日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 今回は宮﨑駿監督の10年ぶりの新作と、身も凍るほど怖いと話題の北欧発サイキックホラーだ!

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『君たちはどう生きるか』

評点:★3点(5点満点)

「アオサギ男」の人物造形に惹きつけられる

筆者はこれまでの宮﨑駿監督作品を網羅していないので(観たことあるのは本作含め6本)、本作が「自己参照的で集大成的」なのかどうか、という点について論評することはできないが、それでも自伝的な側面に重きをおいた作品だということはよく分かった。

本作はまた彼の創造力の源としての「ファンタジー」との関連を描いた作品でもある。

が、『オズの魔法使』を筆頭に、ファンタジー世界への越境と現実への帰還を描く作品の多くにみられるような「ファンタジー世界がいかに現実世界を反映し、あるいは変形させているのか」という部分が本作ではかなり希薄なため、その越境と帰還の必然性が多少分かりにくくなっているきらいはある(といってファンタジー世界が単に日常をグロテスクに反映しただけのものだったら、それはそれで退屈なものになってしまうだろう)。

冒頭の火災シーンの表現であるとか、常に強調される「動画内における重心の移動」など、アニメーション的な見どころも当然のことながら多い。キャラクターは総じて少し弱く感じたが、ポスターにもなっている奇怪な「アオサギ男」の滑稽でもあり恐ろしくもある人物造形には惹ひきつけられた。

STORY:2013年に公開された『風立ちぬ』以来、約10年ぶりとなる宮﨑駿監督作。戦時中の日本、大空襲で母を亡くし、戦闘機工場を営む父と共に郊外へ疎開した少年・牧眞人は、そこで不思議なアオサギと出会う。

監督・原作・脚本:宮﨑駿
声の出演:山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村佳乃、木村拓哉ほか
上映時間:124分

全国公開中

『イノセンツ』

評点:★4点(5点満点)

© Mer Film © Mer Film

神経をキリキリと苛むサイキックホラー

観る者の神経をキリキリと苛さいなむ、非常に優れたスカンジナビア発のホラー映画である。

舞台はノルウェー郊外の団地で、主人公はイーダという9歳の女の子。彼女が団地で知り合ったベンという少年と、アイーシャという少女には念じただけでものを動かしたり、人の心を読み取る力があった。

主人公イーダには少し歳の離れた姉がいて、重度の自閉症のため言葉を発しないのだが、アイーシャやベンを通じてコミュニケーションできることが分かる。だがベン少年のサイキック能力は次第にその力を増していき、本人の不安や混乱、怒りを反映しておぞましい事態が次々と発生する。

映画のタッチは完全にアートハウス映画のそれであり、緻密に計算されたフレーミングとカメラワークが恐怖を引き立てる。

特筆すべきは何といっても子役4人の演技の素晴らしさで、そのリアリティがもたらす没入感がおっかなさを倍増させている。]

要所要所で控えめに用いられる特殊効果のレベルも驚くほど高い。ペシ・レヴァントが手掛けたサウンドトラックも大変ユニークで興味深かった(本人によれば「ジョン・ウィリアムズ的な、伝統的な『映画音楽』と正反対のものにしようと思った」そうである)。

STORY:ノルウェー郊外の住宅団地。ある力に目覚めた4人の子供たちは、親の目の届かない近所の遊び場などでその力を試す。しかし、その実験はエスカレート、無邪気な遊びだったものはやがて悪夢へと姿を変える

監督・脚本:エスキル・フォクト
出演:ラーケル・レノーラ・フレットゥム、アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタほか
上映時間:117分

新宿ピカデリーほか全国公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru