日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 名優デンゼル・ワシントンのハマリ役!「イコライザー」シリーズ第3弾とオペラの名曲「ラ・ボエーム」を大胆アレンジしたミュージカル映画!
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『イコライザー THE FINAL』
評点:★2.5点(5点満点)
殺人マシンが誰も彼もを瞬殺
デンゼル・ワシントンが凄腕の元・特殊工作員を演じる『イコライザー』シリーズの最新作だが、殺しであれ格闘であれ、主人公があまりにも凄腕すぎるため、だんだん敵が気の毒に思えてくるところが面白い。
今回の敵はイタリアのマフィア組織(といってもチンピラの寄せ集めのように見える)だが、殺人マシンと化したデンゼル・ワシントンの前に彼らの命など風前の灯火(ともしび)であり、誰も彼もが瞬殺されてしまう。
そのため、それが意図的なものかどうかは別として、本作は「殺人マシンに誰も彼もが無惨に殺されるところが見せ場」という、一種スラッシャー映画的な快楽をもたらすものとなっている。
物語はオーソドックスな西部劇を彷彿(ほうふつ)とさせるもので、ひょんなことから町にやってきた流れ者が、住民をおびやかす荒くれ者をやっつけるというシンプルな構成だ。
しかし、舞台がイタリアだからなのか、音楽や演出が時折『ゴッドファーザー』的な重厚感を目指そうとしているのがちぐはぐな感じをもたらしている。そういう「重厚感」に見合うだけのキャラクターや人間関係があるわけではないので、ジャンル的に振り切った方が面白みが増したのではないかと思う。
STORY:元CIAの凄腕工作員、マッコールが世の悪をしばき倒すシリーズ第3弾。心身共に限界が来ていたマッコールを癒やしたのは、イタリア・アマルフィ海岸沿いの静かな田舎町だった。しかし、この町にも魔の手が迫り......。
監督:アントワーン・フークア
出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、デヴィッド・デンマンほか
上映時間:109分
全国公開中
『ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌』
評点:★1点(5点満点)
映像を撮って編集したら「映画」になるわけではない
メディアの違い、というのは表現手法そのものが異なるということなので、小説や舞台劇をそのまま「映画」にすることは不可能だし、その逆もまた然(しか)りである。そんなことは言うまでもないことだ。
本作は監督レイン・レトマーが2014年に演出した舞台劇『ラ・ボエーム』を「映画化」したもので、舞台は現代のニューヨークに、また配役のほとんどはアジア系を中心とした非・白人キャストになっている。
舞台劇でそういうアレンジはよくあることではあるが、いずれにせよブルックリンの倉庫街にある「ロフトオペラ」で上演された舞台版は好評を博したという。だが、役者たちを街に連れ出しアリアを歌わせ、それをカメラで撮って編集したら「映画」になるかといえばそんなことは決してない。
本作は「なんとなく映像を撮影してなんとなく編集したら『映画』になるはず」という、とんでもない勘違いに基づいており、その結果、「オペラ」に対しても「映画」に対しても失礼としか言いようのない、訳の分からない代物が出来上がってしまった。
一見してそれと分かる超低予算現場で苦労はあっただろうが、完成した「映画」がこれではプッチーニも浮かばれないというものである。
STORY:ニューヨークの屋根裏部屋で暮らす芸術家たち。そのひとり詩人ロドルフォは隣人のミミと恋に落ちる。名オペラ『ラ・ボエーム』を19世紀のパリから現代のニューヨークへ移し、メインキャラにアジア人を据えたミュージカル映画。
監督:エリザベス・バンクス
出演:ケリー・ラッセル、マーゴ・マーティンデイル、レイ・リオッタほか
上映時間:95分
全国順次公開中
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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