日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 世界的にヒット中! あの「バービー人形」が映画化! そして、鬼才クローネンバーグ監督の新作もチェック!

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『バービー』

評点:★3点(5点満点)

©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. ©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

自分自身のアイデンティティと身体を取り戻せ!

端的にいえば本作は「バービー人形」が「メール・ゲイズ」(女性を欲望の対象として物質化する男の視線)や性差に基づく無数の社会的抑圧が要求する人工的な「女性らしさ」から脱却して、アイデンティティと自分自身の身体を取り戻す物語である。

そういう物語を世代を超えて愛されるバービー人形を主人公に、コメディとして描いているところに本作の凄すごみがある。

そのような特異なセッティングの中で、「スタイルは良い方がいい、しかし痩せすぎはよくない」とか「自分のキャリアを形成するのは大事だが、周りの人と足並みを揃そろえるべきだ」といった数々のダブルバインド(互いに矛盾する命令)や、いわゆる「マンスプレイニング」(「女性はものを知らない」という誤った前提で、男が女に何かを偉そうに解説したりすること)といった、男性優位社会に根を張るさまざまな問題が可視化される。

バービーの世界ではサブキャラのケンが現実の男性優位社会を目にして衝撃を受け、「男だから」というだけでえばって良いのか! と逆に開眼してしまうところには慄然(りつぜん)とさせられる。バービー世界のビジュアルに予告を超えるインパクトがなかったのは残念だったが......。

STORY:ピンクに彩られた「バービーランド」で、バービーはボーイフレンドのケンと完璧でハッピーな毎日を過ごしていた。ところがある日、彼女の身体に異変が起きる。やがて、人間の世界へと旅立つことになったバービーとケンは......。

監督:グレタ・ガーウィグ
出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、アメリカ・フェレーラほか
上映時間:114分

全国公開中

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

評点:★4点(5点満点)

© Serendipity Point Films 2021 © Serendipity Point Films 2021

何もかもが朽ちつつあるユニークな未来像

人類が痛覚を失い、また感染症にかからなくなった未来というビジョンがまず素晴らしくユニークだ。

本作はギリシャで撮影されたが、何もかもが朽ち果てた街を人々が亡霊のようにさまよう未来像は他に類を見ない。感染症の危険がないので、掃除したり水回りを清潔に保つ必要性がなくなってしまっているのだ。

主人公は体内に突然変異の臓器を生み出すことができるアーティストで、その臓器を取り出すパフォーマンスそのものがアートとして高く評価されている。だが彼は摂食障害も併発していて、それが何に起因するのかは分からない。

一方、都市のアンダーグラウンドではプラスチックを消化できる「新たな人類」がネットワークを形成しつつあった。『ヴィデオドローム』や『イグジステンズ』、『ザ・ブルード/怒りのメタファー』など過去のデイヴィッド・クローネンバーグ作品を思わせる要素も取り込みつつ、まったく独自の新たな世界像が提示され、引き込まれる。

バイオメカ的なベッドや解剖台のデザインも面白いが、断片的にしか示されない社会状況も謎めいていて興味深い。この尋常でない世界で政府や国家は果たしていまだに機能しているのだろうか?

STORY:近未来。人工的環境へ適応した人類は、その結果として生物学的構造が変容し、痛みの感覚が消えていた。体内で新たな臓器が生み出される病を抱えたアーティスト・ソールは、臓器にタトゥーを施すショーで人気を集めていた。

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワートほか
上映時間:108分

全国公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru