令和仮面ライダー第5弾作品として早くも話題の『仮面ライダーガッチャード』。番組の方向性を築いたパイロット監督・田﨑竜太氏と、東映特撮の新進気鋭のプロデューサー・湊 陽祐氏にその制作の背景を聞いた。
■子供の頃に感じた「面白い!」を今に!
――『仮面ライダーガッチャード』の放送が、9月からスタート。今作は、どんなアイデアから生まれたんでしょう?
湊 最初に田﨑監督と話したのは昨年の秋頃ですか。『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の撮影現場で話したんですけど(注:湊氏はアシスタントプロデューサー、田﨑氏は監督として同作に参加)、まだほとんどアイデアがなく、変身アイテムはカードかなということぐらい。
ただ、前作の『仮面ライダーギーツ』の主人公は、すべてを知る最強のキャラだったので、今作はピュアな主人公が、ゼロから仮面ライダーになっていくストーリーにしたいとは思っていました。
田﨑 ゼロから仮面ライダーになるということは、ヒーロー誕生譚(たん)から物語を始めるということ。何もない男の子がライダーの力を得る過程を見せるのは、最初に謎の種明かしをしてしまうことなので、設定に細心の注意が必要で難しいんです。でも湊さんが「ゼロから」と言うので、そこは覚悟しましたよ。
湊 「ゼロから」と思ったもうひとつの理由には、今作は僕が初めてチーフプロデューサーを務める作品だということも関係しています。「初めてだからダメダメなところもあるだろうけど、周りの人たちにアドバイスをもらいながら、壁を乗り越えていくぞ!」という決意があって。
ゼロから仮面ライダーになっていく主人公に自分を重ね合わせたい、そこに自分も共感したいという、願いのような思いもあったんです。
――すでに、さまざまな反響が届いているかと思います。
田﨑 いろんな声がありますけど、「子供向けにシフトした」という声は多かったです。
――明るくて楽しくて、何よりわかりやすいですよね。
湊 それは、僕の中に明るい作品にしたいという思いがあったことも大きいと思います。主人公を取り巻く環境は優しいんだけど、そこに迫る闇もある。その闇の中で、主人公が毎週活躍する、青春ジュブナイルにしたかった。
僕が育った時代って、そういう特撮ヒーロー番組やアニメが多かったんですよね。底抜けに明るい主人公がいて、個性的な仲間がいて、力を合わせて敵と戦う。わかりやすくたとえると、『ONE PIECE』や『NARUTO』。
ややマニアックかもしれない作品だと、特撮の『超光戦士シャンゼリオン』やアニメの『勇者指令ダグオン』。それらを見て感じたワクワク感、ときめきを今回はなるべく取り入れたかった。
自分と同じ世代の親が子供と一緒に見る番組だと考えたときに、だったら子供の頃の自分が面白いと思ったものを作ったほうがいいなという思いがあったので。
とはいえ、僕はアニメの『ONE PIECE』や『NARUTO』の前後にスタートした『仮面ライダーアギト』から仮面ライダーシリーズにハマったので、いわゆる平成ライダー的ダークな世界観も大好きなんですけどね。
――そうした湊Pの狙いを、監督はどう汲(く)み取って、作品に落とし込んでいったんですか?
田﨑 主人公の取りえはとにかく明るいという方向になって、そこに主人公の一ノ瀬宝太郎(ほうたろう)を演じる本島純政(もとじま・じゅんせい)君がハマった。撮影現場でみんなから「かわいい!」と言われるほど好青年の彼とオーディションで出会ったことは大きいです。それで十分イケると思いました。
■高校生錬金術師が現実と非現実を行き来!
――ガッチャードは、人工生命体の"ケミー"が封印された"ライドケミーカード"をベルトに装填して変身します。
湊 当初のケミーは、もっとメカメカしいデザインだったんですが、生き物という方向性が生まれてきて。そこから「もっとかわいくして!」って、ギリギリでデザインを修正してもらいました。
――主人公たちは、高校に通いながら錬金アカデミーで錬金術を学んでいます。
田﨑 錬金術は湊さんから出たアイデアなんですけど、錬金術の学校は今までのライダーにない新しい要素だから、自然と「ガッチャードらしさ」になりますよね。アカデミーの仲間たちも錬金術を使えるから、ガッチャードがピンチのときは彼を錬金術で助けることもできる。
変身するヒーローと、変身しないけど一緒に戦う仲間たち。構造的にはウルトラマンと科学特捜隊の関係と思いつつ、その構造によって、これまでの仮面ライダーにはない、新しい作品になっていくはずだと思っています。
湊 高校という日常と、錬金アカデミーや錬金術を使える世界という非日常。そのふたつの世界を行ったり来たりする。そして、非日常の世界での経験によって主人公たちが成長していく。『ガッチャード』は、そういう物語だと思います。
■遠くない未来には女性ライダーが主人公!?
――『ガッチャード』は令和5作目の仮面ライダー。そろそろ令和ライダーなんて呼び方が定着しつつある気がします。平成ライダーと比較したとき、違いはどこにあると思いますか?
田﨑 そもそも、制作する側は年号をまったく意識していないですけどね(笑)。ただ、令和になってからの作品には全部、メインキャラクターとして女性ライダーが登場しています。これは、令和ライダーの共通した特徴のひとつかもしれない。
湊 ジェンダーレスという時代の流れを汲みつつ、現在は『仮面ライダー』シリーズの放送時間帯が『プリキュア』シリーズのすぐ後になっているので、そこには女児のファンをつかみたい、離したくないという狙いもありますね。
田﨑 そういう意味では『ガッチャード』はシリーズ史上歴代1位の女性レギュラー数だと思いますよ。
――確かに多いですよね。敵にも暗躍する"冥黒の三姉妹"がいますし。
田﨑 だから、女のコにも見てほしいですよね。
湊 ヒロインの九堂(くどう)りんねを演じている松本麗世(れいよ)さんとか、今作をきっかけに人気が出てほしいです。まだ原石ですが、すごく光るものを持っているので。
――あと何年後かには、女性ライダーが主役になる日が来ると思う視聴者もいると思いますが、ズバリ! いかがでしょう?
湊 今回の企画会議でも、議題になりましたよ。「主人公が女性の仮面ライダーは、ありだと思いますか?」って。
田﨑 アメリカには女性が主人公のヒーローものはあるし、LGBTQのヒーローだって誕生している。そんなに遠くない未来に、女性が主人公の『仮面ライダー』シリーズが作られる可能性は高いんじゃないですかね。あと、アメリカのマーベルやDCとか、実写の変身ヒーロー作品が昔に比べて世界的に増えていますよね。
湊 全世界の変身ヒーロー作品がNetflixやPrime Videoなどのサブスクリプションサービスでも見られる時代にもなっていますよね。
田﨑 われわれもテレビ放送だけでなく、同じサブスクの土俵TTFC(東映特撮ファンクラブ。東映特撮作品に特化したサブスクリプションサービス)をやっているわけだから、やはり今の時代、どう戦っていくか考えなくちゃいけない。
その中で仮面ライダーは、メインの視聴者は子供だという軸足は変えずに、どうマーベルやDCに対してケンカを売っていくか。変身ヒーローが世界にあふれかえっている令和のライダーだからこそ、その発想は必要なことですよね。
――平成と令和のライダーの違いの話をしましたが、『仮面ライダー』シリーズは2021年に50周年を迎え、昭和・平成・令和と愛され続けています。その理由は、どこにあると思いますか?
田﨑 やっぱり、変身するというのは、大きいのかもしれないですね。変身願望は誰しもあるというか、ある種の社会にみんな属しているわけで、そのヒエラルキーの中で上と下にいる人では、世界の見え方も違うでしょう。
その中で、『仮面ライダー』のメインターゲットである子供は、人間社会全体のヒエラルキーで下のほうにいますから。身近なところではお母さんに怒られたりもするでしょうし、本能的にもっと強くなりたいと思っているはず。変身する仮面ライダーが子供に刺さるのは、そういうところなのかなって気がします。
湊 監督がおっしゃったことは、非常に核心を突いているなと思います。その中で、どうして平成以降の仮面ライダーの人気が出たかっていうと、やっぱり前年の作品を超えていこうという、ギラギラとした執念のような気持ちが、スタッフ全員に毎年毎年あふれていたから。
今作『ガッチャード』も同じように感じます。それこそ僕自身、チーフプロデューサーになってから、以前は『ギーツ』をフラットに楽しんでいたのに、ライバル意識を持つようになりました。前までと違うものを作らないと、意味がない。50年たとうが、年号が変わろうが愛され続ける熱量を生む原動力はそこにあると思っています。
●田﨑竜太(たさき・りゅうた)
1964年生まれ。87年『仮面ライダーBLACK』に助監督として関わり、95年『超力戦隊オーレンジャー』で監督デビュー。仮面ライダーシリーズでは歴代最多メイン監督として知られる
●湊 陽祐(みなと・ようすけ)
1988年生まれ。マッドハウスでアニメの制作担当を経て、東映に入社。2019年『仮面ライダーゼロワン』のアシスタントプロデューサーを経て、本作で初のチーフプロデューサーに就任
■『仮面ライダーガッチャード』
人工生命体・ケミーと出会った高校生の一ノ瀬宝太郎が、仮面ライダーガッチャードに変身。錬金術を学びながら、解放されたケミーたちと友達になるため奮闘する。毎週日曜午前9時よりテレビ朝日系で放送中