日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 「スパイダーバース」シリーズ、待望の2作目が登場! DC映画の新ユニバースの始まりを告げる"地上最速の男"の物語!

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『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

評点:★4点(5点満点)

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濃密でめまぐるしく、アニメーションの歓びに溢れた快作

おそろしく濃密で目まぐるしい、きわめてユニークな映像体験をもたらす作品であり、「〈絵〉が動いている!」というアニメーションの原初的な歓(よろこ)びに溢あふれた快作である。

キャラクターごとに異なるタッチを適用した前作のビジュアル表現にも突出したものがあったが、同一キャラクターですら筆致がめまぐるしく変わる本作は、「同一のシリーズにおいても多数のアーティストが異なる表現を試みる」アメリカン・ヒーロー・コミックの映像化、という意味でも画期的だ。

2Dと3D、具象と抽象、CGと手書きの描線がスクリーン上で混(こん)するさまには圧倒される――これを観てしまうと幾多の「実写版」コミック映画がその実「リアリズム」の窮屈な枷(かせ)に囚(とら)われていたことに改めて気付かされる。

さらに本作はコミック原作映画が避けて通れない「原作上の重要な転機」(たとえばバットマンが両親を亡くすとか)の超克を志向しており(それは次作でさらに明確になるだろう)、それが瑞々(みずみず)しいキャラクターたちの実存を際立たせる。

本作はコミック、実写、アニメーションという異なるメディアをリミックスした特異なハイブリッドで、その特異性が物語に深みと可能性を与えている。

STORY:ピーター・パーカーからスパイダーマンを継承した高校生マイルス。共に戦ったグウェンと再会した彼は、各次元のさまざまなスパイダーマンたちが集うマルチバースの中心へ辿り着く。そこでマイルスに突きつけられたものとは......。

監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズほか
脚本・製作:フィル・ロード&クリストファー・ミラー
声の出演:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルドほか
上映時間:136分

全国公開中

ザ・フラッシュ

評点:★3.5点(5点満点)

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ぜひ「血まみれバージョン」を観たい!

スピードスター(超高速移動のできるヒーロー)の雄、ザ・フラッシュ待望の主演作がついに登場である。

DCエクステンデッド・ユニバース最後の作品ということで総集編的な要素はもちろんあるが、「特殊な能力を授かった若者の内面の葛藤」という、スーパーヒーローものの基本に立ち返ったドラマとして見応えがある。スーパー能力は僥倖(ぎょうこう)でもある反面、「呪い」として機能する危険なものでもあるのだ。

さて昨今、かなり曖昧な概念としての「マルチバース」が映画界を席巻しているが、本作はコロナ禍の影響もありやや後手に回った感は否めない(撮影は2021年)。だが、DCコミックの映画化作品の歴史を「マルチバース」として提示する試みは野心的であり、ノスタルジーに終始せずに過去作の世界観を保持させたのは評価に値する。

ノスタルジーを刺激する「くすぐり」も多いが、さまざまな工夫が凝らされていて感心した(中でも特筆すべきはスーパーガールの飛行場面である)。

観ていて思わず声が出るほど驚いた瞬間もいくつかあるが、それを書くことができないのがもどかしい。劇中でも引用される『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への批評になっているところは、非常に興味深いと感じた。

STORY:地上最速のヒーロー、フラッシュことバリー・アレンは、幼い頃に亡くした母と無実の罪を着せられた父を救うため時間を超越するスピードで過去にさかのぼり、歴史を改変する。しかし、そのことでヒーローたちの歴史も激変してしまう。

監督:アンディ・ムスキエティ
出演:エズラ・ミラー、サッシャ・カジェ、マイケル・シャノン、マイケル・キートン、ベン・アフレックほか
上映時間:134分

全国公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru