Hakubi。左からヤスカワアル(ベース)、片桐(ボーカル・ギター)、マツイユウキ(ドラム) Hakubi。左からヤスカワアル(ベース)、片桐(ボーカル・ギター)、マツイユウキ(ドラム)

京都発スリーピースバンド「Hakubi」が8月9日にリリースした『拝啓』。この曲が、なんとも切なく、泣ける楽曲として話題になっている。

それもそのはず、本作はボーカルの片桐が書き連ねた、亡き祖母に送る「心」の歌なのだ。エモーショナルなサウンドに乗せた片桐の独白は、きっと聴く人全てを魅了する。そんな話題の楽曲を作ったHakubiとはどんなバンドなのだろうか。3人の正体を探るべく話を聞いた。

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片桐は会場の空気を歌で掌握できる

――2017年に結成し2021年にメジャーデビュー。そこから着実にバンドとして大きくなっている印象がありますが、手応えはありますか?

片桐 ライブハウスで育ってきて、メジャーへの挑戦は正直今までの自分たちの戦場とは異なった場所だったというか。メジャーで戦う方法、自分たちなりの魅せ方をここ2年ですごく考えていたなと思います。

「メジャーデビューおめでとう!」で終わるものではないし、なんならそこが始まりだったなと今振り返って改めて思いますね。すごく難しい世界ですけど、そこで自分たちの戦い方、魅せ方というものをもっと追求していけたらなと思ってます。

ヤスカワ 手応えがあるかないかと聞かれたら正直ないんですけど、今は片桐の歌を信じて、一人でも多くの人に届くようにと活動している中で、さまざまなチャレンジをすることができているのかなって思います。まだ模索している状態ではあるけど、自分たちのやりたいスタイルを貫くのと模索するところを同時にやらせてもらっているのは、環境的にはいいと思っていますね。

マツイ メジャーに行って変わったと言われるバンドさんも少なくないと思うし、Hakubiもそう思われているかもしれないけど、自分たち的には変わったのではなくアップデートしているだけだと思っています。確かにインディーの頃よりもメジャーの方がより多くの人へ届けてもらえる環境にはいますけど、その環境に満足せずより多くの人へ発信できたらいいなと思います。

――Hakubiの強みはどんなところにあると考えていますか?

片桐 歌詞を書いているのは私ですけど、実はすごくネガティブで暗い人間なんです。そういう暗い部分であったり、ネガティブなものだったりを吐き出すというのが自分の音楽の始まりで。でもだからこそリスナーの心の深いところまでちゃんと潜っていけると思っているし、前向きになってみようかなと思うタイミングでただ明るい曲を聴くより、深い闇を知ってるからこそ書ける曲を聴いたほうが共感してもらえるのかなと思います。

――確かに片桐さんの歌詞は人に寄り添う言葉が散りばめられていますよね。先ほどヤスカワさんは「片桐の歌を信じて」と発言されましたが、実際に片桐さんの歌をどう感じていますか?

ヤスカワ 片桐と出会ったのは20歳くらいでしたけど、当初から声や歌のスキルっていうのは周りにはないものを持っていました。やっぱりバンドで一番目立つのはボーカルやし、才能や見た目、元から持っているものも大事で、そういうものを兼ね備えていたボーカリストでした。

片桐 嬉しいっすね。

ヤスカワ いい曲を書くし、そこが評価されての今やと思うので、そこはお互いを信用して活動できているかなと思います。

マツイ そうやね。バンドの強みは歌。片桐は、会場の空気を歌で掌握できるんですよ。人を惹きつける力があると思います。

――ふたりにこう言われていますけど、片桐さんはふたりに対して感じていることは?

片桐 どうなんでしょう(笑)。でも私は岐阜の田舎出身で、京都出身のふたりに京都イズムというものは全て教えてもらいましたかね(笑)。京都でふたりに出会い、バンドの故郷、私の第二の故郷でもある京都に愛がありますし、人との関わりが苦手で絶対にバンドなんか組んで人とやることはできないと思っていた私を拾ってくれてありがとうございますという感じもあります。活動を始めて今年で6年目ですけど、こんなに長く続くと思ってなかったので。なんだかんだ、ふたりのことは信頼してると思います。

京都MUSEのトイレを改築してあげたい

――バンドの成長という点でいうと、Hakubiは『京都藝劇2023』というフェスを主催していて、今年からは規模が2ステージに拡大されましたよね。

マツイ そうですね。コロナ禍がなければもっと早く大きくできていたとも思うんですけど、状況に添いつつ、やっと今年やりたかったことの一歩目がようやく踏み出せたかなと思います。京都の先輩方が主催する『京都大作戦』、『ポルノ超特急』、『京都音楽博覧会』といったイベントに少しずつ近づけたのかなとも思いつつ、来年、再来年とさらにギアを入れていきたいなと思っています。

――今年は、京都の大先輩・ROTTENGRAFFTYが出演してくれました。

マツイ ROTTENGRAFFTYが出演してくれたことで、普段『ポルノ超特急』に行くお客さんが『京都藝劇』にも来場してくれたのは嬉しかったです。お客さんを見ているといつもは見ない客層も多くて、ホンマにバンドキッズみたいな人も多かった。でもそういう方も最後まで残ってくれたのが嬉しかったです。終演後の反響も大きくて、ROTTENGRAFFTYや10-FEETの下の世代にも同じソウルを持ったバンドがいるんやぞ!と届けられたのはデカいなと思います。

――やっぱりレペゼンじゃないけど、Hakubiにとって京都という存在は大きい?

片桐 そうですね。京都に出るまではネットでしか音楽を聴いてなかったし、ライブハウスに行ったのも数回。実際にライブハウスカルチャーに触れたのは京都に来てからでしたから。ライブハウスの楽しみ方、バンドとバンドのつながり、京都のバンドの歴史のすごさを知って、そこから自分の音楽人生が始まった。だからこそ、自分たちを育ててくれたライブハウスの京都MUSEに恩返しをしたいという気持ちは大きいです。

ヤスカワ 自分は地元やったから、そこまで京都に強い思いはないけど、京都MUSEのトイレは改築してあげたいなと思ってるんです(笑)。これは結構、冗談抜きで考えてて。だって、コロナ禍でライブハウス離れがあった中で、若い子がこれからライブハウスに来たいとなった時にトイレが古いと来ないと思うんですよ(笑)。

今どきキャンプ場でもウォシュレットがあるのに烏丸の一等地にあるライブハウスにないのはおかしい! そういう新しいお客さんやライブハウスの未来、音楽シーンの未来のためにも、MUSEのトイレを改築してあげたいなって。

片桐 まあ、そう思うのはROTTENGRAFFTYと10-FEETがMUSEのスピーカーを一個ずつ買ったという逸話があるからなんですけど(笑)。

ヤスカワ 還元していかなアカンな〜って思います。

マツイ 考えてみると京都発と謳っているバンドって意外と少ないなと思っていて。僕らも最初のライブが京都MUSEだったから京都発と言い始めたんですけど、やっぱり地元発を謳っているバンドってカッコいいと思うんですよ。

正直、京都発だと言わなくてもバンドはできたと思うけど、自分らが日本の各地でライブして、培ったものを年一のイベントで京都に還元するということは、先輩方の背中を見てきたからこそできたことだと思うし、自分たちもそれをやることで、京都にこれから誕生する若手のバンドの道標になれたらいいなというか、そういう流れが京都にずっと続けばいいなと思っていますね。

「バズる」ということからはいちばん遠い曲

――では、先日リリースされた『拝啓』についてですが、久々に音楽で涙しました。かなりセンシティブなテーマを題材にしたと思うし、思い出して制作することはとても辛いこともあったと思います。このタイミングでリリースしようと思ったのはなぜですか?

片桐 「この曲はどんな曲?」と聞かれたら、ありがとうを歌っている曲というよりは、後悔の曲なんです。Hakubiの今までの楽曲も負のエネルギーから生まれた曲を書いてきましたけど、それって、自分の中に蠢(うごめ)いているものを曲にして、音楽にして、言葉にして出すことが私の生きる方法だったから。

そういう点から、自分の言葉をちゃんと吐き出さないといけないということで今回も書き出しました。これは絶対1日で書き終えるぞって決意して、そこから1日ずっと泣きながら制作したのを覚えています。その後は脱力って感じ。

マツイ YouTubeにアップしたMVのコメント欄にはいろんな人が「こういう経験があったから、刺さりました」とコメントしていて。それを読むだけで泣けますね。ただ、実際めちゃくちゃいい歌だけど、ライブで2回やってみて気持ちが入りすぎて歌えへんのじゃないかと危惧していて。それはほんまに起きてしまって。

いい歌すぎて複雑というか、たくさん聴いてほしいけどたくさん聴いて欲しくない。毎日聴くような歌ではないと思うから、難しいです(笑)。「バズる」ということからはいちばん遠い曲かもしれないですね。

でも、自分はまだそういう経験がないけど、多分身近な人が亡くなった時にこの曲に助けられるということは分かっているので、手応えはありますよ。

――サウンドも曲の展開と共に心の動きを表現していて、そこも胸を揺さぶるんだけど、このサウンドは3人で話し合いながら構築していったんですか?

片桐 まず、最初はピアノでということは決まっていて。そこからバンドのサウンドをどう付帯していくかという流れで考えました。極力ミニマムでシンプルで、歌詞を聴いてもらえるようにとみんなで話し合って。特にドラムは本当に曲の邪魔をしない音になっているというか。

マツイ デモをもらって「打ち込んできて」となった時、ホンマにドラムが大きいと歌は聞こえないし、ドラムが動かないと歌も踊って聞こえへんということもあるので、そのせめぎ合いもありつつ、ミニマムに打ち込んでやっていきましたね。

――ヤスカワさんはどうでした? 

ヤスカワ この曲は絶対仕上げましょうという空気感が漂っていたし、すごくいい曲だなって自分も思ったので、みんなに乗っかる形でしたね。ベースも打ち込みで作ってて、ベースラインが動いているところは間奏が終わったところしかないんですけど、そこも抑揚をつけて。

そこからの歌詞が好きで、いろんな人に響く、グッと刺さる部分だと思うんです。だからそこでのベースの動きもダイナミクスをつけて。

――正直、ここまでミニマムでもHakubiらしさが全面に出ていたし、バンドとしてさらにアップデートできたのかなと思います。11月にはワンマンライブも控えています。

ヤスカワ いいライブになればいいと思います。Zeepではやったことがないので。

――やっぱり、Zeepでのワンマンって少し気合いの入り方も違う?

片桐 そうですね。ずっとやってみたいと思っていたし、なんばHatchも関西で言ったら、BIGCATの次に大きい場所。そういう風にステップアップしていきたいなと思っていたので、下駄を履かずにちゃんと頑張りたいなと思います。

マツイ コンセプトもこれから決めていくんですけど、昨年11月のホールワンマンではそれ用に似合う演出もしなきゃいけなかったのに対して、今回は大きいライブハウスなので、どんな方向にも持っていけると思います。

――楽しみですね。最後に今後の目標・展望を教えてください。

マツイ さっき片桐が言ったように、飛び級せずカッコイイバンドでいたいなと思いますね。地道にやっていって着実に1段ずつ階段を登っているバンドの在り方、カッコよさって昔も今も変わってないと思うので、カッコいいと思われるバンドで居続けて、年一で京都に還元できるバンドでいたいなと思います。

片桐 そうですね。諸先輩方を見てきて、歴史があるからこそ発する言葉は重たいし、イベントは温かいものになると思っていて。自分は、バンドは花火みたいに散ってほしいタイプだったんですけど、長く続けていってHakubiと共に成長していってくれるリスナーと一緒に成長できるバンドで居たいなと思いますし、夢を見せてあげたり、隣に居れるバンドでありたいなと思います。

ヤスカワ 僕は1曲ドーンとヒットを作りたいと思ってます。僕はホームランを打ちたいタイプなので、派手にホームランを打って、その曲だけで生きていきたい野望がありますけど。

片桐 それは嫌だ! その曲だけで、は嫌だよ!

ヤスカワ (笑)。ヒット曲を作って、いろんな人に認知してもらえるように頑張りたいです。

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■Hakubi 
片桐(ボーカル)、ヤスカワアル(ベース)、マツイユウキ(ドラム)からなる京都出身の3ピースバンド。片桐の胸を締め付けるような歌詞と力強い歌声が話題になり、2021年にメジャーデビュー。毎年京都KBSホールにて自主イベント「京都藝劇」を主催している。