「キングオブコント2019」準優勝などコントに定評のあるお笑いコンビ、うるとらブギーズの八木崇 「キングオブコント2019」準優勝などコントに定評のあるお笑いコンビ、うるとらブギーズの八木崇

音楽再生といえばYouTubeやストリーミングサービスが全盛の昨今だが、レコードブームが来ているという話も聞いたことがあるのではなかろうか? 事実、2014年ごろからアナログレコードの売上は増え始め、昨年の総売上は43億円を突破。アメリカではCD以上の売上を記録している。また世界中で日本の「シティポップ」の人気が高まり、中古レコードを求めて来日する外国人も増えているという。

今回は、芸人界屈指のアナログレコード好きで、所持レコードは2000枚以上。高校時代から20年以上にもわたり趣味でDJもしているというお笑いコンビ、うるとらブギーズの八木崇に、レコードの魅力について語ってもらった。

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レコードとの出会いは、うどん店!?

――そもそも八木さんが、レコードで音楽を聴き始めたのはいつからですか?

八木 熊本の実家近くに、うどん屋さんがあって、高校1年生の時にアルバイトを始めたんですけど、そこの店長がDJをやってたんですよね。店長が通販で買ったレコードがうどん屋に届くんですよ。それで「これ何ですか?」って聞いて。

店自体は鯉が泳いでる小さな庭があるような店だから、本来は琴の音楽が流れてるんですけど、夜は店長がターンテーブルを出してきてヒップホップを流しながら片付けをする。そんなお店だったんです(笑)。店長はもともとダンサーもやっていて、ヒップホップカルチャーに詳しくて。

それでレコードにハマってしまい、そのうどん屋のアルバイト代を全部つぎ込んでレコードとプレーヤーを買いました(笑)。

――高校生にしては大金だったのでは?

八木 はい、12~3万円しましたね(笑)。でも僕が買ったTechnics(テクニクス)のDJ用のプレーヤーは、耐久性がしっかりしてるからずっと壊れなくて、今でもずっとそれを使ってるんです。そう考えると安い買い物ですよね。

スピーカーは、本当はダメなんですけど、実家の近所に捨ててあった両手で抱えきれないくらい大きいものを4発、拾ってきて(笑)。それを修理して、自分の部屋に設置してました。そういう意味では、純粋なレコード好きの方に怒られちゃうかもしれないです。

――レコードにハマる以前にCDは買ってましたか?

八木 中学のころから、globeとかGLAYとか、当時流行ってたJ-POPのシングルCDは買ってました。でも、その店長さんと出会って、聴く音楽のジャンルも音楽の聴き方自体もガラッと変わりましたね。

ただ、当時は『今夜はブギー・バック』とか、EAST END×YURIの『‎DA.YO.NE』とかも流行ってたし、ウチは姉がダンスをやってたりもしたので、ヒップホップカルチャーにハマる土壌はあったんだと思います。

――今レコードの再評価が進んでいますが、レコードにしかない魅力とは何だと思いますか?

八木 やっぱりCDの方が音はクリアーなんですけど、レコードにはレコードにしかない、ちょっと温かくて柔らかくて、丸みを帯びたような音が出るんですよね。それにCD以上に立体的に音が聴こえる。それはCDより録音できる音域が広いっていうことと関係あるのかもしれないですね。

――八木さんは高校生の頃から、その温かみや柔らかさを感じて、いいなと思っていた?

八木 いや、最初はそこまで分からなかったです。当時からDJ用のプレーヤーでレコードを聴いていたので、ちょっと触ってスクラッチできるとか、この曲は次にこの曲に繋げるとか、そういうところが面白くていいなと思ってました。

それでCDを全く買わなくなって、大人になって久しぶりに聴いたCDの音がすごいクリアーだったんです。でも何か物足りなくて、「あれ? レコードと全然違うな?」って感じて。その時に、レコードの音の良さが分かるようになったんですよね。

レコードの音がクリアーじゃないかというと決してそういうわけではないんですが、針を落とすとボツボツってノイズがして、人によってはそれが雑味に感じられるかもしれないけど、同時に温かさあって、その場で演奏しているような音がするんです。


「機材にもいろいろあって、こだわり始めるとキリがないんです。レコード針にもポップス向きとかロック向きとか種類が豊富にあって、僕は主に低音がよく出るものを使っていて、そうやって自分好みの音にできるところがいいですね」 「機材にもいろいろあって、こだわり始めるとキリがないんです。レコード針にもポップス向きとかロック向きとか種類が豊富にあって、僕は主に低音がよく出るものを使っていて、そうやって自分好みの音にできるところがいいですね」

DJは「遊☆戯☆王」だ!

――今レコードは何枚ぐらいお持ちなんですか?

八木 実家に1000枚、自宅に1000枚ぐらいですね。ヒップホップが多いんですけど、R&Bとかソウル、ブラックミュージックなんかも多いですね。特に好きなのは、フージーズとか、そのボーカリストだったローリン・ヒル。あとはアイザック・ヘイズっていう鍵盤奏者。それもいろんなヒップホップアーティストにサンプリングされているので知ったんですけど、ヒップホップは、元ネタからソウルとかジャズとか、いろんなジャンルに派生して知れるのが楽しいんです。

――ご自宅ではレコードをどう楽しんでますか?

八木 黙々と聴くこともあるし、一人で踊ってみたり、曲を繋げてみたり、全部一人で楽しんでますね。うどん屋さんの店長さんに教えてもらってからは、一緒にクラブに連れて行ってもらって、そこでDJとしてレコードを回したりもしてたし、高校の文化祭でもDJをやって。みんなコピーバンドを観に行っちゃって誰も来なかったですけどね(笑)。

コロナ前まではちょこちょこ人前でもDJをやってて、「ゆんぼだんぷ」という芸人のカシューナッツくんが、「タイムスリップB-BOYゴウ」という名前で活動もしてるんですけど、よく彼に誘ってもらって一緒にやってました。でもね、どっちも芸人とは別の名義でやってて、特に告知とかもしないですから、誰も来ないんです。本当に趣味でやってました(笑)。

――DJの魅力は?

八木 今はパソコンとかアプリでも簡単にできるし、「DJってラジオのDJと何が違うの?」とか「スクラッチしまくるんでしょ?」とかそういうイメージが強い人もいると思うんです。でも、曲と曲をスムーズに繋げられた時ってめちゃくちゃ楽しいんですよ。

やったことないのにあえて例えると、「遊☆戯☆王」みたいなトレーディングカードゲームと一緒だと思います(笑)。このカードと一緒にこのカードも出すとめっちゃいい効果がある、みたいな。レコードも一緒で、いいレコードが1枚あるとそれに合うもう1枚を探したくなる。それを繋げてかけて楽しむ、みたいなことですね。

ちなみにDJ以外ではスケボーも好きな八木。「スケボーがオリンピック競技になったり、レコードもブームになったり、ある意味で時代を先取りしてたかもしれないですね。でも意外とどっちもモテない趣味なんだよなあ......」 ちなみにDJ以外ではスケボーも好きな八木。「スケボーがオリンピック競技になったり、レコードもブームになったり、ある意味で時代を先取りしてたかもしれないですね。でも意外とどっちもモテない趣味なんだよなあ......」

あのレコードの温かみをもっと多くの人に知ってもらいたい

――レコードショップはどういったところに行かれてますか。

八木 やっぱり渋谷が多いですね。20歳ぐらいで東京に出て来て、それからはレコード屋さんがたくさんあった宇田川町に通ってました。一時期はお店もどんどん減っていったけど、このレコードブームでまた最近増え始めてきて。それこそタワーレコードやHMVにもレコードコーナーが復活しましたし。でも、なんだかんだ言って一番利用する機会が多いのはディスクユニオンですね。

――それじゃあ、ヨシモト∞ホール(渋谷)に出演する時なんかは楽しみがありますね。

八木 めっちゃ楽しみなんですけど、イジられるから嫌なんですよね(笑)。楽屋に入ると、やさしいズとかネルソンズとかが「あれ、またレコードなんか持って、ちょっとカッコつけてない?」ってイジってくるんです。後輩なのに、僕らが怒らないから結構ナメられてて(笑)。

ディスクユニオンは渋谷の他にも、下北や新宿にもよく行きます。やっぱり一番レコードの入れ替わりが激しいし、SNSでフォローしてると新入荷の情報がどんどん流れてきて、ついつい取り置きを頼んじゃう。で、後日それを取りに行くついでに、また違うレコードを買ってしまう。これが日課ですね。

――なかなかのレコード好きなのが伝わってきます。

八木 今は海外の方もたくさんレコード屋に来ていて、音楽をモノとして持っておきたい気持ちはみんなあるんでしょうね。ジャケットが大きいからインテリアとしてもかっこいいですし、レコードにはついついコレクションしたくなる魔力があります。

高校生の頃は、それこそ300円とかの安いものを買い漁ってて。今でもそういう安いものも買いますけど、大人になってちょっとだけお金もいただけるようになったので、当時買えなかったものを買いたいっていう気持ちもあって、中には70年代のソウルの名盤とかで5~6万円しちゃうものを買うこともあります(笑)。でもそれよりも、やっぱり誰も知らないようなレコードを買ってきて、みんなの前でかけて「これ何?」って言われるのが嬉しいんですよね。

「知らないアーティストだけど安いから試聴してみよう」とか、「好きなヒップホップの曲でサンプリングされてる元ネタだから買おう」とか。「このレーベルなら間違いない」とか、「フィーチャリングしてる人がアツい」とか、ジャケ買いみたいなことも多いし、とにかくレコードを買うって楽しいことなんですよ。

でも、ひとつだけ問題があって、やっぱりレコードをたくさん買うと奥さんがいい顔しないんです(笑)。コレクターあるあるだと思うんですけど、家に帰ってきたら奥さんにバレないように、レコードショップの袋をカシャカシャ鳴らさずに、そーっとバッグから出してしまうっていうのを毎回やってます(笑)。レコードは場所も取るし、奥さんにイヤな顔もされるんですけど、でもそれ以上の楽しさがあるんですよ。

――八木さんが今注目している音楽ジャンルは?

八木 高校生でヒップホップに目覚めてから、日本の音楽をあまり聴いてこなかったので、今の日本の音楽をもっと勉強したいと思っていますね。もともと山下達郎さんなどのレコードを持ってはいたんですけど、最近シティポップが大ブームなので、いろいろ再発されたものにも手を出してますし、その系譜を受け継ぐような若いアーティスト、例えば先日YouTubeでも紹介した佐藤千亜妃さんみたいなアーティストにも注目しています。

――そのYouTubeチャンネル「Yaggy-tチャンネル」では、様々なジャンルのレコードを好きなアイスを食べながら一緒に紹介するという、面白い試みをされています。

八木 でも権利的に曲そのものは流せないので、自分でフレーズを口ずさんで解説するっていう苦肉の策をとってますけどね(笑)。こがけん(おいでやすこが)さんに「アレなんで自分で歌ってるんだよ! しかもアイス食いながら!」って言われましたけど(笑)。でも、「この曲のここがいい!」っていうのを誰かと共感したくて、好きなアイスを食べながら好きな音楽の良いところを語る。高校生からずっと変わらない男の楽しみですね。

――これからレコードの世界に入りたい人はどうすればいいですか?

八木 まずはレコードショップに行って、お気に入りのレコードを1枚見つけてみましょう。知ってるアーティストを探してみてもいいし、知らなくても試聴もできるし、ジャケットで決めるのもいいと思います。

何がいいか分からない時は、ちょっとエッチな女の人のジャケがオススメです(笑)。例えばヒップホップならブリンブリンの女の人のが絶対あって、そういうのって意外といい音楽が多いんですよ。

あとはTechnicsのプレーヤーとスピーカーを買う(笑)。好みによりますけど、僕みたいにDJみたいなことをしたい人は、ちょっと値は張りますけど、それ用のプレーヤーは本当に耐久性があって一生モノなのでオススメします。それでちょっとこすってみたりしたら、それでもう立派なDJです。

練習してクラブデビューするのもいいし、ミックステープを作って彼女とドライブの時にかけるとかでもいいじゃないですか。レコードを聴きながら僕みたいにアイスを食べたり、コーヒーやお酒をたしなむでもいいし。今はPCでやろうと思えばできちゃいますけど、それをアナログでやるのがいいんですよね。あのレコードの温かみをもっと多くの人に知ってもらいたいですね。

「とっておきの1枚を」とのリクエストでお持ちいただいたエディ・ケンドリックスのベスト盤。「うどん屋の店長から20歳の誕生日にプレゼントしてもらいました。DJはこういう文化があるからカッコいいんですよ」 「とっておきの1枚を」とのリクエストでお持ちいただいたエディ・ケンドリックスのベスト盤。「うどん屋の店長から20歳の誕生日にプレゼントしてもらいました。DJはこういう文化があるからカッコいいんですよ」

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■八木 崇(やぎたかし) 
吉本興業所属のお笑いコンビ、うるとらブギーズの主にボケ担当。熊本県出身。NSC東京校10期生で、同期の佐々木崇博と2009年に結成。コントも漫才もこなし、コントでは「キングオブコント2019」準優勝。「同2020」「2021」でも決勝進出を果たしている。レコードとアイスクリームをこよなく愛し、オススメのアイスと曲を紹介するYouTubeチャンネル「Yaggy-tチャンネル」を8月に開設。 

X(Twitter):https://twitter.com/UB_yagi 
YouTube Yaggy-tチャンネル:https://www.youtube.com/@user-dt9xc2hp2z 

酒井優考

酒井優考さかい・まさたか

週刊少年ジャンプのライター、音楽ナタリーの記者、タワーレコード「bounce」「TOWER PLUS」「Mikiki」の編集者などを経て、現在はフリーのライター・編集者。

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