9月1日から『トーキングブルース』を開催する古舘伊知郎9月1日から『トーキングブルース』を開催する古舘伊知郎
プロレスのタイトルマッチは60分1本勝負で行なわれていたものだが、"喋り屋"の古舘伊知郎にとって60分はあまりにも短すぎる。ひとりでステージに上がり、最初から最後まで喋り倒すトークライブ「トーキングブルース」は2時間を超えることも珍しくない。かつて、3時間30分以上もしゃべり続けたという伝説が残っている。

1980年代に革命的なプロレス実況で人気を博した古舘はその後、高視聴率番組の司会者になり、ニュース番組のメインキャスターを12年間務めた。68歳になった今も、ワイドショーのコメンテーターとして世相を斬り(あるいは憂い)、YouTubeでさまざまなオピニオンを打ち出している。

そんな古舘がライフワークと公言するのが1988年に始めたトーキングブルースだ。これまで仏教や脳、言葉など難解なテーマを古舘流にかみ砕きつつ、掘り下げてきた。彼の所属する古舘プロジェクトの社長だった佐藤孝(現会長)の発案だった。

古舘は言う。

「タイトルは『トーキングブルースでいこう』と聞いた瞬間、俺は『できない』って即答したんだよね、ブルースなんて哀しみが俺にはよくわからないから」

古舘が「トーキングブルースは無理だけど、トーキングファンタジアなら」と逃げ道を用意したのはそのためだ。

「でも、佐藤さんはそれを許してはくれない。とことん追い詰められる。俺は逃げたい。逃げたいけど、逃げられない。やると決めたからには、『ステージでうけたい』という欲が出てくる」

国民的なMCに登りつめていた古舘のハードスケジュールの合間を縫って、トーキングブルースは開催されるようになった。チケット入手困難なライブになり、いつしか古舘の代名詞になった。

「ブルースの真髄みたいなところをかすめ取りながら、エンターテインメントだから、面白おかしく、虚実をとり混ぜて、プロレス流儀でやってきた。ストリートファイトでもない、インチキでもない、本当のプロレスの名勝負みたいなものを。

哀しみという事実があるから、喜びがある。喜びがあって、怒りがあって、笑いがあって、涙があって。ドーランの下の涙の薄化粧じゃないけど、笑いと泣きは一体だと思う」

古舘が2004年から2016年まで『報道ステーション』のメインキャスターをつ務めていたために休止していたトーキングブルースは、2020年に復活した。当時、古舘はこう語っている。

「喋る仕事だけで43年以上生きてきて、俺は65歳になった。報道番組のニュースキャスターという仕事を12年やり終えて、今の自分にあとは何ができるだろうと考えた。自分の欲望として、喋る仕事で人生を終えたい、というかむしろ喋ること以外で何があるのかという思いがある。自分をそぎ落として、そこに残るものは?......それがトーキングブルースだった」

プロレスやF-1実況、バラエティ番組で、独特な言語表現、巧みな話術、豊富なボキャブラリーを駆使してきた古舘。報道番組のキャスターを経てたどりついたのがトーキングブルースだった。

「トーキングブルースが俺の原点であることは間違いない。そこはこれからもずっと変わらない。でも、それがうまくできないから、あがくんだよね。

今の自分に何ができるかは、情けないけど、わからない。ブルースに関して言えば、もともとは黒人音楽ではあるけれど、喜怒哀楽という部分では人種を限定しないと思っている。黒人には黒人のブルースがあるように、黄色人種には黄色人種のブルースがある。きっと、俺には俺のブルースがあるはずなんだよ」

元永氏の著書『トーキングブルースをつくった男』(協力・株式会社古館プロジェクト、河出書房新社刊)も必読元永氏の著書『トーキングブルースをつくった男』(協力・株式会社古館プロジェクト、河出書房新社刊)も必読


9月1日から3日間にわたって行われるトーキングブルース。今回のテーマは「現代の信仰」だ。

「宗教だと重たいと感じる人がいるだろう。推し活というとあまりにも軽すぎる。だから、今回のテーマを『現代の信仰』とした。

言語というものが誕生した時に、宗教が生まれることは必然だったと思う。資本主義の社会では、経済はずっと成長し続けていかなきゃいけない。そういう神話に基づいて相場があり、金融経済があり、実体経済があり、その中に我々がいる」

しかし、それだけでは人間は生きることができない。

「みんな、死んでからの成長神話がないと生きづらい。だから、キリスト教には天国があり、仏教は極楽浄土を設定している。そこに人間の脆さ、儚さがある。

今の日本は無宗教の国になり、科学という宗教を信じるようになった。ところが、自分が死んだあとに託すものがない、行く場所がないから生き続けるしかない。死ぬに死に切れないから、日本は世界一の長寿大国になった――それが俺の仮説」

ロシアによるウクライナ侵攻に終わりは見えない。日本でも、宗教団体に関するさまざまな問題は解決しないままだ。

「死後の世界の設定も含めて、宗教はその人間に寄り添ってくれる物語だと思う。だから、宗教によって人は殺し合う。宗教によって救われたり、宗教によって不幸になったりもするわけ。

現代の信仰とは何か? 今を生きる上で『信じるとはどういうことなのか』を今回のトーキングブルースでみなさんに問いかけていきたい」

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●古舘伊知郎
1954年12月7日生まれ、東京都北区滝野川出身。立教大学を卒業後、1977(昭和52)年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「古舘節」と形容されたプロレス実況は絶大な人気を誇り、フリートなった後、F1などでもムーブメントを巻き起こし「実況=古舘」のイメージを確立する。一方、3年連続で『NHK紅白歌合戦』の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。その後『報道ステーション』(テレビ朝日系)で12年間キャスターを務め、現在、再び自由な喋り手となる

●元永知宏 
ライター。1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。著書に『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)など。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長