人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが9月の『キン肉マン』連載をレビュー!人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが9月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが9月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

―今回の「先月の肉トーク」テーマ―

第429話 技巧の神に見初められていた男!!の巻(9月4日更新分)
第430話 新生ゼブラの大パンチ!!の巻(9月11日更新分)
第431話 時間超人の奥の手!!の巻(9月25日更新分)
あらすじ
キン肉マンたちがバベルの塔で超神と激闘を繰り広げていた裏で、
時間超人エル・カイト&ドミネーター組の"エル・ドミノス"vsゼブラ&マリキータマン組の"エグゾセミサイルズ"のタッグマッチが始まった。ゼブラ&マリキータマンの急造タッグの行方やいかに......

●エグゾセミサイルズの"いてまえ打線"精神

燃え殻(以下、) 9月掲載の連載3回でようやく、時間超人は何ができるのかが見えてきた。体内の時の流れを早めることで、敵の攻撃で受けた身体の傷を修復する時間を短縮できる"超回復"。

爪切男(以下、) はい。俺が闘ってる相手だったら「そりゃないぜ!」と思いますね(笑)。

 そうだよねえ。

 でもそこで、マリポーサのポジティブなこと。「持久戦に持ち込むのは得策ではないな。ならば狙うは一撃必殺!」って。プロレスの試合なのに、いきなり秒殺を求めるみたいな。

9月25日更新431話では、時間超人の超回復の一端が現れた9月25日更新431話では、時間超人の超回復の一端が現れた

 ははは、そうだね。しかし、敵から受けた傷を即座に治せるっていうの、過去のいろんなマンガであったじゃない? その中でも "超回復"って、いちばん豪快だよね。往年の近鉄バファローズの打線みたいな。

 いてまえ打線。はははは。

 8点取られたら9点取り返して勝つ、3点で抑えることを考えてない(笑)。あの感じ、『キン肉マン』っぽくて好きだったな。

 「狙うは一撃必殺!」って、それが急造コンビだから、またいいんですよね。長年の熟練コンビだったらわかるけど、今組んだばかりのヤツらに、マッスル・ドッキング級の何かをしろ、っていうエグいことを、マリポーサは言ってるわけだから。

 しかも、重量感のある技を繰り出しそうなふたりではないじゃない? 難題がすぎる。

 ねえ。あと、429話で描かれた最初のハイライトは、時間超人タッグの「キャタラクトカッター」で、マリキータマンが石のキャンバスに叩きつけられるところを、ゼブラが下敷きになって救う。

ゼブラが身を挺して、マリキータマンを守った直後。借りはつくりたくないとは言っているが確かな連携がみえてくるゼブラが身を挺して、マリキータマンを守った直後。借りはつくりたくないとは言っているが確かな連携がみえてくる

 そう、急造ながら、だんだんタッグとしての助け合いが生まれてくる。

 『キン肉マン』にたまに発生する、BL的なノリになってますよね。ゼブラが「お前とならこの先も楽しい試合ができそうだ」って言いながら、右手でマリキータマンの頬に触れるのとか。

 ああ、確かにBLっぽいな。

 ゆでたまご先生は意識してないかもしれないけど。BLっぽくもあるし、俺の中では『花より男子』っぽくもある。松潤が井上真央に心を開き始めた瞬間みたいな。

 はははは。

 こうなるとやっぱり、ゼブラの株がどんどん上がりますよね。マリポーサと組めると思ったのにかつて土をつけられたマリキータマンとタッグいう流れになって、最初は抵抗したけど、すぐにマリキータマンを好きになって、こうしてがんばっている。

 そうだねえ。

 そうなってからのゼブラの言動、ずっとかっこいいもんな。430話でもマリキータマンを助け起こして、肩を貸しながら「言ったはず...一度認めた相棒は...必ずオレが守ると」。

 こうなってくると、ゼブラの昔のキャラがわかんなくなってくるね。こういう人だったったっけ?

 もうちょっとオラオラだった気がします。

お金がなかったために、自ら愛馬の命を絶ってまで超人としての名誉を獲得。キン肉星の王位を競う頃には莫大な財力を得て、ラーメンマン、ロビンマスクに自軍へ買収をけしかけるなど、かなり歪んだ価値観を持っていたお金がなかったために、自ら愛馬の命を絶ってまで超人としての名誉を獲得。キン肉星の王位を競う頃には莫大な財力を得て、ラーメンマン、ロビンマスクに自軍へ買収をけしかけるなど、かなり歪んだ価値観を持っていた

 昔のゼブラの試合とかを振り返りたくなるよね。この闘いを観ていると。

 そう、それも『キン肉マン』のいいところで。何かが起きると、過去を振り返って読み直したくなるんですよね。

 現実のプロレスもそうだよね、何か事件があると、昔の試合を観たくなる。

●燃え殻、爪切男流・時間超人攻略法

  (430話を読み直しながら)しかしこれ、いい試合なんだよなあ。

 そうだよね。430話に関して言うと、一進一退じゃない? ドカッと大技を食らって、でも次の回で盛り返す、とかじゃなくて、この430話の中で一進一退している。お互いの強さが、本当に均衡しているんだな、という。

 うん、それぞれツープラトンの攻撃のくらわせ合いで。でも"超回復"も、一瞬にしてすべて回復するわけじゃなくて、時間がかかるし、完璧に治るわけではない、というところがキモなんだろうな。

 そうだろうね。昔、ラーメンマンやスプリングマンが、それぞれブロッケンマン、ウルフマンの身体をバラバラにしたことがあったじゃない?

デビル・トムボーイでバラバラになるウルフマン(JC10巻)デビル・トムボーイでバラバラになるウルフマン(JC10巻)

 はい、ラーメンマンがキャメル・クラッチで、相手の胴体を真っ二つにしちゃったり。

 あそこまでやらないといけないのかな?

 ああ、ドミネーターの腕は、皮一枚でつながってたから"超回復"できたけど、切り落とされていたらできない、ということ?

 そう。昔の『キン肉マン』でたまにあった残酷試合、それこそウルフマンが肉片になるみたいな。ああいうのを狙え、ってマリポーサは言っているのかな。

 マリキータマンが「天道羽根抜刀(てんとうはねばっとう)」で、相手をものすごい細かく切り刻むとか?

 そうそう。

 でも、ミートくんがバラバラにされた時みたいに、そうなってもあとでくっつく、という展開もあるかも(笑)。

 あと、ゼブラもマリキータマンも、もうさんざん攻撃を受けて、傷だらけだしねえ。

 うん、そういう意味でも一撃必殺を狙うしかない。

 しかもドミネーターとエル・カイト、まだ下天したばかりだしね。

 そう、だから、次の試合で出てくる時間超人は、さらに強いと予測できる。"超回復"よりもっと早く回復する"超全回復"とか。

 あり得るよね。

 あるいは逆に、正義超人も時間超人の力を使えるようになるとか......あ、フェイス・フラッシュ! これなら死んだ人を復活させるほどの力があるじゃないですか。

 あ、そうだ! そしたら、ゼブラとマリポーサは使えるんじゃない?

 マスクをめくってね。

 ここでフェイス・フラッシュを使うんだったら、ゼブラとマリポーサが出てきた意味があるよね。それだ!

●『キン肉マン』初代担当編集・中野和雄氏、逝く

 432話(10月2日更新分)の最後のページにメッセージが入っていましたが、中野和雄さんが逝去されたそうですね。

 大変残念です。

 『キン肉マン』のマンガもアニメも、中野さんというキャラクターの存在にすごく助けられていたと思うんですよね。

 うん。中野さん、『超キン肉マン展』に行った時、遠めでお見かけしたよね。

 ああ、いらっしゃいましたよね。

 普通にお元気そうで、「あ、中野さんだ!」と思ったけどなあ......。

 『キン肉マン』の最終回を読まずに亡くなってしまった、と思うと残念ですね。

 そうだね。でも、たとえば鳥山明先生も、担当の編集者を出していたじゃない?

 ああ、ドクター・マシリト。

 そういう、編集者がモデルになったキャラがマンガ界に何人かいる中で、中野さんってその究極の存在だよね、みんなが知ってる。

 あの時代じゃなかったらできなかったでしょうね、「アデランスの中野さん」というキャラは。すごいネーミングセンスだと思う。

 (笑)そうだね。今だったらダメかもね。

 特にアニメの「アデランスの中野さん」と与作さんは、ほんとによかったな。中野さん、まだ77歳だったそうで。

 そうか。うちの父親と同じくらいだ。

 神谷明さん、串田アキラさんと同い歳だそうです。でも、あの432話の最後の追悼メッセージ、最後は「『キン肉マン』の試合の客席には"アデランスの中野さん"がいないと締まりません。中野さん、また試合が始まりますよ!」だったから──。

 そうか、マンガには今後も中野さん、出てくるんだね。

 これからさらにうれしくなるでしょうね、中野さんが出てくるとね。

 確かにね。やっぱり出てきてほしいもんね。しかし、ゆでたまご先生が高校生の頃に、その才能を見出したっていうのがすごいよね。

 それで、おふたりの親を説得しに、大阪まで来たっていう。

 編集者として深すぎるよ、愛が。

 きっと、高校を出たら大阪から出てこさせるほど、光るものがあったんでしょうね。

 赤塚賞の落選原稿の中から『キン肉マン』を見つけて、「次もがんばりなさいよ」って電話したことから始まったんだってね。

 すごいなあ。で、それが嘘じゃない、っていうのがいいですよね。その言葉を信じてがんばっていたら、大阪まで親を説得しに来てくれたり。僕らみたいな作家に、編集者がそんなことをしてくれるのって、1冊目だけですよね?

 いや、1冊目でもしてくれないよ(笑)。あと、おふたりがまだ高校生だったから、というのも大きかったのかな。それこそ、東京でのアパートまで見つけてあげたそうだし。

 もう東京のお父さんじゃないですか。

 だよねえ。で、中井先生はずっと集英社の執筆部屋にこもって描いていて、中野さんたちやジャンプの他の編集者、言ったらちょっと年上のお兄さんたちが、ごはんを食べに連れて行く、みたいな数年間だったんだって。

 はあー......そうやって、中野さんが発掘して育てたこのマンガが、中野さんが天国に行かれた後もまだまだ続くんだな、と思うとね。

 いや、ほんと、すごいことだよね。

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は8月2日発売予定の『ブルー ハワイ』(新潮社)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで配信中。ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演:阿部寛)が10月13日(金)深夜24時52分より、テレビ東京「ドラマ25」枠にて放送中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中