センターも務めたAKB48を2020年2月に卒業した矢作萌夏が、シンガーソングライターとして10月25日にメジャーファーストEP『spilt milk』をリリースする。約3年の沈黙を破り、活動を再開させた彼女は今、何を思うのか。全7曲の作詞作曲も行い、等身大の言葉とサウンドで表現した『spilt milk』はどのようにして生まれたのか? これまでの活動も振り返りつつ、これからさらなる活躍が期待される新生・矢作萌夏の魅力を紐解いていく。
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◆AKB 48は人生でいちばん輝いていた時期
――まずは、矢作さんのこれまでを振り返りたいんですが、AKB時代を振り返ると、ソロコンサート、シングル表題曲センターなど、活動期間2年足らずでさまざまなことを経験されたと思います。正直、このままアイドルとして確固たる地位まで上り詰めると勝手に思っていました。
矢作 本当ですか!? でも、そう言っていただけて嬉しいです。
――AKB 48での2年間は矢作さんにとってどんな2年間でしたか?
矢作 振り返ってみると本当にあっという間でしたけど、私を作り上げてくれた最高の経験ができた2年間だったと思います。人生でいちばん輝いていたと言っても過言ではない時期。もちろん、今も輝いていたいけど、矢作萌夏を形成した大事な時期だったなと。
――特に印象に残っている出来事はありますか?
矢作 全てが印象深い出来事でしたけど、やっぱり研究生時代にソロコンサートを開催できたことが嬉しかったです。ママと泣きながら電話したのを覚えています(笑)。
――確かに、それは2年間の活動の中では大きなトピックですよね。
矢作 当時は高校生ながらセットリストも衣装も演出も全て自分で決めましたからね。これは今でも誇りです!
――矢作さんは、AKB時代に自己プロデュース能力を先輩たちに褒められていましたよね。だからこそ、ソロコンサートもこなすことができたのかなって。
矢作 懐かしい! そうですね、褒めていただいていました。今考えると、ただこだわりが強いだけだったんですけどね(笑)。
――輝かしいアイドル時代だったと思いますけど、わずか2年での卒業を決意したキッカケは何かあったんですか?
矢作 うーん、なんでだろう? でも、「普通の女の子に戻って」というのが大きいかもしれないです。引き止めていただいたんですけど、私の意志が固かったので。自分の中で今後の人生のことを考えていたんだと思います。高校生ながらあのタイミングで区切りをつけたかったのかな。
◆詞や曲を書くなんて天才がやること
――なるほど。そこから今回、シンガーソングライターとしてデビューするわけですけど、再び歌おうと決意したきっかけは?
矢作 本当に芸能界を辞めるつもりでしたし、自分は中途半端なものが嫌いな性格で、区切りをつけたいと考えていたときに、「AKB48グループ歌唱力No.1決定戦」の第2回大会で審査員に来てくださっていた井上ヨシマサ先生と黒沢薫(ゴスペラーズ)さんから「音楽は絶対続けたほうがいい」と助言をいただいたんです。そこからヨシマサ先生に機材をお譲りいただいたり、楽器の相談に乗っていただいたり、曲の作り方を教えていただいたりして。そこから、また音楽が身近なものになっていったんです。
――じゃあ、それまで作詞作曲はしたことがなかった?
矢作 そうです。それまでは詞や曲を書くなんて天才がやることだと思っていたし、アイドルっていただいた曲を自分なりに表現する活動だったので、自分で書くことになるなんて想像もしてなかったです。
――てっきりアイドル活動と並行してやっていたものかと思っていました。
矢作 全然! やってないです!
――そう思ったのは、矢作さんのTikTokの投稿を拝見して、2021年の段階でかなり完成度の高い曲をアップされていたからなんですけど。
矢作 2年くらい前は、右も左も分からない状態で頑張ってましたね。本当に、「曲ってどうやって作るんですか?」状態でしたよ(笑)。でも、ずっと音楽は好きだったからボキャブラリーというか、聴いている音楽が多すぎたのもあってアイディアの引き出しは結構多い方かなって思います。だから、1度やり方を覚えたら曲はポンポンと生まれてはいました。
――なるほど。じゃあ、作詞作曲を始めるにあたりロールモデルにした人とか、憧れのアーティストはいたりしますか?
矢作 うーん、幅広く音楽は聴くんですけど、PUNPEEさんが大好き。北海道まで公演を観に遠征しちゃうくらいで(笑)。アレンジ力というんですかね、めちゃくちゃ可愛い音を使ってるじゃないですか。「タイムマシーンにのって」という曲があるんですけど、最初に聴いたときは衝撃でした! どこにこんな素材が落ちてるんだろうって。私、アレンジがかわいい人が好きなんです。歌詞やメロディーよりアレンジに注目しちゃう。
――じゃあ、これから打ち込みゴリゴリの曲もやってみたいとか?
矢作 それはやりたいですね! 今回のEPに「夏のソーダ」って曲があるんですけど、編曲の時、サビ前に氷の音を入れたんですよ。その案がちゃんと通って嬉しかった(笑)。
――いいですね(笑)。
矢作 でも、幼少期は両親が聴くマイケル・ジャクソンだったり、もんたよしのりさんだったりを聴いてました。あとはK-POPも聴くし、洋楽も聴くし。打ち込みの方が好きだけど、生っぽいアレンジもめっちゃ好きです。アレンジ大好き女だと思います(笑)。
◆地方の旅館で住み込みで働いてた時期もあった
――活動再開までの3年間は、もちろん制作もしながら、同時にいろんなことを考える期間だったと思います。矢作さんにとってどんな3年間でしたか?
矢作 自分にとって成長した3年間だったと思いますね。ファンの方に姿を見せてなかったので、中途半端な姿では戻りたくないという意地というか、成長した姿を見せたいという気持ちが常にありました。曲も作り続けていたし、社会勉強もしてたし。地方の旅館で住み込みで働いてた時期もありましたね。全然違うところに住んでみて、感性も変わって、新たな自分に出会えた。自分を見つめ直すきっかけになりました。だからすごく大事な3年間。
――3年間でどのくらい曲を作ったんですか?
矢作 自分を追い込んでいた時期でもありましたし、めちゃくちゃ作りましたよ! 破片を集めたら100曲以上あるかもしれない。
――すごい! 今回のEPの収録曲でもあり、すでに先行配信されている「Don't stop the music」という曲は、シンガーソングライターとして歩み始めた矢作さんの等身大のメッセージが表れていると思いますが、この曲は矢作さんにとってどんな楽曲ですか?
矢作 私からしたら自分に向けて書いた曲なので、あまり好きになれなかった曲でもあり、自分の嫌なところの詰め合わせみたいな歌詞でもあるんですけど、元気がないときに聞いてほしい応援ソングでもあるし、いろんな解釈をしてほしくて、あえて単純な歌詞にしたんです。リリース後にたくさんのファンの方が聞いてくれて反応してくれて、ようやく自分の中にきちんと受け入れることができた曲かなと思います。
――ファンの皆さんの反応はいかがでしたか?
矢作 やっぱり自分の曲がサブスクにあることが新鮮でしたけど、ファンのみなさんもそうだったみたいで、アー写やジャケ写をスクショしてくれたり、SNSで「元気付けられたよ」という声をいただけたりして嬉しかったですね。沈黙の3年間で思い描いてたものがいま現実になっていて、リリースしてからは浮かれることもなく、ずっとビックリしてる感じ。新鮮な毎日を送ってます。
――その「Don't stop the music」を含め、本作は表情豊かな楽曲が出そろいました。矢作さんにとってどういう1枚に仕上がりましたか?
矢作 最初はフラッシュアイディアから生まれたものもたくさんありましたけど、こういう曲にしていこうって思ってこだわり抜いて書き上げた、宝石1個1個みたいな曲たちで、それを寄せ集めたEPなので、たくさん大事に聴いていただけたら嬉しいですね。まだ実感が湧かないけど、サンプルが手に届いた時にはめちゃくちゃ感動したので。
――そんな中でも特に思い入れのある1曲を選ぶとしたら?
矢作 えー!? 選べないけど、「アンコール」かな。活動休止している時にテーマを決めて書いた曲なんですけど、ファンの皆さんにはいろんな解釈をしてほしいので、あえてそのテーマは秘密にします(笑)。聴いてみて、あなたなりに感動してほしいと思うし、あなたの情景に合わせて解釈してほしい。だからみんなの考察を聞きたいです。ちなみにこの曲は、もし武道館公演をやるならアンコールで歌うって決めてます!
――やっぱり武道館のステージには立ちたい?
矢作 はい。1人で立ってみたい。自分がかわいいうちに立ちたいって思います(笑)。
――今後挑戦してみたいことはありますか?
矢作 好奇心旺盛なので、何でもやってみたいです! 歌手だけじゃなくて楽曲提供も歌詞提供もしみたい。女優やモデルもやりたいですし、やれるものは全部やってみたいです。私の可能性を確かめたいですね。
――音楽ジャンルでいうと?
矢作 今は生のアレンジがほとんどなので、今後は打ち込みだけの楽曲も作ってみたいなと思ってます。
――PUNPEEさん好きということはラップにも興味はある?
矢作 歌いたい! やってみたいです。ゆくゆくは、矢作萌夏feat. PUNPEEさんができたらヤバくないですか!? あとは、めっちゃかわいい曲も作ってみたいし、過激な曲も好きなので攻めた曲もやりたいです。
――矢作さんは踊れるし、きっとハンドマイクでパフォーマンスもできると思うし、かなり可能性があると思いますよ。
矢作 えー、嬉しいです! 何でもチャレンジできそうですね。
――最後に、あらためて今後どんなアーティストを目指していきたいですか?
矢作 私は、ファンの方をお待たせした時間がすごく長いんです。AKBのオーディションに落ちてからもすごいお待たせたしちゃったし、そこから入って卒業して、また3年くらいお待たせたしたので。でも、もうみんなの前から離れないよって言いたい。それを約束して、ゆっくり寄り添って息の長いアーティストになっていきたいなと思います。
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■矢作萌夏(やはぎ もえか)
2002年7月5日生まれ。シンガーソングライター。2018年にドラフト3期生としてAKB48に加入。2020年2月4日に卒業。2023年7月5日、卒業後初ライブ「1st Live "Rebirth"」を行い、ソロ活動を開始した。10月25日にEP『spilt milk』をリリースし、ポニーキャニオンからメジャーデビュー。