日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! アカデミー賞主演女優賞ノミネートの話題作と、あの「プーさん」が狂暴なモンスターになるスラッシャー映画!

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To Leslie トゥ・レスリー

評点:★3点(5点満点)

© 2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved. © 2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved.

甘すぎるエピローグには疑問

かつて宝くじを当てたものの、気づけば文無し、おまけにアルコール依存症で、故郷を捨ててその日暮らし、という絵に描いたような「ルーザー=負け犬」の女性の彷徨(ほうこう)と再起を描いた作品である。

主人公役アンドレア・ライズボローの演技は高く評価されているが(アカデミー賞主演女優賞ノミネート)、彼女を取り巻く他のキャラクターもそれぞれ良い。

特に彼女に手を差し伸べるモーテル従業員のスウィーニー(マーク・マロン)と、変人の相棒ロイヤル(アンドレ・ロヨ)の二人が醸し出すオフビートなおかしみと哀感には目を瞠(みは)るものがあった。

アルコールなど依存症の人間が「誘惑を断ち切って更生する物語」はアメリカ映画のひとつの定形とも言えるものでそれほどの新味はないが、登場人物がそれぞれ大変魅力的なのと、決定的に残酷な展開にはならない「優しさ」が物語とマッチしているのが良い。

が、主人公が立ち直るのは良いとして、ダメ押しのエピローグがあまりにも甘いのは気になる。優しい物語だということは既に十分すぎるほど分かっているのに、さらにほとんどファンタジックともいえるエピローグで、すべてが綿菓子でくるまれてしまったのは残念だ。

STORY:テキサスに暮らすシングルマザーのレスリーは宝くじで高額の賞金を得るも、数年後にはその金を酒で使い果たしてしまう。行き場を失った彼女は、ある孤独なモーテル従業員と出会ったことで、過去を見つめなおそうとする。

監督:マイケル・モリス
出演:アンドレア・ライズボロー、オーウェン・ティーグ、アリソン・ジャネイほか
上映時間:119分

全国順次公開中

『プー あくまのくまさん』

評点:★2点(5点満点)

© 2023 ITN DISTRIBUTION, INC. ALL RIGHTS RESERVED. © 2023 ITN DISTRIBUTION, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

「看板に偽りなし」だが、すべてが「思いつき」レベル

A・A・ミルン作『クマのプーさん』に登場するキャラクターの著作権が2021年に切れたことを受けて、さっそく製作されたホラー版......というかスラッシャー映画版『くまのプーさん』である。

既存の愛すべきキャラクターを「魔改造」して、たとえば血まみれのバービー人形を並べた「作品」を作ったり、ディズニーキャラクターをポルノの文脈に落とし込んだり、ということはこれまでも広く行なわれてきたことで、もちろん好悪は分かれるだろうし、多くは単に幼稚な悪意の発露でしかないが、鋭い批評性を兼ね備えたパロディも存在する。

ただ、残念なことに本作は前者であり、思いつき以上の何かが展開するわけではない。

それなりのゴア描写はしっかりあり、その意味で「看板に偽りなし」とは言えるだろうが、スラッシャー映画としても工夫に乏しく、サスペンスの演出もうまく機能していない。キャラクターにも物語にも意外性がないというか、そもそも長編映画として成立させられるに足る内容がないのである(5分程度のパロディ動画の方が向いている)。

暗黒のプーさんの周囲をクマバチの大群がぶんぶん飛び回っているビジョンは不吉でかっこいいのだが......

STORY:冒険の日々は終わりを迎え大人になったクリストファー・ロビンは100エーカーの森を去る。時がたち、婚約者と久々に森に戻ったロビンだったが、そこで目にしたのは血に飢え野生化したプーとピグレットの姿だった......。

監督・脚本:リース・フレイク=ウォーターフィールド
出演:マリア・テイラー、ニコライ・レオン、ナターシャ・ローズ・ミルズほか
上映時間:84分

全国順次公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru