いよいよ夢の超人タッグ・トーナメントも決勝戦ヘ。その前半パートを収録したこの巻における最大の話題はやはりキン肉マンとテリーマン、ザ・マシンガンズの復活です!!
●『キン肉マン』22巻
●異例の決勝三本勝負に潜むゆでマジック
前巻までで決勝戦へのお膳立ては整ったものの、代償としてドクター・ボンベの死という哀しくも神々しさに満ちたシーンから始まる22巻。キン肉マンの左腕再生手術という使命をまっとうしたところで力尽き、誰にも告げずあの世へ旅立ったドクター・ボンベですが、その密(ひそ)かな死を知るのはまたもや、計らずもその第一発見者となってしまったキン肉マングレート=テリーマンただひとりでした。
こんな残酷な運命のいたずらもありません。なぜならテリーマンは先代グレート=カメハメの死を唯一知る人物でもあるのです。誰にも言えないその秘密だけでも大きいものだったのに、そこに加えてドクター・ボンベの死もまたひとりで受け入れ、二つ目の十字架を背負いこむことになってしまったのですから。それでも秘密を胸に世のため人のため闘いに赴(おもむ)く、そんなテリーマンのダークヒーローぶりが、ずっと彼を応援し続けてきた僕のようなファンには本当にたまりません。
そして迎えた決勝戦は、またその大舞台にふさわしい仕掛けが満載。その一つ目は驚きの三本勝負という決着方法です。しかし両チーム準決勝戦の大死闘を見るにつけ、当初このルールを聞いた僕は気が遠くなりかけました。さすがに、途中でダレるのではなかろうか、と。
作中、キン肉マンもこう言います。
「たとえ一本先取されてもあとで二本取りかえせばこっちの勝ちになるわけだし」
実際、一本目はマッスル・ブラザーズの負け確定と思った読者も多かったのではないでしょうか。そしてそうなったにもかかわらず、結果としてこの試合がダレることは一切ありませんでした。そうさせなかった最大の秘訣が"マスク狩り"です。
ネプチューンマンは、一本目開始10分ジャストでグレートのマスクを狩ると早々に宣言。じゃあ、テリーマンはどうなるんだ。二本目以降も本当に試合はあるのか。読者の思惑は交錯し、この三本勝負はダレるどころか一気に緊張感満点の展開へと昇華されました。これぞまさにゆでたまご先生のストーリーテリングの巧妙さ! 注目すべきマジックです。
そして決勝戦、もうひとつの特別な仕掛けが"ソード・デスマッチ"という殺意満点の舞台装置。僕は当初、これが猛威を振るうのはせいぜいみんなのスタミナが落ちてくる後半戦あたりだろうと踏んでいました。しかし、ゆでたまご先生は甘くなかった。試合開始からなんとたった4ページであわれ最初の犠牲者、グレートが全身を剣で刺し貫かれて早々に瀕死の血まみれ大重傷。早すぎる......! その後も、この剣山は容赦なくグサグサと超人たちを貫きまくり、読者の緊張感は否が応でも高みを増していきました。
●友情を最も知るのは悪魔という逆説
そんな恐怖の剣山にとうとうマスクの一部を切り刻まれたグレートが、頭部の金髪を露出。これで彼の正体がカメハメではなくなっていることに、さすがのキン肉マンも気づきます。しかしそれでもキン肉マンは、正体のわからぬグレートの奮闘を意気に感じ、疑念をこらえ見開きの大ゴマで彼にこう言いました。
「なんでわたしがこの髪の色を忘れるものか。こいつは間違いなくわたしのタッグ・パートナー、キン肉マングレートじゃ!!」
パートナーふたりの思いが交錯するこのシーンは、見るたび僕が毎度泣きそうになる名場面のひとつです。
そして、その感動の流れに乗ったまま一本目決着に至る、「予告達成!?の巻」の一話が本当にすごい。両者の形勢が五転、六転するほど目まぐるしく入れ替わる攻防描写の激しさは圧巻の一言です。
結局、奮闘虚しくグレートのマスクはとうとう狩られてしまいます。さすがにテリーマンが正体だと知らなかったキン肉マンは呆然自失。そのまま一本目は敗北し、後のない絶体絶命の状況に。
同時に、このテリーマンの正体バレで"マッスル・ブラザーズ"は二本目から"ザ・マシンガンズ"と名を変え、ここに最強タッグが形だけは復活しました。
しかしそこにまだ真の魂は宿っていません。なぜなら、キン肉マンは依然自分をだまし続けていたテリーマンにへそを曲げ、テリーマン自身もそこに負い目を感じて、心が通じ合っていないから。もう昔のようなコンビには戻れないのか。本人たちはおろか、いつもそばにいるミートですらどうすればいいかわからない中、その解決策を見事に提示したのはまさかの宿敵アシュラマンでした!
「テリーマンは甘えている。友情の回復は待っていてもできやしない」
思えばこの一戦の前、はぐれ悪魔超人コンビとの闘いの根幹テーマはまさにその友情の是非でした。その中で飛び出した名言「悪魔にだって友情はあるんだ」。これで正義超人の信じ続けた友情の力は悪魔にすら認められ、正悪超人戦争は終結を見たのです。
だからこそ今この時、友情の力を身に染みて知る存在がアシュラマンなのも頷(うなず)けるし、それを彼が何度も直接ぶつかってきたテリーマンにフィードバックするのも、熱さこの上ない演出ですよね。キン肉マンの永遠のライバル同士でもあるこのふたりの関係性もまた、僕はたまらなく大好きです。
かくしてキン肉マンとテリーマンの友情は完全に回復し、真の意味でザ・マシンガンズが大復活。これで完璧超人ヘル・ミッショネルズと互角以上に闘えるぞ、という希望の光が読者をまばゆく照らしたところで闘いは次巻、真の決着編へと続いていきます!
●キン肉マン四コマ
●こんな見どころにも注目!
この巻で少し気になったこのコマ。シルエットで顔がよく見えない何者かが思わせぶりなセリフを発し、今後の展開についての読者の期待を煽るこのようなシーンはゆでたまご先生の作品にはよくある演出だと思います。でもゆでたまご先生って、そこは読者に非常に優しくて、結構ヒント多めにシルエットの正体を匂わせてくれるんですよね。僕ら読者にとってもそれは先々の想像が広がるし、ありがたいことづくめなんですが、それにしてもこれはさすがに......ヒントダダもれすぎるのでは?
●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! ミステリ小説『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』(宝島社)も好評発売中