『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス24巻を熱く語る 『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス24巻を熱く語る

いよいよこの巻から物語は『キン肉マン』1stシーズン最終章「キン肉星王位争奪編」へ。キン肉マン最後の試練が始まるな!......という緊張感に満ちた新たな章の開幕です。

●知性の神の正体は、ゆでたまご先生説!?

前シリーズ「夢の超人タッグ編」の後日談、祝勝パレードの様子から始まるこの巻の冒頭ですが、まず注目したいのはそこで祝福に駆けつけた沿道の超人たちからの言葉。

「ありがとうキン肉マン、あなたはもうダメ超人じゃない。我われ正義超人のリーダー、救世主だ!!」

思えば最初はミートとふたりで、みんなにバカにされながら怪獣退治をやっていた。それが今やまるで逆のこの評価。たとえるなら、ついこの前まで自分と一緒に頑張ってた地下芸人が、いつの間にか連日テレビに出てる大スターになってしまったかのような、嬉しさ半面、一抹の寂しさも覚えてしまう複雑な感覚。キン肉マンの成長や作品内外での時の流れがひしひしと感じられ、遠いところまで来たのだな、という思いがのっけからあふれてきます。

そんなキン肉マンがついに故郷・キン肉星の大王の地位を譲り受けるというキン肉真弓の話から、新たなストーリーは展開していきます。

ところが、その王位継承話に懸念を示すのが今回の敵である五王子を陰で操る邪悪神たちでした。彼らは口々に天井知らずの成長を遂げていくキン肉マンと火事場のクソ力の脅威、それをどうやって止めるかという方策について語るわけですが、僕はここでふと思い当たりました。もしかしたらこの邪悪神たちの会話は、ゆでたまご先生の今のキン肉マンに対する思いそのものではないのだろうか、と。

少しメタ的な視点になりますが、フィクション作品の世界内における究極の神とは、実は作者です。今のキン肉マンの成長ぶりは、その作者にすら手に負えないところまで高まってきている。このままでは主人公があまりに強すぎて、作品内の緊張感も薄れてしまいかねない。じゃあこの先、キン肉マンをどうしよう? そんなゆでたまご先生の大いなる苦悩を、作者という究極の神に比肩しうる作中の存在=邪悪神たちは代弁してるんじゃないか。

そしてそれを止めるためには、新たにただ強い超人を生み出すのではなく、とうとう神自身が超人に乗り移って全力でキン肉マンを潰しにかかるんだという宣言。これはゆでたまご先生が自ら全力でキン肉マンを止めにいくという宣言でもあったのではないか、知性の神こそが実はゆでたまご先生の作中における分身なのではないかと、僕としてはついつい邪推してしまいます。

●マンモスマンに感じる本シリーズの壮大さ

そして現れた運命の五王子ですが、ここで語られる彼らとキン肉マンの因縁の由来がまたゆでたまご先生らしさ全開。ただ目の前に強い敵が現れたから倒すんだ、という単純さを先生は決して許しません。明かされたのは生まれた当時のエピソード。病院が火事になって混乱し、母親が子供を取り違えた可能性がある、というおおよそバトル作品とは思えないサスペンス要素あふれる秘話が飛び出します。

これだから『キン肉マン』はやめられない! ジャンルにとらわれずこういう様々な要素がごった煮になってありえない旨味に昇華されていく、それこそが本作の大きな特徴であり最大の魅力のひとつであると僕は思ってます。

そんな形で大事な戴冠式の最中に突然やってきた謎の五人を排除しようとキン肉マンは勇ましく突撃していきますが、そこでそのキン肉マンの突進をショルダータックル一発でバーン!と跳ね返したのはなんと、その五王子以外の新たな超人!? これぞまさに作中全体を通して僕の最も好きな超人のひとり、マンモスマンの初登場シーンです!

ここで強調したいのは、これが例えばフェニックスに弾き飛ばされたのであればまだこのシーンの衝撃も薄かったと思います。しかしマンモスマンは今回のメインの敵とおぼしき五王子の誰でもなく、そこに仕える兵隊のような存在にすぎません。

そんなヤツに、あの宇宙最強の称号を手にしたキン肉マンがここまで容易(たやす)くあしらわれてしまうのか、という恐ろしさ。しかもこの後、そんなヤツらがどんどん各王子の周りに集結して団体戦を展開していくという話まで飛び出し、気が遠くなるほどの今回の敵の巨大さを感じます。

それに対してキン肉マンは、様々な事情でテリーマンやロビンマスクといったこれまでの仲間の助力を得ることはできず、ミートとふたりだけでこの壮大な闘いに挑むという圧倒的不利。冒頭でも述べました、ゆでたまご先生自身による徹底的なキン肉マン潰しの姿勢がこうして牙を剥き、最強のキン肉マンをもってしても読者が不安にならざるをえない状況がこうして見事に作り出されてしまいました。

そして始まる熊本城での対マリポーサ・チーム戦。初戦の相手はザ・ホークマン。キン肉マンは5人抜きをしなきゃいけませんから、初っ端の相手くらいはすぐ倒して当然かと思いきや、そうは問屋がおろさないと言わんばかりにこのホークマン、めちゃくちゃ強い! しかもなんとかようやく勝ちきったと思ったところで次のミスター・VTRもまたそれに輪をかけてギミックモリモリ、ありえないほど強い......。こんな熱量たっぷりの闘いがいったいいつまで続くのか!?

しかも、そんなキン肉マンの苦戦ぶりと対照的にもほどかあるほどに、同時並行で開催中の会津若松城では、例のマンモスマンがペンチマンにレオパルドンとサクサク勝利を決めていき、この先のさらなる大きな敵を予感させるのもうまさが光る演出です。

キン肉マンの闘いに楽な試合など一切ない、という教訓は身に染みついている僕ですら心配になるほどに、ゆでたまご先生のドSぶりも絶好調なまま闘いは次巻へと続いていきます。

●キン肉マン4コマ

●こんな見どころにも注目!

目立たないんですが、僕が大好きなのがこの一コマ。飛行機から同時にパラシュートで熊本城へと降下していく最中「見ろキン肉マン、あれが熊本城だ!」とマリポーサがキン肉マンにかけたこの一言。これから命のやりとりをしようという相手に、なんと親切で紳士的な態度でしょうか。このマリポーサという男、他の場面でもことあるごとに仲間から信頼を示されるなど随所に品格の高さが伺え、キン肉マンには悪いけど彼が王になった世界も見てみたい、ともつい思ってしまいます。

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! ミステリ小説『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『
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