人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが6月の『キン肉マン』連載をレビュー! 人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが6月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが6月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第419話 常識を変える"友情パワー"!!の巻(6月5日更新分)
第420話 下天せしは"刻の神"!!の巻(6月19日更新分)

第421話 欠片の使い道!!の巻
(6月26日更新分)

あらすじ
超神を倒し、バベルの塔頂上へたどり着いたリアル・ディールズ。ザ・マンより、今回の闘いは超人強度をめぐるエネルギーの争いであると聞かされる。さらに、友情パワーこそ、この問題を解決するカギであることが伝えられた。加えて、第3勢力である刻の神が率いる"時間超人"たちの台頭もささやかれ、新たなる危機を迎える......。

●ここへきて時間超人という課題に挑戦するゆでたまご先生

燃え殻(以下、) 僕は小4ぐらいから、ずっと『キン肉マン』を読んできて......。マンガって「あれ? ストーリーどうなってたっけ?」って読み返したりすること、あるじゃない?

爪切男(以下、) ありますね。

燃 でも『キン肉マン』に限っては、絶対なかったの、そんなこと。キャラクターも造形からして、見間違えようがないじゃない? ほかのマンガだと、キャラが似ていてわかんなくなることもあったけど......。

 うん、『キン肉マン』はそんなことない。それぞれのキャラが立っているしね。

 そうだったんだけど、この6月に掲載された3話に限っては、マジで一瞬話を見失いそうになった。

 はははは。

 最新話って月曜の0時に『週プレNEWS』にアップされるじゃない? アップされた直後はアクセス数がすごくて重くなるから、2時とか3時に見るの、俺。で、読み終わって「......あれ? もう一回読もう」っていうことをしたの初めてかもしれない、物語の構図と世界観を理解するためになんだけど。

 なるほど。あと、なんといっても時間超人ですよね。『キン肉マンII世』の時間超人が、まさかここでまた出てくるとは。ゆでたまご先生、まだまだやる気なんやな、と思いますよね。

 確かにね。これでまた話が広がって、描かなきゃいけない展開が多くなるもんね。

 スゴいな、と思いましたよ。安定を求めてない。こんな精力的なベテラン漫画家、いないんじゃないかな。

 連載の続け方を考えたら、ここでさらに話を広げるのってさ......これはもうほんとに、生涯『キン肉マン』を描かなきゃいけなくなるよ。ファンが喜ぶようなことを、最近の『キン肉マン』はやってきたじゃない? ベンキマンが活躍するとか、カナディアンマンを出すとか。それだけじゃなくて、ここにきて新しいことをやる、っていうのが、今の『キン肉マン』だよね。

 82巻を超えて、まだこれを放り込めるっていうのは、すごいと思いますよ。ゆでたまご先生、また自分のハードルを上げられたなあ。

 ほんと、時間超人の登場で連載が50話(*だいたい1年分)ぐらい延びたよね。

 ねえ。そんなことせずに逃げる展開は、なんぼでもあるわけじゃないですか。でも絶対にそれをしないのが、漫画家としてスゴいなと。

 いくらでもあるよね。俺だったら「超人オリンピック」をやっちゃうもん(笑)。

●話を広げながら、畳もうとしている

 友情パワーと火事場のクソ力の仕組みが、この5、6月の連載で、ザ・マンによって明かされたじゃない?

 ああ、自分自身のパワーが上がるのではなく、仲間のパワーを借り集めているんだと。

 昔の『キン肉マン』では、そういうところまでは言及しなかったじゃない? でも今は、友情パワーとは何か、火事場のクソ力とは何か、という問いに答えを出そうとしている。昔は「友情パワー」「火事場のクソ力」という単語で済ませていたものの答えを、そろそろみんなで出していこう、みたいな。

 ああ、それは確かにある。

 そういう意味で、ほんとに、長年『キン肉マン』を読んで来た読者たちと一緒に......先は長いけど、この壮大な物語を畳んでいこう、みたいな姿勢が感じられる......でも、今、むしろ話を広げてるけど。

 ()

 広げながらだけど、畳もうとしているというか。

 あと、この展開で、ひとつわかったことがありますね。スクリュー・キッドは時間超人にやられたんだな、という。

バベルの塔決戦、はぐれ悪魔超人コンビとモデスティーズのタッグマッチの結果が出た直後、超人墓場にスクリュー・キッドが現れる(JC80巻) バベルの塔決戦、はぐれ悪魔超人コンビとモデスティーズのタッグマッチの結果が出た直後、超人墓場にスクリュー・キッドが現れる(JC80巻)

 ああ! 忘れてた、そうだね。

 ということは、スクリュー・キッドの時間超人へのリベンジがあるわけですね。

 いや、ないかもよ?()

 もしリベンジしたとしても、悲しい未来が見える気もするし。時間を操られて、ねじ回しのリズムを狂わされて負けるとか()。でも、420話の5ページ目で、ザ・ワンの言葉を聞いたザ・マンが「やれやれ、偵察の報告どおりか」と言ってるから。

 それがスクリュー・キッドの報告だよね。

上のコマの話の一端にさらっと触れるザ・マン(420話) 上のコマの話の一端にさらっと触れるザ・マン(420話)

 ですよね。でも、これからどういう位置関係になるんだろう? 時間超人たちがこっちに来るのか、地上の時間超人のところにキン肉マンたちが行くのか。ほんとにカオスになってきた感じですよね。

 ほんとだね。そりゃあ僕も『キン肉マン』を読んでいて、初めてこんがらがるわ、っていう。

 でもプロレスでカオス状態になると、普段ならありえない夢のような対決が観れたりするじゃないですか。上田馬之助と前田日明(*)が闘ったり。
*1986年3月26日、東京体育館での新日本プロレス本隊とUWFの5対5全面戦争最終戦。アントニオ猪木vs前田日明を、猪木が避けたと言われており、直前になって上田馬之助の参入が決定。トップロープ越えたら負けというイリミネーションマッチが日本で初採用され、前田の蹴りをくらいまくった上田が、その蹴り足をつかみそのまま場外へ道づれにしたシーンが有名

 ああ、あったね!

 選手が移籍でごっそりいなくなったから、ああいうカードが実現したわけじゃないですか。というようなことが、これから『キン肉マン』の世界でも起きるかもしれない。

 そうだね。これから、誰と誰が闘ってもおかしくない。

 これまでの『キン肉マン』のいいところって、話の展開が早いところだったじゃないですか。

 そうだね。ただ、最初に話したように、この6月の3回について、そうは感じなかった。だから、今回は、説明しなきゃいけないことが、大量にあったんじゃないかな、『キン肉マン』史上で一番くらい。読んでいてそういう気がした。キャラクターがしゃべっている内容が、一対一で会話してるというよりも、この物語の世界観を、みんなで言葉にしているような感じになっていたので。

 ああ、それはそうですね。

 昔の『キン肉マン』は、アバウトなところが笑えて楽しいっていう側面もあったけど、今はそれがなくなって、「立体的に考えてください」みたいなことを、それぞれのキャラクターが言い始めている。ということは、ゆでたまご先生の考えを、各キャラクターに振り分けて言わせているってことだよね。その超人たちのセリフによって、今の『キン肉マン』の世界観を見せる3回だったんだな、と思う。それが、今までの『キン肉マン』にはない感じだったんだな、と。

 ここで説明せざるを得なかった、ということですよね。

 そうそう。だから、説明を3回にギュッとまとめて、そこは読者がスピードを落として読むという、『キン肉マン』の中では異例な回だったんじゃないかな。

 うん、速度を落として、考え、理解しながら読む回。

 で、それを超えて、またリスタートする。だから、この3回は不思議だったね、でも必要だったね......という話をここでして、理解しておく必要があると思ったんだよね。

 あと、『キン肉マンII世』を好きだった読者からすると、けっこう複雑な気持ちになる3回だったと思います。

 ああ、そうだね。

 『キン肉マンII世』において、時間超人を出したことって、当時、複雑な思いだった読者も多いから。時間超人の強さを印象づけるために、前からいるキャラたちをボコボコに負けさせた。だから超人たちのパワーバランスが崩れてしまった、あそこで何かが崩れた、と捉えているファンも多い。

『キン肉マンⅡ世 究極の超人タッグ編』第1巻に登場する時間超人ライトニングとサンダー 『キン肉マンⅡ世 究極の超人タッグ編』第1巻に登場する時間超人ライトニングとサンダー

 うん、うん。

 だから先生は、その時の決着をつけるために、ここで時間超人を出したのかもしれない。で、誰もが「そうか、なるほど!」と納得するような展開を描こうとしているのかも。

 ああ、そうか。

 だから今、『キン肉マンII世』のファンが喜んでいればいいですけどね。

 SNSとかを見ると、賛否両論だね。でも、今、賛否両論が起きるっていうことは、いいことだからね。エンタメとして考えると。

 そうですね。だから楽しみですよね、ここからどう描かれていくのか。

 ......ちょっと俺、帰ったら『キン肉マンII世』、読み直してみよう。

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は8月2日発売予定の『ブルー ハワイ』(新潮社)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで、ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演・阿部寛)はDisney+でそれぞれ配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中