『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス24巻を熱く語る『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス24巻を熱く語る

新シリーズ「キン肉星王位争奪編」のプロローグともいえる趣(おもむき)の内容だった前巻に続くこの巻から、団体戦が本格化。苦難続きのキン肉マン・チームに最強の助っ人も現れます!

●『キン肉マン』25巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●最優先で倒すべきは火事場のクソ力!?

まずは、前巻から猛威を振るい続けるミスター・VTRとキン肉マンの闘い。キン肉マンは初戦のホークマンに続く連戦で体力的に厳しい上、相手は無敵とも思えるギミックまみれの超強敵です。

しかし、それでも今のキン肉マンの強さは並じゃない! 懐かしの新(ネオ)キン肉バスターからの超人絞殺刑で、最終的には勝利を決めてくれました。決してキン肉ドライバーだけに頼らない、この渋めの技の選択も、ずっと彼の成長を見てきたファンにはたまらないものがあったでしょう。

こうしてキン肉マンは苦しいながらも順当にふたり抜きを達成。いくら度重なる連戦で体力を削られようとも、やはり誰にもキン肉マンの不敗神話を止めることなどできやしない。まさに予定調和ともいえる連勝。このままでは、波乱は起きない......。

ここに至って、いよいよこの作品の真の神=ゆでたまご先生が送り出した究極の刺客がミキサー大帝という新超人でした。とはいえ、単に強いだけではもはやキン肉マンへの刺客にはなりえません。その肝となるギミックこそが、彼の胴体の巨大ミキサーに内蔵された"パワー分離"という驚愕の秘密機能でありました。

そもそも、なぜキン肉マンは負けないか。それは"火事場のクソ力"という主人公補正ともいうべき絶対的な底力を備えているからです。じゃあ、これを奪ってしまおうという発想。つまるところミキサー大帝とは、キン肉マン本体の打倒ではなく、その勝利に不可欠な"火事場のクソ力"を打倒するために用意された刺客だったということです。

こうして、主人公が主人公として振る舞う自由すら奪い取ってしまったゆでたまご先生。しかしここまでやってもまだ、キン肉マンは簡単に負けてくれません。いったん消滅したかと思われた彼の肉体は、この巻で初公開となる超人墓場を経由して試合中に戦線復帰。その余勢をかってミキサー大帝に逆転のキン肉ドライバーを決めにいきかけます。

ところがここで活躍するのが、先ほど敗れたミスター・VTR。現実にまで影響を及ぼす究極のチート技「動画編集機能」でキン肉マンの勝利の決定的シーンをカット。これによりキン肉マンの勝利は取り消され、ミキサー大帝の大逆転が成立。キン肉マンは3戦目にしてとうとう敗れたのでありました。

普通に考えて、とても汚いやり口です。しかし僕は、この一連の流れで彼らがキン肉マンの勝利を止めたことに、並々ならぬ熱さも同時に感じました。なぜかというと、この結果はマリポーサ・チームの仕掛けた"団体戦"の勝利、チームワークの結実でもあったと思うからです。

●試合ごとにつなぐバトンそれが団体戦の妙!

思い起こせば初戦、敗れた先鋒ホークマンは様々な攻撃を仕掛けてキン肉マンのあらゆる動きを試合中に引き出し、それを次鋒のミスター・VTRがつぶさに録画、次の試合を有利に進めることができました。それでも彼は敗れましたが、次の中堅ミキサー大帝の試合、最大のピンチでミスター・VTRは温存しておいた最後のギミック「動画編集能力」を駆使。力尽きそのままリングサイドで息絶えたものの、その犠牲心はミキサー大帝によるキン肉マン打倒という大偉業として結実。実に彼らは周到にバトンをつなぎ、まさにチームとして絶対的な主人公の打倒に成功。これは敵ながら熱すぎます!

しかしその一方で、団体戦を行なっていたのは彼らだけではありませんでした。なぜなら、キン肉マンも敗れながらミキサー大帝のネジを一本抜き取ることで、次のミートの闘いの勝機を呼び込んでいたのですから、これまた熱い!

そんな両軍の闘いぶりに、この「キン肉星王位争奪編」はチームとして闘っていくシリーズなんだ、と僕はここまで来てようやく大いに意識させられたのでした。

そしてそこに続く試合は、この巻最大のトピックとも言えるミートの実戦登場です。ミキサー大帝に向かっていく扉絵を見た時の感想は、僕自身も劇中の観客とまるで同じ「本当にやるの?」でした。正直、途中でロビンやテリーが駆けつけてくれて、ミートは闘わずに済むんじゃないのかと。

しかし違いました。ミートは最後までしっかりと数々の見せ場を作りながら闘い抜き、勝利まで収めたのです。最後のキン肉マンへの敬意も含んだバックドロップを見て、僕は涙を禁じえませんでした。彼のようないわゆるマスコットキャラ、非戦闘員が主人公を差し置いて闘いに出るというエピソードは他作品でも時々あります。

しかしこう言っては悪いのですが、たいていそういう時って早く主人公の話に戻してくれよっていうのが読者側の本音であることが多いでしょう。でもこのミートの試合に関しては一切、そういう感情がわいてこないまま活躍を描き切った。これもまたゆでたまご先生の見せ方のうまさだと思いました。

そして、ここまでやりきったところでとうとう、それまで封印していた仲間の参戦がキン肉マン・チームにも解放されます。その第一陣がテリーマンとロビンマスク。まさに初期から友情の中心にいたこのふたりが最初に駆けつけてくれた点もグッと来ます。

そして早速、戦線復帰のテリーマンと闘うのは相手の副将キング・ザ・100トン。よく考えてください。100トンです。あのサンシャインでも1トンなのに、これは強い。リングの下に彼しか使いようのない巨大シーソーを仕掛けるなど、マリポーサの期待の高さも伺えますが、それでもテリーマンがなんとか撃破。やはり頼りになる男です!

しかし、そこでテリーマンもリタイア。残るマリポーサと闘えるのはロビンマスクしかいません。しかし相手のボスをキン肉マン以外が倒す、という前例は当時の『キン肉マン』にはまだありませんでした。果たしてこの闘い、本当にロビンは勝てるのか?

これまでで最も勝敗の読めない大将戦、ロビンマスクVSマリポーサ戦に突入したところで、闘いは次巻へと続いていきます。

キン肉マン4コマ

●こんな見どころにも注目!

壮絶な死に際を迎えたキング・ザ・100トンのこのセリフ。ここで僕が注目したいのは、その忠誠心の高さです。思えば彼に限らず、ホークマン、ミスター・VTR、ミキサー大帝とこのチームのメンバーは誰ひとり、どんな目に遭おうと、大将マリポーサに恨みごとのひとつも口にすることはありませんでした。闘いでは汚い手もたくさん使いましたが、ことチームワークという点に絞ればなんという美しい集団でありましょうか。昨今の連載での所作も含め、マリポーサという男の魅力に僕もゾッコンです!

『キン肉マン』83巻、「キン肉マンの日」の9月29日(金)に発売!!!!!