校時代からの感覚を大事にしたまま、実年齢の表現をする場になった気がします。ちょっとだけceroは大人になったんですよね。

――今回のタイトル『e o』は最初、セルフタイトルにするか迷ったと聞きました。

高城 そうそう。ギリギリまでセルフタイトル『cero』にするか、悩んだんですけど、遊び心を出したいと思って『e o』にしました。アルバム自体、遊びながら作ったようなところがあるし、あとリズムの中心が空洞になってたり、歌詞の中心軸みたいなものが喪失していたり、いわゆる当たり前に思われるような楽曲の部分をことごとく抜いたような作りをしてるんです。

なのでタイトルでも、抜いて『e o』になりました。もちろんマイケルジャクソンの『キャプテンE.O.』も意識のどこかにあったりもするけど(笑)。

髙城晶平
――今作の『e o』は特定のジャンルでは括れない音楽をあえて志向していますが、高城さんは自分たちの作品を「ポップス」だと思われてますか?

高城 う~ん、どうだろう。最近言うのは、ceroの楽曲はファインアートみたいな位置付けなのかなって。ポップアートと呼んでしまうと消費が前提になるので、ファインアート。アートとはいえ抽象的すぎたり、決して考え込むものではなくて、明快で楽しさが溢れるイメージ。だけど、その中にも「なるほど」というような気付きがあるもの。それを日本語の歌モノでやれるのが理想なんじゃないかと思っています。

――ポップスと呼ぶには違和感がある?

高城 ポップスの前提みたいなものってあるじゃないですか。例えばドラムが入って、ベースが入って、そこから楽曲が成立するみたいな。でもそれらすべてを「本当にそうなのか?」って問いかけることからceroは始まってるから。ポップではあるけど、常に革新的なものを作っていきたいというのが原動力になっているんですよね。

――その意味で、今回のアルバムは、数回聴いただけでは十分に理解できないと思いますが、聴く度に発見があり、どんどん面白くなっていきます。

高城 じつは僕もそうなんです(笑)。ただこれ、録音物として満足いくものを求めちゃったので、ライブを想定していなくて。一体ライブでどうやるか、常に悩み中なんです。でもさらに聴き込みライブで演奏することで、また新しい何かを発見していくかもしれないですね。

●cero
高城晶平(vocal/guitar/flute)、荒内佑(keyboard/sampler/cho)、橋本翼(guitar/cho)の3人により2004年結成されたバンド。2011年にファーストアルバム『WORLD RECORD』を発売。以降、音楽性を変化させつつも常に洗練された楽曲を生み出し続け、感度の高い音楽ファンやアーティストから多くの支持を集めている。
〇アルバム『e o』の発売を記念した全国7都市を巡るリリースツアー「『e o』 Release Tour 2023」が開催中。各公演のスケジュールや詳細は公式サイトをチェック!
公式Twitter【@cero_info】
公式Instagram【cero.official】