『月刊 あにお天湯』(撮影/松岡一哲)より 『月刊 あにお天湯』(撮影/松岡一哲)より
2023年8月30日に発売された写真集『月刊 あにお天湯』(講談社)。発売の1ヶ月以上前にもかかわらず、6月26日にAmazonでの予約が始まると、数々の人気アイドルたちの写真集を抑え、瞬く間にランキング1位を獲得した話題作だ。

初披露のヌード。ピンクに染められた脇毛。自然の流れで現れるそれらは、"衝撃的"というより"ピュア"だ。レトロな洋館や畳の部屋で、やさしい光に照らされる柔肌。ページをめくるたびに広がる自由性。何度も癒しを求めてしまうほど、彼女の素直な思いが一冊の中にまどろんでいて、読めば読むほどホッとしてしまう。

「あにおちゃんのヌードを見て"勇気"をもらった」。SNS上で確認できるだけでも、本作に対する感想は肯定的なものばかりだ。それは、彼女のピュアな姿を見た多くの読者が、彼女の生き方・表現に共感し、自由に自分らしくいることの素晴らしさにときめいた証拠ではないだろうか。あにお天湯が、被写体として裸になって伝えたかったこととは。撮影を担当した写真家の松岡一哲とともに、写真集が持つ新しい可能性について考えてみた。

■いまだに夢を見ている気分

――Amazonでの予約開始と同日に発売された『週刊プレイボーイ28号』に本作のアザーカットが掲載。SNSで反応を見ていると「あにおちゃんのヌードを見て"勇気"をもらった」というポジティブなコメントが溢れていました。

あにお天湯(以下、あにお) ヌード、派手髪、ピンクの脇毛......。王道グラビアから逸れたビジュアルをたくさん披露してしまったので、少なからずネガティブな意見も飛んでくると思っていましたが、圧倒的にうれしい感想が多くビックリしました。みなさんに、私が表現したかったことが伝わったんだと思うと、こうしてカタチにできて本当に良かったです。

――しかも、予約開始以降Amazonの写真集ランキングでは連日1位を記録! ヌード写真集としては異例の結果となりました。

あにお そもそも最初は、昨年の6月末に事務所を退所したタイミングで、個人的にZINEを作るつもりだったんです。予算も何もなかったけど、せっかくなら憧れの写真家である松岡一哲さんに写真を撮ってもらいたいなぁと、ダメもとでオファーさせていただいたのが始まり。正直なところ、私が思う"良いもの"をカタチにしたい気持ちだけで動いていたので、売れるかどうかは全く考えていませんでした。

ただ、次第に協力してくださる方が増えるにつれて、そうも言っていられなくなったというか。一哲さんはじめ、いろんな方が力を貸してくださったおかげで、『月刊』シリーズとして講談社さんから出させていただくことになったんです。結果でお返ししないと、ただの自己満足で終わってしまう......。予約が始まってからは「私にできることは全部やらなきゃ」と、とにかく必死でしたよ。

ちゃんと結果に繋がって、ポジティブなコメントもたくさんいただけて。思いのほか、全てが良い方向に進んでいます。うれしいですね。いまだに夢を見ているような気分ですよ。

『月刊 あにお天湯』(撮影/松岡一哲)より 『月刊 あにお天湯』(撮影/松岡一哲)より
――松岡さんにもお話をお聞きできればと思います。あにおさんからオファーがあったとき、率直にどう思いました?

松岡一哲(以下、松岡) 素直にうれしかったです。あにおちゃんとは、前に一度、週プレの撮り下ろしでご一緒していて(2021年2月1日発売『週刊プレイボーイ7号』掲載/デジタル写真集『新成人。』に収録)。機会があれば、是非また撮らせてもらいたいと思っていたんですよね。

あにお ありがとうございます。ずうずうしいお願いだと分かってはいましたが、私としては、一哲さんにお願いする以外の選択肢はなかったんです。何度も文面を読み直して、失礼がないよう依頼のメッセージを送らせてもらったら、すぐにお返事をいただいて......。

松岡 早速、テスト撮影をしたんですよね。その時点では写真集になることも何も決まっていなかったけど、僕なりに手応えはありました。何となく、満足のいく作品に仕上がりそうな予感がしたのを覚えています。

あにお う、うれしいです。どういうところで手応えを感じてくださったんですか?

『月刊 あにお天湯』(撮影/松岡一哲)より 『月刊 あにお天湯』(撮影/松岡一哲)より
松岡 例えば、この虹色の傘をさして通りを歩いているカット。テスト撮影時の移動中、不意に撮れた一枚だけど、僕自身、本作でいちばんと言って良いほどお気に入りなんですよ。

あにお そういえば、インスタグラムにも載せてくださっていましたね!

松岡 そうそう(笑)。周りには普通に歩いている通行人がいて、雨が降っているわけでもないのにカラフルな傘をさしていて。あにおちゃんだけが浮いてもおかしくないシチュエーションにもかかわらず、絶妙な馴染み方で、スゴく絵になっているんですよね。

あにお このとき着ている水色のワンピースは、完全に私の私服です。このときは、こんなふうに写真集が完成するなんて想像もしていなかったんだよなぁ(しみじみ)。

松岡 このカットで、改めて、あにおちゃんの被写体としての強さを感じました。ご連絡をいただいたときから、あにおちゃんの中で表現したい"何か"があることは感じていましたが、このテスト撮影を経て、あにおちゃんなら、きっと写真を通して新しい価値観や美意識を提示してくれそうだと直感しました。

どうカタチになるかは分からなかったけど、あにおちゃんの表現に全力で向き合おうと、本格的な撮影に向けて、より気持ちが入りました。


■一哲さんの写真はお砂糖みたいに甘くてやさしい

――あにおさんにとって松岡さんは憧れの写真家とのことですが、具体的にどんなところに惹かれているんですか?

あにお 一哲さんの写真って、どれを見ても、甘くてやさしいお砂糖でコーティングされているみたいだと思うんです。その雰囲気が大好き。上京したばかりの頃、あのちゃんの写真集や『purple matter』(テルメブックス)という外国の女のコを撮影した写真集など、古いものから新しいものまで、一哲さんの作品をいろいろ見させていただく機会があって、もう全部が良すぎて......。

松岡 ありがとう(笑)。お、お砂糖......?

あにお は、はい。何だか、お砂糖みたいだなって......。それから一哲さんの写真に憧れて、「BIGになったら、絶対にいつか撮ってもらうぞ」「一哲さんに撮ってもらえたら死んでも良い」と周りに公言するなど、この活動のゴールとして目標にさせてもらっていたんですけど......。

松岡 週プレの撮り下ろしで早速叶っちゃったと(笑)。

あにお そうなんです。「えっ、早くね!?」って(笑)。夢のまた夢だと思っていたのに、あっさり叶っちゃったものだから、逆に戸惑いましたね。

松岡 (笑)。

あにお ただ、週プレの撮影のときは慌ただしさと人見知りでろくに話ができなかったし、そもそも自分の力で達成したことじゃない。ここを起点に、またご一緒できるよう頑張ろうと思っていたら、まさか今度は、初めての紙の写真集で撮っていただくことになるなんて......


――あにおさんの気持ちがそうさせているのか、一哲さんとのご縁を感じる話ですね。実際に撮影をご一緒した感想は?

あにお うーん。撮られているときの記憶があまりなくて。あがった写真を見たときに、初めて「わぁ、一哲さんの写真だ......」ってなるんですよね。

ただ今回の写真集は、1年の間にテスト含め5回ほど撮影を行なったのですが、毎回、顔を突き合わせて撮影データの確認をさせていただけたのはスゴくありがたいことだなと思いました。お茶したり、談笑したり。その中で「この写真、良いね」「次はもっとこうしてみよう」なんて話をして。その時間もまた、とても楽しかったんですよね。

松岡 今どき、データのやり取りはメールやLINEで事足りるだろうし、わざわざ呼び出されて面倒だと感じる人もいるかもしれませんが、そういう細かいやりとりは大事にするようにしています。

そもそも僕は、基本的にフィルムカメラで撮影をしているので、現場ですぐに撮影データを見せてあげられない。でも、撮られる側はどんなふうに撮られているのか、当然気になっているはずですよね。これくらいのことは当たり前に、やらなきゃいけないことだと思っています。

あにお 今までそんなふうにデータを見させていただいた経験がなかったから、スゴくうれしかったんです。都度、写真を見させていただいたおかげで、どんどん身を委ねながら撮影に臨むことができました。

本作は、ほぼ時系列で写真が並んでいるので、じわじわと安心感を覚える私の様子が分かると思います。それはそれで面白いポイントかもしれません(笑)。


■裸や脇毛を見せることは、大したことじゃない

――本作であにおさんはヌードを初披露されています。そこだけを切り取ると衝撃的な出来事のようにも感じられますが、写真に写る姿は絶えず自由な印象で、ヌードの流れも全てが自然だと思いました。

あにお そう言っていただけてうれしいです。実際、裸になることに特別な意識はなくて。必要であれば脱ぐし、脱ぎたくないときは脱がない。ただそれだけのことなので、私にとってヌードは大した挑戦じゃないんですよね。

――自然な流れに感じられたのは、松岡さんの視線が良い意味でフラットなことも影響しているように思いました。あにおさんの気持ちが主体にあるからこそ、むしろ裸であることがピュアに感じられるというか。

あにお 確かに、それはあるかもしれません。撮影中、私の"オンナの部分"を引き出すために"オトコ"を見せようとされるカメラマンの方もいらっしゃるのですが、一哲さんは、そういう素振りが一切ないんですよね。きっと男性を意識することで魅力的な作品に仕上がる場合もあるんでしょうけど、私は撮影の現場で"オトコ"を見せられても正直ときめけないので(笑)、一哲さんの距離感はスゴく心地が良いんです。

松岡 自分以外の現場を知らないから何とも言えないけど、僕は、変に僕の力を加えることで被写体に色を付けたくないんですよね。そんなことをしなくても、僕が撮っている時点で、ちゃんと僕なりの写真になっている自負があるし、それで十分かなって。

それにあにおちゃんは、「私はこうだ」って、世の中に訴えたい"何か"がちゃんとあるコじゃないですか。その"何か"をあにおちゃん自身が言語化できているかどうかは分からないけど、写真に写ることで、訴えたいことを上手に表現する力を持っているから、その表情を追いかけるだけでスゴく楽しいんですよ。

あにお 言いたいこと、確かにたくさんありすぎます......。スパッと一言で言えたら良いんですけどね。

松岡 いやいや、言語化できなくても良いじゃない。あにおちゃんには、写真という表現方法があるんだし、何なら、言葉で言い切らないほうが、より多くの人にあにおちゃんの感覚を伝えられる気がするよ。

あにお ほ、本当ですか?

松岡 「何でか分からないけど、あにおちゃんのグラビアを見ると元気が出るんだ」って言われるの、最高ですよね?

あにお あぁ、それはもう最高です! 今回、一哲さんと撮影をご一緒して、やりたい表現をやりたいままにやらせてもらえた実感があるんです。それがそのままカタチになって、みなさんのもとへ届けられた。こんなにラッキーなこと、ないですよね。

私はただ、一哲さんがカメラを構える前で自然と存在していただけ。それが良いと思ったから裸にもなったし、脇毛を生やして染めたりもした。スゴく自由で、自然なことだった......。そこに、訴えたい"何か"が詰まっている気がします。

松岡 ヌードというと世間的にはトピックスかもしれないけど、それが"あにおちゃんの普通"ってことだもんね。実際、このあにおちゃんの感覚は、今回の写真集を通してちゃんと読者の人たちに伝わったと思います。スゴいことだよね。やりたいようにやったものがカタチになって、結果が出て、思いまで伝えられて。

あにお 本当ですよね......奇跡だと思います。私、間違っていなかったんだ。自分の気持ちに素直でい続けて良かった。今回、ありがたい感想をたくさんいただいたおかげで、本当の意味で自分を肯定できた気がします。とはいえ私は王道なタイプじゃないし、「やっぱり黒髪のほうが良いかな?」など細かい迷いはまだまだたくさんあります。でも、これからも、写真に映るときくらいは、自由に私らしくいたいですね。本作を通して、ハッキリそれが分かった気がします。


●あにお天湯(あにお・たゆ) 
2000年6月29日生まれ 岐阜県出身 
趣味=絵と文章  
〇ミスiD2019(サバイバル賞)の受賞を機に被写体活動を開始。昨年、2年間所属した芸能事務所を退所。以後はフリーで写真表現を続けている 
公式Twitter【@mayonez_Tayu】 
公式Instagram【@aniotayu】 

●松岡一哲(まつおか・いってつ) 
〇1978年、岐阜県出身。ポートレートやファッションを中心に、写真家として活躍中。2008年から2016年までテルメギャラリーを運営 
公式Instagram【@ittetsumatsuoka】 
公式HP【https://ittetsumatsuoka.com/】 


■『月刊 あにお天湯』(講談社) ¥4,180(税込) 好評発売中! 
2023年10月14日(土)、広島PARCOにて開催される「Girl Houyhnhnm×PARCOパーティーツアー」にキュレーターとして登場します。会場にて本作を購入いただいた方には、その場で本人がサイン入れ。また、広島県出身の漫画家・不吉霊二(ふきつ・れいじ)さんとのコラボアイテムの販売、あにお天湯さんによりフリマやチェキ販売も。詳細はコチラをチェック!

☆あにお天湯のグラジャパ!プロフィール