人気ロックバンドBRAHMANのドラマーRONZIが大の親友で、本人の歌詞をそのまま紹介するなら「河合奈保子の心と笑い飯・西田の顔を持つ」という幡ヶ谷のラーメンアイドル、好き好きロンちゃんが、2023年7月26日(水)にファーストフルアルバム『ロンちゃんのなつやすみ』をリリースする。

ただ、心は河合奈保子でも、収録曲は『パイオツBABY』『チン毛の一等兵』『インポになった夜』『ちんぽこ』となんだかお下品そうなタイトルばかり。そんな下ネタとラーメンをこよなく愛するというロンちゃんの正体を探るべく、本人を直撃!

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■RONZIがバンドを始めようと思ったきっかけも、昭和のポップスを含めたいろんな音楽ジャンルが好きだったから

――2020年にデビューを発表し、翌年にはミニアルバムをリリースした好き好きロンちゃんですが、実はそれより前からライブ活動はされていましたね。

ロンちゃん そうですね。アイドルデビューする前から『好き好きロンちゃん』という曲があって、宴会芸としてやっていました。ツインテールをし始めたのが2014年、「風とロック」のイベントで、でんぱ組.incと対バンした時で、でんぱ組のメンバーに髪の毛をもてあそばれて今のスタイルに近付きましたね。

でんぱ組とは、親友のRONZIが(古川)未鈴ちゃんのソロ曲を作ったのがきっかけで仲良くなったしBRAHMANとのツーマンライブもやりました。衣装は、『好き好きロンちゃん』という楽曲が昭和のアイドル風だったので、そっちに寄せたら分かりやすいかなと思ってこうなりました(笑)。

――そもそもなぜ昭和のアイドル風の曲ができたんですか?

ロンちゃん 宅録がブームで何か曲を作りたいという時に、面白そうな自己紹介ソングを作ろうと思ったんです。その時に思い浮かんだのが昭和のアイドルソングだったんですよね。

――アイドルソングというと、友人であるRONZIさんがドラマーを務めるBRAHMANの音とはだいぶギャップがありますよね。

ロンちゃん でも、RONZIがバンドを始めようと思ったきっかけも、昭和のポップスを含めたいろんな音楽ジャンルが好きだったかららしいですよ。当時の対バン相手はみんなパンクバンドばかりで、パンクをやるならパンクしか聴いちゃいけないっていう風潮があった。

でもTOSHI-LOWとしゃべる時は、お互い懐メロもフォークもポップスも聴いてたから、例えば『なごり雪』みたいな懐メロの話題も結構出てきたんですよ。昭和アイドルもいろんな音楽のボキャブラリーの中のひとつとしてあって、そこに違和感はなかったんですよね。

――なるほど。ロンちゃんのアイドルとしてのコンセプトはありますか?

ロンちゃん 「パイオツBABY ポコチンDARLING」とか、歌ってる内容は下ネタばかりで品がなく聞こえるかもしれないけど、そんな中でも下品になりすぎないというのはコンセプトとしてあって。下品ではあるけど、グロい下品にはならないように気を遣っています。

曲ができたら周りの人、特に女性に聞かせてみて、「これは下品だね」って言われた曲は採用しないようにしています(笑)。やっぱり男には判断できないOKラインがあって、下ネタでもかわいらしく聞こえないとダメですから。たまにそこを飛び抜ける時もあるんですけど(笑)。

観客に笑顔を振りまく好き好きロンちゃん観客に笑顔を振りまく好き好きロンちゃん

――本格的な曲作りはいつから?

ロンちゃん それまでは何か思い付いたら宅録で形にする程度で、そんなにやってはいなかったんですけど、こうしてアイドルとして表に立つようになってからは頻繁にするようになりましたね。曲はギターで作ります。ギターくらいしかできないですからね。

――え、ドラムは?

ロンちゃん あっ!? ドラムもありましたね。でもドラムでは曲作れないですから(笑)。歌モノはやっぱりギターで作るのがやりやすいですね。

――曲や歌詞はどういう時に思い付くんですか?

ロンちゃん 寝る前にだいたいお酒を飲むんです。で、酔っ払って布団に入ると、急に何か降りてくる時があるんですよね。そしたら起きてギターを弾いて、曲をまとめていくんです。『勃起ドリーム』みたいなワードが、メロディーと同時に降りてくるんですよね。

――寝る前にエッチなことを考えてるわけじゃないんですよね。

ロンちゃん エッチなことなんか考えてないよ!(笑)『勃起ドリーム』は前回のミニアルバムに収録されてる曲なんですけど、すごく自然に「勃起ドリーム」という言葉と「夢とチンポが膨らむ」というテーマがサッと降りてきたんですよ。神様が与えてくれてるんですかね。

――なるほど。

ロンちゃん そんな真剣に聞かれても!(笑)「勃起」だけじゃ下品だし、「ドリーム」だけでもダメ。「勃起ドリーム」って組み合わさるとちょっとファンタジーになっていいですよね。

――歌ってて恥ずかしさや照れはないですか?

ロンちゃん もともとは宴会芸だったから恥ずかしくなかったですけど、表に出るようになってからは多少ありますね。だからライブはお酒を飲みながらじゃないとできないんです。

いや、たぶんできなくはないけど、飲むと調子がいいんですよね。心の中に何か引っかかってるんだと思います(笑)。友人がドラムを叩く時は呑まないですからね!

メンマ(ファンの愛称)の歓声に包まれる好き好きロンちゃんメンマ(ファンの愛称)の歓声に包まれる好き好きロンちゃん


■みーちゃんは僕が考えている以上に深く歌詞について考えてくれる

――最初は宴会芸として仲間内に聞かせてたということですが、2021年に行われたワンマンコンサートや今回のアルバムにもゲストフレンズとして、としくん(TOSHI-LO●)やみーちゃん(細●武●)といった錚々たるメンバーが参加しています。仲間からの反応はいかがですか?

ロンちゃん 新曲ができるとみんなすごく褒めてくれるんですよ。みーちゃんなんかは僕が考えている以上に深く歌詞について考えてくれて「この歌詞はこういう意味なのかい?」って聞いてきてくれます。だから「それいいな」と思ったら「よく分かったね。みーちゃん、その通りだよ」って返事をしてます(笑)。

――たしかに下ネタなのに深い意味に聴こえる歌詞はありますよね。

ロンちゃん そうなんですよ。馬鹿なことを歌ってる曲もあるんですけど、実はきちんと伝えたいメッセージを封じ込めた曲もあるんです。でもそれを直接言うのって結構恥ずかしいですよね。だから下ネタをメタファーに使って表現することで、逆に照れがどこかに行くんです。普段は結構真面目なことも考えるんですよ!(笑)

――意外と真面目なんですね(笑)。

ロンちゃん 意外とってどういうことだよ!(笑) いや、その気持ちはすごく分かります。それくらいの感じに仕上げるようにはしています。

――実は個人的に最近いろいろと元気がなくなってきて、今回のアルバムの『インポになった夜』という曲の歌詞は刺さるものがありました。

ロンちゃん マジですか!? そう言ってくれた人は初めてですけど(笑)、あれも一応、応援歌のつもりで作ってはいるんです。実際、お酒を飲んだりして誰しも元気がなくなる時はありますよね。でもそういうことも笑い飛ばせるよ、いつか元気になれるよっていうメッセージを込めています。ただ表現の仕方が斜め上だったので、伝わりづらいかもしれないですけど(笑)。

――「負けないで」とか「涙の数だけ強くなれるよ」といったメッセージもいいですけど、インポがきっかけの応援歌もいいですよね。

ロンちゃん そうやって捉えてくれる方のおかげですよね。もちろんそんな深読みせずに捉えずに、純粋に楽しんでもらえるのもいいですし。

『ロンちゃんのなつやすみ』ジャケット。ツアー中のホテルで、スタッフがアプリをいじって出来た絵がそのままジャケットに『ロンちゃんのなつやすみ』ジャケット。ツアー中のホテルで、スタッフがアプリをいじって出来た絵がそのままジャケットに

■他のメンバーに対する感謝が増えました

――さて、そんな『パイオツ BABY』や『インポになった夜』が収録されている初のフルアルバム『ロンちゃんのなつやすみ』が7月26日にリリースされますが、フルアルバムに取り組もうと思ったのはなぜですか?

ロンちゃん 2021年にミニアルバム『好き好きロンちゃん』を出して、すごくいろんなライブにお誘いしてもらえるようになって、結構な数の弾き語りライブをやったんです。でも、毎回同じ曲をやってると笑いが減ってくるし、新ネタが欲しくなる。そうするとすごくいっぱい曲ができてきて、それをまとまった形にしてみたくなってきたんですよね。

――テーマが夏休みなのは?

ロンちゃん いつも一緒にやってるディレクターが仮タイトルで『ロンちゃんのなつやすみ』って付けてきたんです。最初「リリースが夏だからかな?」くらいに思ってて、深い意味は分からなかったんですけど、アルバムタイトルに「なつやすみ」って付くだけで、不思議と曲が夏っぽく聞こえてくるんです。夏休みっていうテーマをもらったら作品のスジが一本通ったものになる気がして、これはいいなと思って、そのままタイトルをいただきました。

リリースしたらプロモーションとかイベントとかライブも付いてくるじゃないですか。「なつやすみ」って名前がついてると、たぶん色々とこじつけやすかったんでしょうね。東名阪ツアーは8月末から9月頭にかけてやるので「やり残した最後の宿題ツアー」っていう名前になりましたし。天才ディレクターですよ。

――どんどん曲ができるという、その創作意欲はどこから湧いてくるんですか?

ロンちゃん 元々ドラムをずっとやってたじゃないすか。あ、友達のRONZIがね。彼は、やっぱりボーカルのセンスはないと思って他の楽器、ドラムをやっていたんですけど、歌うこと自体はすごく好きで、カラオケとかもすごくよく行っていて。だから歌っていい場所を与えられたのがめちゃくちゃ嬉かったんです。

そうすると、やっぱりお客さんもすごく楽しそうにしてくれてる。そうすると、もっともっと曲を作ろうって欲が湧いてくるんですよね。だから無理やり作らなきゃと思っては作ってないんですよ。

――やはりロンちゃんの活動というのは、本業がドラマーっていうのも関係あるんですかね? ドラマーはステージ上を動き回ったりはしないじゃないですか

ロンちゃん その可能性はありますよね。ずっと後ろにいる鬱憤(うっぷん)みたいなものがたまってて(笑)。でも、いざ前に出てみるとフロントマンの苦労はすごいよく分かりますよ。最近、TOSHI-LOWには「本当いつもごめんね」「前は大変だね」って言いますよ。(笑)。

ドラムってやっぱり、どこかお客さんと直じゃないところがあるんですよ。前に3人いてその後ろにいるんで、演奏に集中はできると思うんですけど、前にいる人は演奏以外のいろんなことをやらなきゃいけないんですよね。もちろん頭でそうだと分かってはいたけど、実際前に立ってみるとこんな大変なんだなと思うことがいっぱいあって、他のメンバーに対する感謝が増えましたね。

――ロンちゃん1人だと全員の視線が1か所に集まりますしね。今ライバルのアイドルはいますか。

ロンちゃん 目標にしてるのは、今回の歌詞にも出てくる河合奈保子さんですね。元々の『好き好きロンちゃん』っていう曲を作る時も、「河合奈保子さん素敵だな~」「河合奈保子さんみたいな曲ができたらいいな」と思ってやってたので、ずっと憧れですね。

ライバルって言うと、以前のインタビューではでんぱ組.incの(古川)未鈴ちゃんだって言ってたんですけど、今は育児で活動をセーブしてますもんね。だから今は、ももクロのあーりん(佐々木彩夏)かな。

――ピンクのアイドル同士で対決してもらいたいです。

ロンちゃん できるものならしたいですよ。でもあーりんは本物のアイドルだからな。

――ロンちゃんもアイドルじゃないですか。

ロンちゃん ん? ロンちゃんはそんなにアイドルじゃないかも(笑)。

――(笑)。最後に、ラーメンアイドルとして最近美味しかったラーメン屋があれば教えていただけますか。

ロンちゃん 新潟にHi-STANDARDの難波(章浩)さんが始めた「なみ福」っていうラーメン屋さんがあるんです。「楽久」っていうラーメンとチャーハンしか出さないお店が閉店することになって、難波さんがその店の味を引き継いでやってるお店なんですけど、町からすごく離れた、周りに何もない海の家みたいなところで急にやるってことになって。最初はね、難波さんちょっとおかしくなったんじゃないかと思ったんですけど(笑)。

昔、難波さんにその「楽久」に連れて行ってもらったことがあるんですけど、その時はカツ丼を食べた後に無理やり連れて行かれたんですよね。「楽久行く?」「いや、行かないですね」「じゃあ先導するから付いてきて」って、もう返事も聞こえてない(笑)。それでも、その時食べた味はとても美味しかった思い出があるんです。

で、ちょうど新潟でライブがあって、「なみ福」のラーメンを食べたら本当に美味しくて、ちょっとびっくりしちゃって。昔食べた思い出の中の「楽久」よりも美味しいくらいで。油をあんまり使っていない煮干しの効いたあっさりラーメンと、油の効いたチャーハンで、どちらも最高に美味しいけど、そのバランスも素晴らしいんです。

ソフトクリームもあってまたそれもすっごい美味しいし、そこから見える砂浜と海の景色もめちゃめちゃ良くて、難波さんすげえなって思いました(笑)。もちろん難波さん一人じゃなくて、いろんな人が力を貸してやっていて。きっと無茶も言ったと思うけど、そういう人が周りにいるっていうのも含めてちょっと感動しちゃって。それが昨日の話です(笑)。車がないと絶対行けないですけど、わざわざ行く価値はあると思いますよ。


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■好き好きロンちゃん 
フリフリの衣装にヒゲとロン毛という見た目、そして下ネタ満載の歌詞とクセになるメロディーの楽曲を歌い上げる異色のラーメンアイドル。2020年11月に突然のアイドルデビュー宣言をし、2021年1月にミニアルバム『好き好きロンちゃん』でCDデビュー。年齢は100万49歳

酒井優考

酒井優考さかい・まさたか

週刊少年ジャンプのライター、音楽ナタリーの記者、タワーレコード「bounce」「TOWER PLUS」「Mikiki」の編集者などを経て、現在はフリーのライター・編集者。

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