日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 北野武監督が挑む「本能寺の変」映画&ロサンゼルスの怪奇現象にとらわれたふたりの男の物語!

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『首』

評点:★3点(5点満点)

©2023 KADOKAWA ©T.N GON Co.,Ltd.©2023 KADOKAWA ©T.N GON Co.,Ltd.

「モンド的」で「メタ」な「時代劇」

モンド的な視点を多分に取り込んだ、血まみれでスラップスティック味の高い、一種のメタ「時代劇」である。

「モンド的」で「メタ」であることによって、安土桃山時代の習俗や残酷を近代の目線で対象化し、残酷や「野蛮」をギャグにすることが可能になっているが、言うまでもなく作り手が「日本人」であることがその自由を担保している。

このことは例えば、アメリカ先住民の「野蛮で残酷な」習俗を白人監督が無神経に「ギャグ」として描けない現状を考えればわかりやすい。

本作は一種の「グランドホテル形式」で、出自も階層も異なる多彩な登場人物の群像劇でもあり、そのことが作品世界に広がりを与えているのだが、武士たちが非常にきめ細やかに描き分けられている一方、庶民の描き方はやや一面的にすぎるように感じられる。

スラップスティック的なユーモアは可お笑かしく、思わず吹き出してしまうところも多々あるが、一部を除き流血・残酷描写があまりギャグとして成立していないのは残念。また「世代」なのか「照れ」なのかはわからないが、衆道(男色)を表現するにあたって、恋慕感情を「ギャグ」として描いた部分にはどうしても引っかかりを覚えざるを得ない。

STORY:天下統一を目指す織田信長に対して家臣・荒木村重が謀反を起こし姿を消す。信長は明智光秀や羽柴秀吉ら家臣たちを集め、自身の跡目相続をエサに村重の捜索命令を下す。だが、秀吉は騒動に乗じて、自ら天下を獲る策を練っていた。

監督・脚本・編集:北野 武
出演:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童ほか
上映時間:131分

全国公開中

『サムシング・イン・ザ・ダート』

評点:★3.5点(5点満点)

© 2021 Rustic Films© 2021 Rustic Films

どうしようもない人生に「意味」は与えられるのか

華やかな夢と虚飾の街ロサンゼルスは、一方で諦めと絶望の街でもある。

それが確固としたものであろうと、ぼんやりとしていようと、何かしらの「夢」を抱いてロサンゼルスにやってきた人々のほとんどはある日、生活に追われて暮らす中で自分の「夢」がとうの昔に砕け散ってしまったことに気づく。

でももし、自分の住む貧乏アパートのリビングで、説明のつかない超常現象が起きたら? それが宇宙それ自体とも関わりのある異常現象で、さらにロサンゼルスという街自体のオリジンとも繋つながっていたとしたら? 

本作では、同じアパートに暮らすふたりの「ルーザー」がそこに最後の「夢」を見出す。それがどうしようもない人生に「意味」を与えてくれるのではないかと期待し、また自分たちが何らかの「謎」を解明できるかもしれないと思ったからである(ついでにドキュメンタリーを撮ったらカネになるのではないかとも考えた)。

疑似科学と陰謀論が優しく手招きしていることを彼らがそれなりにわかっている、という事実が切ない。「俺の人生は生まれた瞬間、飛行機から突き落とされたのと一緒だ。ただただずっと落下し続けているだけなんだ」。その先には何もないのである。

STORY:米ロサンゼルス近郊のアパートに引っ越してきたリーヴァイは、隣人のジョンと意気投合。ある日、ふたりはリーヴァイの部屋で浮遊する結晶体を目撃する。彼らはこの現象を証明するドキュメンタリー映画を製作して一獲千金を狙う。

監督・製作・編集・出演:ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッド
上映時間:116分

新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru