「M-1グランプリ」2019・2020ファイナリスト、「キングオブコント」2020・2021ファイナリストという華々しい成績を収め、ここ数年でテレビ出演も増加。「好きな芸人ランキング」(「文春オンライン」調べ)では2021年、2022年と2年連続で堂々の首位と、一躍ブレイクを果たしたニューヨークの嶋佐和也、屋敷裕政。
テレビやYouTubeではお調子者を演じることもあるふたりだが、実は常に不安やジレンマも抱えているという。7月12日から、5都市14公演で開催される単独ツアー『虫の息』の前に、現在のふたりの心境を聞く。
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以前より不安はデカいかもしれない
――今のおふたりはテレビの仕事も精力的にこなしつつ、舞台にも立ち、YouTubeも頻繁に更新していますが、仕事の軸足はどこに置いていますか?
屋敷 昔は仕事といえば劇場しかなかったですけど、今は自分らでYouTubeを始めて、テレビにも出られるようになって。でも、テレビは需要があったら出るだけなので、仕事の分量はテレビから決まる感じですかね。そこに、劇場に立つ機会がゼロにならんようにバランス取りながら、YouTubeをやるっていう感じですね。そのバランスって結構大事で、偏ると変な感じになってまう。
嶋佐 その辺のバランスは、マネージャーがうまく配分してくれていますね。劇場も呼ばれなかったら出られないけど、テレビはこっちではコントロールできないですから。だからYouTubeくらいかな、コントロールできるのは。
――YouTubeチャンネルやテレビなどで今のニューヨークを見ていると、ブレイクした現在でも少し不安を抱えているように見えることがあります。
屋敷 たしかにな。ちょうどこの前、鬼越(トマホーク)の金ちゃんとメシ食うてた時に、「不安はデカくなってるな」って話をしましたね。テレビの出番は増えたし、仕事はいい感じになってきたけど、そういう時のほうが「この仕事無くなったらどうしよう」とか「何年後かにテレビに一切出てなかったらどうしよう」とか思うんです。その感じは、もしかしたら「ここからテレビにバンバン出ていこうな」っていう時よりもデカイかもしれない。そういう話になりました。
でも、そういうもんなんだなって思いますよ。どんだけ売れてる人でも意外と不安がある。それが分かっちゃいましたね。それを聞いてたデニスの松下(宣夫)が「なんか上の話しとんな」って言ってました(笑)。
嶋佐 (笑)。
屋敷 でも自分らが上にいると言われてもピンとは来てなくて。まだまだなんやけどな。もちろん、お金にしろ知名度にしろ上には上がいますけどね。
――YouTubeで東京の家賃の話をされていた時、「億ションなんて無理」って言ってて、「え?もうイケるでしょ」って思ったりして。
嶋佐 いやいや、意外となんですよね~(笑)。
屋敷 まあ、お金の感覚は人それぞれだと思いますけど、精神的な感覚としては全然安泰じゃないなって思いますよ。みんなそうなんじゃないかな、ホンマに。
ジレンマはずっとある
――その一方でYouTubeでは持ち前の悪ガキ感を出して時に悪態をついたりもしつつ、やりたい企画をどんどんやっているイメージもあります。最近だと「真べぇ・ケツ対決」(※ニッポンの社長・ケツがダブルアート・真べぇに対して暴言を吐いたことから広がった動画シリーズ)とか、少し前だと「東京NSC15期の未解決事件シリーズ」とか、笑えるのは当然として、誰かをイジったり突っ込んだりしつつも身近な面白い人を紹介していくのがうまいなと思って。
屋敷 身近な人らとワチャワチャやって、その輪を広げていく。そんなんが一番楽しいですからね。まあでも、本当はもっともっとたくさんの人に見てもらえたらいいなというのはありますけど。
かまいたちさんとか霜降り(明星)のYouTubeの再生回数見てたら、「真べぇVSケツ」なんかやっとるの俺らだけやぞ?ってちょっと恥ずかしくなりましたよ(笑)。せいやがラーメン食べ比べする動画みたいに、マスに向けた動画の作り方をちゃんとしないとなって。本当にマスに向けて広めるなら「真べぇVSケツ」でも毎回100万再生いかさんとあかんなって(笑)。
嶋佐 それでもかなり見てもらってる方だけどね。でも本当はもっと見てほしい。さっきの話じゃないですけど、そういう悩みというかジレンマはずっと抱えていますね。
テレビにたくさん出てニューヨークの顔はある程度知られたと思うんですけど、そこからYouTubeを見てくれる人までは意外といねえなって。もちろんいつも見てくれてる方に対してはありがたいと思いますけど、もっとYouTubeでお金がドサッと入ってきてほしいですもん(笑)。
――YouTubeチャンネルを開設したのは結構早かったですよね。
屋敷 そうなんです、実はだいぶ早かったです。2016年に『オールナイトニッポン0』をやって、2017年にMBSラジオに出させてもらって、2018年に何もなくなって、その1年間は賞レースも全然ダメでコンビ仲もあんま良くなくなって。このままだとヤバいなと思って2019年に「YouTubeラジオを始めたい」という話になって、これまでの単独ライブの幕間VTRもたくさんあったし、そういうのも含めて見てもらいたくてYouTubeを始めたんです。
2020年前からコロナ禍が始まって、そこで毎日ゲストを招いて動画を上げてたんですよね。そこからだいぶ広まっていった感じはあります。
――そういったコロナ禍での新たな挑戦があって、今後挑戦していきたいことはありますか?
屋敷 今喋ってて思いましたけど、僕らのチャンネルで『エレパレ』(※『ザ・エレクトリカルパレーズ』。NSC東京17期生の謎のグループの実態を追うドキュメンタリー動画)っていうNSCの後輩をイジった2時間の動画が200万再生とかいったんです。それって結構奇跡やと思うんですけど、ああいうことはまたできたらなって思いますね。もっとガツガツ見てもらうようにしないとなって。
嶋佐 たしかに。
――嫌ですよ、それでラーメン食べ比べを始めたりしたら(笑)。
屋敷 (笑)。いや、さらば(青春の光)さんのYouTubeみたいな力の入れ方ですよね。YouTubeでしかできない際どいことをやって、それが話題になることでライブの集客にも繋がってる。俺らは俺らでもっとガツガツ行ってもいいんかなって思いました。
――先日『あちこちオードリー』(テレビ東京)に出演された際、オードリーの若林さんに、「2020年・2021年の『キングオブコント』後のニューヨークはギラギラしてたけど、落ち着いたんじゃないか」と言われていましたが、実際はどうなんでしょう。
屋敷 極論を言ったら今のまんまでもいいんです。でも、その時若林さんがおっしゃっていたように、今のまんま、今の仲間とずっと一緒やっていくためには、ずっとギラギラして、ずっと上を目指していないと現状維持すらできないというのが答えなんだなと思いますね。
今年が過去最大のツアーになるのかもしれない
――さて、そんなニューヨークの単独ツアー『虫の息』が7月12日から開催されますが、動員人数は過去最高の約1万人。開催のアナウンスをした動画だと、この動員数の多さに少しビビられてる感じもありましたが、開催が目前に迫った今はどうですか?
屋敷 思ったより売れ行きは全然よかったですね。ただ今は、ぶっちゃけて言うと札幌だけが鬼門ですね(笑)。札幌以外は割と売れてるんですが。
嶋佐 全国でいろいろ場所がある中で、札幌はなかなか売れづらいみたいですね。
屋敷 お笑いにお金を払って見に来る、という文化が他よりちょっとだけ少ないかもしれないですね。
嶋佐 なんとか1万人埋めたいですね。ギャル曽根さんがチケットの先行販売に応募してくださったのに落ちちゃったみたいで。
屋敷 横田真悠ちゃんもね。なんでそんな落ちてんねん!って感じですよ。そんなに数を絞ってるわけじゃないんですけど。
――毎年欠かさず単独ライブをやり続ける理由はありますか?
屋敷 やっぱりテレビの出演がすごく増えて、テレビだといろんな人が考えたことをプレイヤーとして演じることが多いんです。すごくたくさんの人に助けてもらってやる仕事がほとんどになっちゃって。その点、単独は全部自分らで作らないといけないので、そういうことをしないとバランスが悪くなっちゃうなって思います。
いざこうやってテレビの仕事がたくさんもらえるようになったら、「さすがにこれだけしかやらないのは怖いな」って思うようになりましたね。
――例えば日本武道館などでの公演を成功させている先輩方もいますが、ニューヨークもキャパのステップアップを考えていますか?
嶋佐 正直、武道館とかになると、遠くのお客さんがかわいそうな気もするんですよ。せっかく生で見てもらうのに小っちゃかったら面白さが半減しちゃうから。
屋敷 しっかり見てもらうんやったらマックス1000人とか?
嶋佐 そうそう。かといって今回は14公演ありますけど、例えば30公演とかを一か月かけてやるとか言われても無理だもんね。だから、今年が過去最大になるのかもしれないです。
屋敷 たしかに。次、倍の20000人に見てもらうために倍の回数やらなってなったらちょっと難しいよな。
嶋佐 ただ、新しいネタを作ってやりたいなっていう欲はずっとあるし、やっぱりお客さんが埋まったらやっててよかったなって思えるし。単独というのは他の仕事と違って唯一、僕ら目当てのお客さんだけが来る場所で、そういう人がこれだけいるんだって感じられる瞬間なので、それは続けるモチベーションになりますし、達成感も大きいです。
屋敷 それはデカいな。テレビだと、どれくらい愛されてるかが分からないんですよ。
嶋佐 そういうコミュニケーションとか喜びがなくなったら単独はやらなくなっちゃうかもしれないし。
――芸人さんの単独ライブってちょっと特殊じゃないですか。ネタ番組は基本いろんな芸人さんが出ますし、音楽のライブだったら1アーティストで何曲も聴きますけど、同じ芸人さんのネタを見続ける場ってあまりないですよね。
屋敷 そうなんですよ。そんな経験せんまま死んでいく人もたくさんいますよ。だからそういう人が少なくなればええなと思いますけどね。音楽のライブくらい気軽に芸人のライブにも行けるように。
嶋佐 音楽のライブはそれこそ武道館とかで何万人の前でもできるから、うらやましいですよね。ペンライトとかを持ってるお客さんを後ろから見るのもまたいいじゃないですか。お笑いはどうしてもそういうわけにはいかなくて。まあ、武道館をやっても今は埋められないですけどね(笑)。
お笑い界に革命が起こる?
――ネタ作りの進捗は?
屋敷 絶賛制作中で、昨日も今日もリモートで打ち合わせをやってました。毎年コントも漫才も合わせて新ネタを8本ぐらいやるので、今はその種まきをたくさんしてるところですね。
嶋佐 ひょっとしたら、今回の幕間のVTRは『週プレ』読者が好きそうな映像になるかもしれないですね。『プレイボーイ』好きなら刺さるスペシャルゲストが出てくれるかも。
――「飲む・打つ・買う」が好きな読者が多いかもしれません。
屋敷 去年が「打つ」だったので(※昨年の単独公演『Last Message』の幕間では、嶋佐が著名人のアドバイスを元に、競馬で120万円を賭けた映像が流れた)、それで言うと今年は「買う」かな? これはだいぶヒントになりますね。
――あと公演のヒントになりそうなのはタイトルの『虫の息』ですね。最初の話からすると、「俺たちこんなに弱ってるんだよ」っていう弱気な意味にも取れるし、「お前たちもう虫の息だぜ」って調子に乗ってるようにも見えて。
嶋佐 嬉しいな、そう言ってくれると。
屋敷 去年の『Last Message』というタイトルもね、ファンにはそういう深読みをたくさんしてほしくて付けたんですけど、全然そんなことしてくれませんでしたね(笑)。「ラスト」って付いてるんだから気にしてほしいのに。そういう、ちょっと心配してほしいみたいなメンヘラなところがありますから。そういう意味じゃ去年の方が『虫の息』だったな(笑)。
――公演内容について、もう少しだけヒントをください!
屋敷 今想定していることが実現したら、お笑い界に革命が起こるかな(笑)。
嶋佐 (笑)。
――それは、Aマッソがネタにプロジェクションマッピングを取り入れた的なことじゃないですよね?
屋敷 そういうことじゃないです(笑)。
嶋佐 あれも静岡県住みます芸人のぬまんづがAマッソさんより先にやってましたからね。ぬまんづもAマッソさんもやってることを俺らはやらないです(笑)。
屋敷 (笑)。話だけは進んでるんですけど、ポシャる可能性もありますし、今やろうとしてることがおもろいかどうかはまだ分からないです。ただ、宇宙とか物理の法則に反した、お笑いファンタジスタっていうか、お笑いイリュージョニストっていうか(笑)。そういうことをやろうとはしています。
嶋佐 それくらい大きな仕掛けをね、考えてます。
屋敷 だから、配信もいいですけどぜひ生で観てもらいたいんですよね。
――楽しみにしています!
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■ニューヨーク
嶋佐和也、屋敷裕政によるお笑いコンビ。NSC東京15期生同士で2010年結成。「M-1グランプリ」2019・2020決勝進出、「キングオブコント」2020・2021決勝進出(2020年は準優勝)。吉本興業所属
ニューヨーク単独ライブ『虫の息』
2023年7月12日(水)愛知・名古屋市芸術創造センター
開場18:00/開演19:00
2023年7月22日(土)福岡・よしもと福岡ダイワファンドラップ劇場
①開場12:00/開演13:00
②開場16:00/開演17:00
2023年8月5日(土)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
①開場12:00/開演13:00
②開場16:00/開演17:00
2023年8月6日(日)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
開場12:00/開演13:00
2023年8月11日(金・祝) 北海道・共済ホール
①開場12:00/開演13:00
②開場16:00/開演17:00
2023年8月17日(木)東京芸術劇場・プレイハウス
開場18:00/開演19:00
2023年8月18日(金)東京芸術劇場・プレイハウス
開場18:00/開演19:00
2023年8月19日(土)東京芸術劇場・プレイハウス
①開場12:00/開演13:00
②開場16:00/開演17:00
2023年8月20日(日)東京芸術劇場・プレイハウス
①開場12:00/開演13:00
②開場16:00/開演17:00
チケット価格(税込・全席指定):前売 5,000円
※未就学児童不可
※オンライン配信あり(8/20(日)東京芸術劇場・プレイハウス公演のみ)