日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! ラッセル・クロウ主演の最新型「エクソシスト」映画と、あの「ハイジ」が復讐の炎に身を焦がす過激作!
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『ヴァチカンのエクソシスト』
評点:★3.5点(5点満点)
「悪魔憑き映画」要素のてんこ盛り
ケレン味たっぷりのエンターテインメント・ホラーで、ニコニコしながら楽しく観られる。『エクソシスト』から50年を経た、悪魔憑(つ)き映画の最新型がこれである。
ラッセル・クロウ演じるガブリエーレ・アモルト神父は実在の人物がモデルだが、そこはあまり重要ではない。というか、実際のアモルト神父が創立した「国際エクソシスト協会」が本作に不快感を示しているという事実が、逆説的に本作の面白さを保証していると言ってもいいだろう。
なぜなら「国際エクソシスト協会」は本作を始めとする悪魔憑きを描いたホラー映画全般について、「悪魔ばかりを派手に描く一方、神やキリストがないがしろにされている」のが不満なのである。
本作は過去の悪魔憑き映画の要素がてんこ盛りで既視感を覚えるシーンも多いが、とにかく派手にして観客を楽しませようという気概は頼もしい。
が、過去に教会が犯した残虐非道な行ないを免罪するかのような、物語上のツイストだけはいただけない(とはいえ実際のアモルト神父がカトリック聖職者による無数の性的暴行をサタンのせいにしていたことを思うに、そういう責任転嫁がキリスト教の十八番[おはこ]だということは言えるかもしれない)。
STORY:1987年、サン・セバスチャン修道院。アモルト神父はローマ教皇から、ある少年の悪魔払いを依頼される。若き相棒トーマス神父と本格調査を始めたアモルトは、修道院の地下に眠る邪悪の魂の存在にたどり着く。
監督:ジュリアス・エイヴァリー
出演:ラッセル・クロウ、ダニエル・ゾヴァット、アレックス・エッソーほか
上映時間:103分
全国公開中
『マッド・ハイジ』
評点:★2.5点(5点満点)
「メタ・ジャンル映画」は楽しく、やがて寂しい
たとえば「ホラー・コメディ」というジャンルが成立するためには、「ホラー映画」の内容と形式についての共通認識が必須であり、その上でジャンル自体に対して自己言及的であることが必要とされる。
一般に「ホラー・コメディ」の嚆矢とされるのは1948年の映画『凸凹フランケンシュタインの巻』だが、メタ的な要素を持つ映画は1910年代からすでにある。
『マッド・ハイジ』はさまざまなジャンル映画のパスティーシュが散りばめられた「メタ・ジャンル映画」であり、女囚映画、ナチスプロイテーション、SF、ホラー、それにもちろん『アルプスの少女ハイジ』がパロディ化され脱構築されることが笑いを生む作品である。
いわゆる「サメ映画」をはじめ、現在はこのような「メタ・ジャンル映画」が花盛りで、低予算の作品のみならずスタジオ主導の大作や、アート系の映画にも同じ傾向のものが多々ある(タランティーノ作品やマーベル映画、『エクスペンダブルズ』などは良い例だ)。
それはそれで楽しいし、本作の血まみれの「ジャンル映画愛」に真摯(しんし)さがないと言いたいわけではないが、「メタ」だけに頼った作品を前に一抹の寂しさを感じるのもまた事実なのである。
STORY:チーズ会社の社長でスイス大統領のマイリは、恐怖の独裁者として同国に君臨していた。アルプスの少女ハイジは、禁制のヤギのチーズを闇で売って処刑された恋人のペーターと、山小屋ごと爆殺された祖父の復讐のため立ち上がる。
監督:ヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプシュタイン
出演:アリス・ルーシー、マックス・ルドリンガー、キャスパー・ヴァン・ディーンほか上映時間:92分
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開中
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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