日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 全米で大人気の『ミュータント・タートルズ』の新作と、「クマがコカインを大量摂取」の実話を基にしたブラックコメディ!

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『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』

評点:★4.5点(5点満点)

©2023 PARAMOUNT PICTURES.TEENAGE MUTANT NINJA TURTLES IS A TRADEMARK OF VIACOM INTERNATIONAL INC. ©2023 PARAMOUNT PICTURES.TEENAGE MUTANT NINJA TURTLES IS A TRADEMARK OF VIACOM INTERNATIONAL INC.

テーマとビジュアルが見事に合致したミュータント映画

『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』はもともと1984年にケヴィン・イーストマンとピーター・レアードが自分たちで作った小さな会社(設立資金の一部はイーストマンの叔父さんに借りた)から出版したアンダーグラウンド・コミックだが、人気を博しアニメや映画、フィギュアなどを通じてポップカルチャーのアイコンのひとつとなった。

本作でまず目を惹ひくのは「デフォルメの強いイラストレーションが動いているかのような」ロウブロウ・アート感あふれる見事なビジュアルで、『スパイダーバース』シリーズと並び、デジタルアニメ表現が爛熟(らんじゅく)期に入ったことを感じさせる。

また「見た目の特殊さ(だけ)のせいで人間に忌(い)み嫌われるミュータント」という、『フランケンシュタイン』(1931年)の伝統に則(のっと)ったアンチ・ヒーロー像を中心に据えているのも良い。

デフォルメの強い絵柄もそのまま、ルッキズムに支配された世界――あるいはほとんどのスーパーヒーロー映画――に対するアンチテーゼとしての本作の本質を強化するものとして見事に機能している。

タートルズ全員の「ティーンエイジャーらしさ」も素晴らしく、心打たれる一本となった。

STORY:不思議な液体「ミュータンジェン」に触れ、ミュータント化した4匹のカメ。彼らはカメ忍者として身を潜めて生活している。ある日、彼らの前に人間社会の支配を狙うハエのスーパーフライを筆頭にしたミュータント軍団が現れた!

監督:ジェフ・ロウ
声の出演:シャモン・ブラウン・Jr、ニコラス・カントゥ、ブレイディ・ヌーン 
上映時間:100分

全国公開中

『コカイン・ベア』

評点:★3.5点(5点満点)

©2022 UNIVERSAL STUDIOS. ©2022 UNIVERSAL STUDIOS.

コカインでハイになったクマが殺しまくる!

コカインは世界的にわりとポピュラーなドラッグで、といっても覚醒剤ほどではないのだが、たとえばアメリカでは人口の約3%の人に使用経験があるとされる。日本は0.03%。つまりアメリカでは人口比も加味すると300倍の人にコカインの経験がある(ただコカインはほとんどの国で違法なので、World Population Reviewによるこの統計は推定値)。

本作は1985年に実際に起きた事件――重量オーバーのため密輸業者がセスナ機からやむなく投下したコカインを野生のアメリカグマが過剰摂取して死亡した――をもとにしたブラックコメディで、超ハイになったクマが森の中で人間を次々と食い散らかす。構造としては一種のスラッシャー映画でゴア描写も大いに楽しめる。

アメリカ映画にはドラッグ描写が多くみられるが、昨今はたとえばサイケデリック描写を「あるある」ネタとしてコメディ的に描く映画も多く(例:『21ジャンプストリート』)、本作もその意味で「コカインあるある映画、ただしクマ」というところが本国ではツボなのだろう。

「ダメ。ゼッタイ」の国に暮らす我々がその感覚をまるで理解できないのは言うまでもなく大変素晴らしいことである。

STORY:1985年の米ジョージア州。セスナで麻薬輸送中の密輸人が事故で死亡。大量のコカインが森に投下される。そしてその後、人間に襲いかかるクマの姿が。それはコカイン大量摂取でキマってしまった「コカイン・ベア」だった!

監督:エリザベス・バンクス
出演:ケリー・ラッセル、マーゴ・マーティンデイル、レイ・リオッタほか 
上映時間:95分

全国順次公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru