日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 鬼才ウェス・アンダーソン監督の新作と、ダーク&ユニークなビジュアルが魅力のドイツ産ミステリー!

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『アステロイド・シティ』

評点:★3点(5点満点)

©2022 Pop. 87 Productions LLC ©2022 Pop. 87 Productions LLC

寓意もたっぷり、「素敵な動く絵本」の到達点

アメリカの砂漠、隕石による巨大なクレーター近くの小さな町「アステロイド・シティ」を舞台に、個性豊かな人間群像を描く舞台劇――の、TV版の放送――に、それぞれの舞台裏を挿入して描く――オフビートなコメディ「映画」、という、かなり複雑な構造を持つ作品だ。

それが、ウェス・アンダーソン監督独特の極めてスタイリッシュな、絵本を思わせるビジュアルで描かれる。ビジュアルの作り込みの徹底ぶりはすさまじく、観ていて思わずため息が漏れるほどである。完全に一貫した特異な映像スタイルを志向した作品は数多くあるが、本作のそれは疑いの余地なくトップクラスといえる。

芸達者を揃えたキャスト陣の芝居にも驚かされる――というのも、本作はそのスタイルゆえに役者の行動範囲がかなり限定されているのだが(それほど厳密な構図「しかない」のだ)、最小限の動きの中にそれぞれのキャラクターがしっかりと息づき、感情のやりとりがなされているのである。

素晴らしい画がぎゅっと詰まった絵本のような作品だが、その問いかけは重い。「この広大な宇宙の中で、人間存在に意味はあるのだろうか」? きっと、あるに違いないと本作を観た後では思えるはずだ。

STORY:1955年、アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティは隕石が落下してできた巨大クレーターが観光名所になっている。この街に招待された5人の少年少女とその家族たちの前に、突如として宇宙人が現れ、人々は大混乱に陥る。

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクスほか
上映時間:104分

全国公開中

『ヒンターラント』

評点:★3.5点(5点満点)

©FreibeuterFilm / Amour Fou Luxembourg 2021 ©FreibeuterFilm / Amour Fou Luxembourg 2021

ダークで陰鬱(いんうつ)、ムードたっぷりのユニークな作品

第一次大戦でソ連の捕虜となり、戦後解放されて故郷ウィーンに戻ってきた兵士たちが何者かの手によって次々と猟奇的に殺されていく。その謎を追うのは元・刑事で自らも復員兵の主人公。1920年代のウィーンを舞台にしたユニークな殺人ミステリーである。

だが何といっても目を惹(ひ)くのはそのビジュアルスタイルだ。本作はすべての場面がブルースクリーンで撮影され、背景は後から合成されているのだが、その背景の建物は歪(ゆが)み、遠近法もねじくれて、奇怪な世界観が全編を覆っている。

これは物語の時代設定と同じ1920年代に一世を風靡(ふうび)したドイツ表現主義映画の手法を取り入れているからだ(表現主義映画の代表作には1920年の『カリガリ博士』や1922年の『吸血鬼ノスフェラトゥ』などがある)。

ただ、本作は表現主義的な独特のビジュアルによって「背景が合成されている」ことがすぐ分かるが、スーパーヒーロー映画を始め現代の多くの作品がその実、同じような手法で作られていることは意識する必要がある――その嚆矢となったのは『スター・ウォーズ』のプリクエルだった。ビジュアルと内容は良くマッチしている。

ダークで陰鬱な、ムードたっぷりの個性的な一本だ。

STORY:第1次世界大戦後、捕虜生活から解放された元刑事ペーターと戦友たちは、変わり果てた敗戦国の祖国に呆然とする。行き場を失ったペーターだが、拷問の跡がある戦友の遺体が見つかり、犯人は同じ復員兵と目星をつけ、調査を始める。

監督:ステファン・ルツォヴィツキー
出演:ムラタン・ムスル、リヴ・リサ・フリースほか
上映時間:99分

新宿武蔵野館ほか全国順次公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru