日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 「人類 vs AI」の果てのない戦争を描くSF超大作と、監督ロバート・ロドリゲス×主演ベン・アフレックのタッグ作!
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『ザ・クリエイター/創造者』
評点:★2.5点(5点満点)
植民地主義的な「エキゾチシズム」が全開
アイ・キャンディとしてのレベルは高い。というか、アイ・キャンディとしての強度だけで一点突破を試みた映画のように見える。多くのブロックバスター映画は得てしてそういうものだ、というある種の諦念を前提する限り、本作は求められた役割を見事に果たしているといえるだろう。
気になるのはビジュアル、ストーリーともに既視感ばかりが募るところで、ことオリジナリティという意味ではおおいに不満が残る。
残留意識とコミュニケーションするためのマシンや超巨大未来戦車などいくつか目新しいガジェットは登場するのだが、物語上たいした機能を果たしていないのはいかにも残念だ。
また「猥雑(わいざつ)さと神秘とハイテクが同居する近未来のアジア」というクリシェにまみれたイメージがしつこいまでに繰り返される点についてはもっと批判されてしかるべきだろう。
そのような、きわめて植民地主義的な「エキゾチシズム」は、(どういうわけか)本作がパロディ化しているベトナム戦争時代と同じか、むしろ後退している。自動翻訳されたアジアの言語のセリフが、英語特有の下品な言い回しを丁寧に言い直したことになる、という「ギャグ」の無神経さにも愕然(がくぜん)とさせられた。
STORY:未来の世界。人類とAIの戦争が激化するなか、元特殊部隊のジョシュアは、人類を滅亡させる兵器を創り出した「クリエイター」の潜伏先を突き止め暗殺に向かうが、そこにいたのは超進化型AIの幼い少女アルフィーだった。
監督・脚本:ギャレス・エドワーズ
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、渡辺謙、ジェンマ・チャンほか
上映時間:133分
全国公開中
『ドミノ』
評点:★3.5点(5点満点)
現実感覚をぐらつかされる楽しさが満載
洗脳とマインドコントロールにまつわる物語であり、その意味で『影なき狙撃者』(1962年)のスピリットを継承する作品である。
映画は小説と異なるやり方で「別の現実」を見せるのに長(た)けたメディアなので(そもそも映画に映る「現実」自体が既に「別の現実」だ)、「何が現実で何が虚構か、登場人物も観客も分からなくなる」展開には純粋に映画的な楽しさがあり興奮させられた。
そういう面白さを見せるにあたって、どっさり予算をかけた物凄いCGで観客を圧倒する代わりに、思わず「ああっ!」と言いたくなるような工夫で現実感覚をぐらつかせるところも良い――映画を観る楽しみの大きな部分は「ああっ!」という瞬間があるかどうかにかかっているからだ。
セリフやキャラクター造形にやや幼稚な点が多く見られるのはもったいない気もするが、無理に深刻ぶったり難解ぶったりするよりはずっと好感が持てる、ということは言える。そこがロバート・ロドリゲス監督作品の魅力でもある。
ただ内容が内容なだけに、事情について説明するだけのセリフがやたらと多いのはやはり気にかかる。「説明ゼリフ」が語られている間は必然的にドラマが停滞してしまうからである。
STORY:娘が行方不明になった刑事ロークは、銀行強盗の現場に現れた男が娘の行方のカギを握っていると確信。しかし、その男は周囲の人々を操ることができる能力を持っていた。打つ手がないロークは占い師ダイアナに協力を求めるが......。
監督:ロバート・ロドリゲス
出演:ベン・アフレック、アリシー・ブラガ、J・D・パルドほか
上映時間:94分
10月27日(金)より全国公開予定
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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